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心揺さぶる系百合漫画(シリアスめ・非コメディ)リスト

『終電にはかえします』と一緒に読みたい百合漫画

ある方から、百合漫画についてこんな話を伺いました。

「『終電にはかえします』や『綺譚花物語』を読んで百合に興味を持ち、それからいくつか百合漫画を読んでみたのですが、どうも同じような感銘が得られないのです……」

百合作品にはギャグ・日常系・エロ・ファンタジーやSF・歴史物・シリアス系……さまざまなジャンルがありますよね。そして百合漫画の場合、コメディがかなり多いと思いませんか?

『終電にはかえします』と『綺譚花物語』は、コメディ的な部分も多少あれど、そこがメインの作品ではありません。

『終電にはかえします』は雨隠ギド先生の百合短編集ですが、そこには女子が流す大粒の涙が印象的な、心を揺さぶられる作品が並んでいます。

また『綺譚花物語』は戦前台湾の少女たちの関係に、霊的存在が関わる短編集。そこには悲しみや切なさがありますが、現代の物語が最後に解放をもたらし大きな感慨を得られる構成となっています。

こういう百合作品、意外とない……?いやそんなことは……。

私は悩みながらも、その方が楽しめそうな百合漫画リストを作成しました。そしてそれをお渡ししたところ、「せっかくなので、他の方にも共有してみては?」とご提案いただいたので、

「『終電にはかえします』と一緒に読みたい、心揺さぶる系百合漫画(シリアスめ・非コメディ)」

と題した、全30作品の百合漫画リストを公開いたします。
※タイトルを『エモーショナル百合(非コメディ)リスト』から改題しました。解題の理由は最後に説明します。


1巻完結

『エビスさんとホテイさん』

オフィスが舞台の社会人百合としてはかなり古い部類(2010年)。腰掛けOLが、一般職に回ってきたキャリア女性に嫉妬しつつ意識し始める。交流のきっかけは「子育て」。

『となりのロボット』

女子高生が長年寄り添ってくれた女性型アンドロイドに恋する。一方女子高生に影響されたアンドロイドに生じる現象、それは心か、恋か、愛なのか……想像を遥かに超えるすごいものが、あくまでも淡々と描かれる。

『チヨちゃんの嫁入り』

獣耳×おねロリ(子どもを含む歳の差百合の略称)の第一人者・伊藤ハチ先生の短編集(おねロリだけではない)。理屈ではない百合感情。同作者の長編は『ご主人様と獣耳の少女メル』(3巻)をおすすめ。倫理観を試される感覚がある。

『フォーゲット・ミー・ノット』

亡き兄の恋人と再会し、恋に落ちる本作は珍しい失恋百合枠として。とにかく最後まで読んで、痛みとそれを受け止める覚悟を主人公と共有してほしい。

『君だけが光』

女性→女性の叶わぬ恋を軸に、ふしだらさや暗さの「闇」の向こうに鮮烈な印象を残す中編二編。『楽園』という雑誌は「百合」ではなく「GL」を使う。

『キミイロ少女』

『少女2』

『私の百合はお仕事です!』未幡先生の短編集。ちょうどアニメ『私の百合はお仕事です!』が話題でしたが、「わたゆりを描く先生だ」と納得の重いパンチの連打。

2巻完結

『魚の見る夢』

女子高生の姉妹百合(実姉妹)。お互いへの想いは「愛憎」と呼ぶのにふさわしい。父親との物語、二人それぞれに想いを寄せる女子の感情も強烈。総じて息苦しさを共有する作品。

『星川銀座四丁目』

伝説的おねロリ作品。生徒を毒親から匿うことで始まる二人は、相手の隣にいるために歯痒い迷走を重ねるも、きちんとした結末に安堵する。「おねロリ」ジャンルの作品は倫理的に嫌な気分を起こさせるものが少ないと感じます(無いとは言わない)。

『Lily lily rose』

双子の片割れを亡くした「魔女の家」に住む女性は、残された娘を預かる。同居人と共に娘の心を開きながら、しだいに物語は預かる女性の心の問題へとフォーカスしてゆく。ここにある百合がどんなものかは、最後まで読んでお確かめを。

3巻完結

『さよならローズガーデン』

1900年のイギリス。日本から来た住み込みメイドはお屋敷の令嬢に「殺してほしい」と請われる。同性愛に不寛容な時代が二人に暗い影を落とし、緻密で美しい絵柄でシリアスかつ切ない物語が綴られる。

『エーゲ海を渡る花たち』

十五世紀の地中海を、修道女と商家の娘が尋ね人の船旅。危険な航海を二人の機転と勇気で乗り切る、スリリングで胸躍る一風変わったバディ冒険譚。同作者の歴史冒険物として、十九世紀パリでの少女の職業体験記『河畔の街のセリーヌ』も、女性の連帯があちこちに描かれるおすすめ作品(非百合)。

『SHWD《シュード》』

戦争の後始末として生体兵器を駆除する民間会社で、新入社員の女性は誰よりも強い先輩女性と出会う。ガタイの良い女性のバディものをとことん突き詰めた百合新基軸は「精神」と「信頼」がキモ。

「猫目堂ココロ譚」シリーズ

女子との関係に悩む女子の前に現れるアンティークショップ猫目堂。そこで自分に必要なアイテムを見つけた人は、自分の心と相手を見つめてゆく。ハードな内容も多いオムニバスもの。単行本各巻には「百合心中」「少女薄明」「恋愛彼岸」というタイトルがつく。

『ハーモニー』

生体データが管理される社会で、それに抗う女性はかつて彼女を導いた、死んだはずの同級生の気配に気づく……という近未来的SF。世界のことより同級生への執着。小説原作だがコミカライズの絵が美しい。

