沖縄県の高校運動部主将の自死事件に関する第三者委員会の調査報告書の内容と報道まとめ
※2024年3月24日に追記:2021年7月の県議会文教厚生委員会の決議へのリンク
※2024年3月26日に追記:2024年3月26日のRBC NEWSの放送
※2024年3月27日に追記:「令和3年1月沖縄県立高等学校生徒の自死事案に関する第三者再調査委員会報告書概要版」へのリンク
0. はじめに
2024年3月22日に、沖縄県の高校運動部主将の自死事件に関する第三者委員会の調査報告書が提出された。そこで、本稿では、この事件の概要と調査報告書の要点、そして報道のリンク集としてまとめておく。
現在の報道は調査報告書の内容に特化したものになっているが、問題が起きてから再調査を行い報告書が出されるまで3年が経っているため、それ以外の情報も含めて情報を集約しておくほうが今後の対応を注視するために重要だと考え、本稿を執筆した。
報告書を読みながら(若干ではあるが筆者の考えを書いているところもあるが)、現段階では、まず事実の把握が重要であると考え、基本的には目次や報道の動向を押さえつつ、筆者が重要だと思った箇所を抜書きしている。
筆者は、外部の人間である。そして、遺族や支援者たちが諦めず、新たに第三者委員会を設置させ再調査を行わせたというこれまでの活動に対して敬意を抱いている。また、第三者委員会の調査報告書の丁寧な記述にも調査者の真摯な態度が示されていると感じている。ゆえに、これらの活動を重要なものだと考える立場である。
(2024年3月27日追記)以下のリンクが「令和3年1月沖縄県立高等学校生徒の自死事案に関する第三者再調査委員会報告書概要版」をダウンロードできるURLである。
1. 問題の概要
2021年1月、沖縄県立高校2年生で、運動部主将であった男子生徒が自死した。その翌月2月に、当該高校からの報告書が提出された。そして、3月に教育委員会による調査結果が公表された。
しかし、それらの調査や報告書は不十分だとして、遺族と、遺族を支援し、この問題を提起し続けた支援者たちの再調査を求める声により、2021年7月の県議会文教厚生委員会の決議を経て、第三者委員会による再調査が行われることになった。
また、高校名や部活動名の報道には明示してるところとそうではないところがある。ここでは慎重さを優先して書かないことにした。
2021年7月の県議会文教厚生委員会の決議へのリンク(2024年3月24日に追記しました)
上のリンクの令和3年第4回議会(6月定例会)閉会中の2つのPDFを参照してください。下記2つです。
県立高校生自死事案について全容解明のための再調査等を求める決議の提 出について(沖縄県議会、「文教厚生委員会記録<第2号>令和3年第4回沖縄県議会(6月定例会)閉会中」令和3年7月20日.(https://www.pref.okinawa.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/021/168/bunkour030720-2.pdf)
議題1で「参考人からの意見聴取について(陳情第118号児童生徒の自殺または自殺が疑われる死亡事案に係る詳細調査報告書の再調査を求める陳情について)」(沖縄県議会、「文教厚生委員会記録<第1号>令和3年第4回沖縄県議会(6月定例会)閉会中」令和3年7月15日(木曜日).(https://www.pref.okinawa.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/021/168/bunkour030715-1.pdf)
2021年当時の報道は、こちらの琉球新報社の記事がまとまっている。
2. 報道まとめ
ここでは報道へのリンクをまとめておく。特に、(2)RBC NEWSでは、その背景と問題点について、かなり突っ込んで取材をしている。概要把握するにはこれを見たほうが良い。
一部、報道では最初の教育委員会主導の当該調査に関わった委員からも調査期間が短すぎるとの声があがったことも報道されている(※以下、RBCNEWSでも確認できる)
2024年3月26日追記:(4)RBC NEWSの映像を追加しました。(2)と(4)をあわせてみると問題の全容がわかりやすい。
(1)NHK、「高校運動部主将の自殺で第三者委報告『パワハラ的指導も要因』」2024年3月22日.(1分39秒)
(2)RBC、「顧問のパワハラで死を選んだ高校生 3年以上たち提出された調査報告書 そこに書かれていた内容とは」2024/03/22.(8分24秒)
(3)QAB、「県立高校生徒の自死事案受け第三者再調査委が玉城知事に調査報告書」2024年3月22日.(1分24秒)
(4)RBC,「パワハラで死を選んだ男子高生 女子部員の鼻に指、ベッドに寝転ぶ不適切な顧問、対処しない学校 報告書に綴られたリアル(5分52秒)
新聞に関しては下記で適宜、挙げる。
3. 第三者委員会による調査報告書の内容
(1)第三者委員会:第1
沖縄県の公式サイトによると、第三者委員会は調査報告書の提出まで37回の会議を開いている。報告書の内容も含めて考えると、とても慎重かつ丁寧な検討会が行われたことが伺える。
(2)事実経過の把握:第2〜第4
調査報告書では、まず事実経過が記述される。ここでは、当事者の生徒と顧問のLINEでのやり取りや、当該生徒に起きた出来事、またコロナ禍という社会的背景について記されている。
ここで、筆者が重要であると感じた点は、当該生徒とのやりとりや出来事だけではなく、他の生徒達に対しても不適切な指導があったことまで突き止めている点である。そして、当該教員に対する校内での評価についても聞き取りが行われたことで、不適切な指導と校内評価のアンバランスが浮かび上がり、不適切な言動が見過ごされやすい環境が校内にあったことが明らかにされている。
次に、事案発生前の当該高校や県教育委員会の体制がどのようなものであったのかについて検証が行われている。
ここでは、特に高校の体制に不備が指摘されており、特に(報道でも取り上げられていることだが)「生徒心得に対する違反や問題行動を起こした生徒への指導にイエローカード制を導入し、不寛容な生徒指導(ゼロ・トレランス的指導方法)を行っていた」(p13)ことが指摘されている。
報告書の内容に関する要点は、琉球新報社の記事が要点を押さえている。特に、顧問と生徒との関係が「支配的主従関係」と認められることや、校内での不寛容な指導環境について取り上げられている。
琉球新報「顧問と『支配的主従関係』 再調査委員会が部活生自死で報告 不寛容な指導を指摘 沖縄」(2024年3月23日)
(3)自死に至った要因:第5
再調査の結果、顧問からの指導が要因と結論づけられている。
(4)事後対応:第6・第7
この報告書では、事前の状況把握と結論だけではなく、事後対応がどのようなものであったのかについても詳細な調査結果が記されている。その結果、事後対応にも多くの問題があったことが明らかになっている。
例えば、高校側の対応について、最初の調査報告書の作成の際に、「教職員アンケートの結果については教頭が整理していたが、顧問Xへの評価が不利となるような2名分のアンケート結果が漏れており、これに気づいた校長が指示して修正させ、改めて教育庁に報告し直した。」「再調査委員会の調査において、本件高校は、原調査委員会作成の報告書を教職員に配布した形跡があると回答しているものの、 調査報告書を読んだと答えた教職員はいない。」「本件高校は、当再調査委員会の調査におおむね適切に対応、協力していたが、本件事案に関連する書類の一部 (本件事案発生直後に顧問Xから管理職あてに、本件の経緯を記載した報告書) を当再調査委員会に提供していなかった。当該書類は校長のヒアリングの際に、その存在が明らかとなったものであった。」など、学校内での管理職(校長|教頭)の協力的な態度に差があることが指摘されている。
また、「6 生徒Aの退学届の提出依頼」の箇所では、「生徒Aの当時のホームルーム担任が、 遺族宅を訪れ、生徒Aの退学届への署名を両親に求めた。 遺族は抗議したが、翌年4月に赴任した新校長と教頭が再び退学届を持って遺族宅を訪問するということがあった。」などの事実も把握されている。
教育委員会の対応についても、教育委員会側の主張と遺族の主張に大きな乖離がいくつもあったことが指摘されている。
最後まで読んで、筆者がどうしても気になるのは、「管理監督責任者は学校長であり、教頭については懲戒処分はなされなかった」点である(p.23)。上記のように、報告書に記載のある出来事だけでも問題を感じるが、異動したら分からなくなってしまうのではないかと不安を感じた。