『紫色のクオリア』

「人間がロボットに見える」少女を理解し受け止める親友は、彼女の死を阻止するためにあらゆる並行世界のトライアルを同時展開する、というかなり難解なSF。あまりにも険しい道ととんでもない規模の「愛」に打ちのめされる。原作小説あり。

5巻完結

『彼女とカメラと彼女の季節』

女子高生が好きになったのは写真好きなクラスメイト女子。しかし彼女には好きな男子が……しかもその男子に自分が好かれてしまうという完全三角関係に。強過ぎる恋情に悶え苦しむ名作。

『オハナホロホロ』

女性二人+男性一人でなぜか小さな男の子を養育している、という不思議な子育て作品は、女性二人の関係、男の子の謎、男性の謎へとフォーカス。家族の形を考える作品として。

完結長編

『オクターヴ』(6巻)

元売れないアイドルの女性が作曲家の女性と恋に落ちる。自己承認欲求が満たされない元アイドルの、ほんの数コマで心が揺れてしまう表現がすごく、その局地の「男と寝る」シーンは物議を醸す。現実的な不安を二人で乗り越える様は、夢見る頃を過ぎた大人にこそ読んでほしい。

『青い花』(8巻)

百合黎明期に、レズビアンを自認してぶれずに進む一人の女子の、苦悩も喜びもしっかり描いた作品。「恋がわからない」主人公女子の苦悩、そして「王子様」の苦悩と、さまざまな点で今の百合作品を先取りしている。

『やがて君になる』(8巻)

「恋がわからない」生徒会長と後輩が出会ったら生徒会長が恋しちゃう。生徒会長が背負って来た「役割」が演劇を通じて、二人と周囲の関係の中で解放される様子に胸が熱くなる。

『ささめきこと』(9巻)

コメディ的な部分も多いが、レズビアンの高校生二人とその周囲の人々、その誰もが人を傷つける可能性があること、そしてそういう人の悪さと悪くなさを丁寧に描いた超重要作。その視点は今読んでも変わらずに、鋭く優しい。

連載中

『かいじゅう色の島』

島に逃げて来たぼっち少女と、島のぼっち少女の交流は一足飛びに……!島の不思議現象と、不器用な二人の接近が美しく描かれる。

『踊り場にスカートが鳴る』

社交ダンス部を舞台に、求められる役割に抗い「なりたい自分」を目指す先輩後輩ペアの奮闘を描く。性役割・外見イメージと内面の葛藤、その克服への道のりが、これでもかと詰め込まれる。

『メジロバナの咲く』

寄宿舎、ミステリアスな先輩にはねっかえり娘という、百合としては定番な形のはずなのに、美しい描線でフェミニズム的視点もちりばめて描かれ気づけばすっかり虜という凄い作品。

『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花』

互いの「心の恥部」を見せ合う関係は強い。白昼夢のような絵柄で綴られる、飲酒場面での印象的なやり取りとそこにある恋愛感情にクラクラする大学寮物語。

『雨夜の月』

聴覚障害を持つ女子高生に丁寧に寄り添い、信頼されてゆくクラスメイトの主人公。その人固有の特性がある事を丁寧に描く一方で、彼女に熱心に関わる主人公の理由は間違いなく百合。

『作りたい女と食べたい女』

「食」を起点に女性のモヤモヤや葛藤、辛さにフォーカスする本作は、一人の女性がレズビアンを自認するまでを優しく描く作品でもある。読者への配慮がすごい。NHKのドラマから入るのもあり。

『付き合ってあげてもいいかな』

別れた女性同士のカップルの「その後」を丹念に描く作品。舞台が大学の軽音サークルで、やりとりや人物描写に生々しさがあり、大学時代を思い出して複雑な気分になる。

『私の百合はお仕事です!』

女学園の給仕室がコンセプトのカフェを舞台に、ひねくれた恋愛観の衝突を描き、可愛い絵柄で毎巻修羅場な怪作。12巻を過ぎても着地点は見えず混迷を極める。

根本的な部分に訴える。

いかがでしょうか。ご存知の作品も多いと思いますが、新たな発見はございましたか?

当リストの作品には共通して、

シリアスめのドラマと強い感情、そして
価値観や倫理観など「根本的な部分」に訴える

内容があると思います。いずれも素晴らしい物語であることは保証します。気になる作品を見つけられましたら幸いです。

(このリストを見て「自分ならこれを入れたい」という意見表明、話し合いはどんどんなさってください。ですがこのリストは「ある方におすすめしたものをおすそわけ」という性格のものですので、「リストにこれを入れろ」というご要望はご容赦ください)

※文章発表当初、タイトルを「エモーショナル百合(非コメディ)リスト」としておりました。
同性愛の物語を「消費」することについては、たとえ読書の本質に「消費」があるとしても、それを安易に表明することで傷つく人がいることには注意が必要です。
発表当初からそのことは意識しており、タイトルおよび文中では「エモい」等の軽い略称を使わず「エモーショナル」とし、その他の文言でもなるべく消費的な表現は避けるようにしておりました。
しかし、このリストが百合初心者の方に読まれた時、中にはこのタイトルを略して「エモい、エモい」と連呼する方が出て来かねないという懸念が心の中に生じてまいりました。
そこで文章中から「エモーショナル」という文言を全て削除することにしました。タイトルの伝えるものは多少ぼやけるのかもしれません。それでも、安易な「エモ消費」に加担することはなるべく避けたいと思い、上記措置を取りましたこと、ご報告申し上げます。

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