(5)再発防止に向けた提言:第8・第9
この箇所は、かなり細かく、第8の高校と県教育委への提言は、問題点と具体的な提言に紙幅が割かれているので、実際の文章を読んでほしい。下記に小見出しだけ書いておく。
沖縄県への提言は、具体的に2つである。「子どもの権利条例」の制定と子どもオンブズ制度の設置などの、子どもの相談・救済機関を設置することである。これらが、どのように改善するのか/しないのかを注視する必要がある。
(6)調査委員会のまとめ:第10 むすびにかえて
この箇所を多くの人に読んで欲しい。残されたひとたち、調査に協力してくれたひとたち、この生徒とともに過ごした子どもたちに対する配慮がある。とても苦しい事件の全容解明に取り組んだ第三者委員会の真摯な姿勢が現れている。
上記でも記したが、校内調査の結果として顧問の不適切な指導と校内評価のアンバランスさが明らかにされていた。こうした校内の環境に対して「生徒に不適切な関わりをする教員が、管理職に咎められることがないばかりか、高い評価がなされる学校のどこに、子どもたちが自分たちの意見が聴かれているという実感が育まれる要素があるのだろうか。」と投げかけている。
「彼とおなじ時を過ごしたみなさんへ」というパートでは、「学校の部員や生徒たち、彼をよく知るみなさんにお伝えさせてほしいこと」があるとして、「みなさんにとって彼がいなくなったこと、彼がこうやって「生徒A」として記載される調査や報告書が、あのとき自分に何ができたのかという後悔や傷みになるのではないかと、私たち委員はそのことを心配しています」と続く。「学校の生徒指導のやり方や部活動の進め方が、そもそ
もあなたたちの声を聴き取り、あなたたちが何かを発言し変えていくことを難しくするようなシステムになっていた」ということを述べ、それが「みなさんの協力で」今回明らかになったことなのだと言うことで、声をあげたことの意味を伝え、その結果として「学校や教育委員会に対して提言」を出すことが可能になったと加えている。そして、可能になった提言には、「教師たちが生徒を管理しなくてはならない存在として扱うのではなく、子どもには権利・人権があり、子どもの意見や存在を大事にしなくてはならない」という観点で作ったと安心できる材料を伝えている。この一連のメッセージが筆者はとても重要だと思う。第三者委員会の調査報告書のむすびとして読むとしても、調査委員会のひとも同じく痛みを抱えながら、この問題に向き合ったのだということが感じられた。
4. 遺族の対応と法的措置
そのため、筆者は、この判決についてもさることながら、今回の第三者委員会の調査報告書がどのように影響を与えるのかを注視し、今後の判決について考えている。
琉球新報、「『指導という名の執拗なパワハラ、認めて』部活高2自死、遺族が沖縄県を提訴 元顧問の暴言に『追い込まれた』」(2023年02月09日)。
5.おわりに
当然ながら、第三者委員会による調査報告書が沖縄県に提出され、具体的にいくつもの改善点や提言がなされたとしてもまだ終わっていないのだ。
遺族の喪失感には終わりなどないことは、私のような部外者が簡単に言及していいものではないと思ってはいるのだけれど、とても苦しい悲しい。一度でもこんなこと起きてほしくなかったし、二度と起こってほしくない。
6. 調査報告書【概要版】:沖縄タイムス社の記事
調査報告書【概要版】は、2024(令和6)年3月22日付けとなっているが、まだ沖縄県のWEBサイトではダウンロードができない。
2024年3月23日現在、一般のひとが調査報告書の詳細を確認することができるのは、沖縄タイムス社の記事となっている。沖縄タイムス社の記事では、3つの記事にまたがって概要版の内容を紹介している(下記、リンクを貼っている)。
それを読む前に、こちらの記事の前半部分で背景が説明されているので、この記事を読んでから3つの概要版を読むと状況が把握しやすいと思う。
概要版だけでなく、詳細な報告書も近日公開されると思うので引き続き注視する必要がある。
参考サイト
沖縄県、2024、「令和3年1月沖縄県立高等学校生徒の自死事案に関する第三者再調査委員会の設置」(更新日 2024年1月11日)
沖縄タイムス、2024「コザ高校・生徒自死に関する調査報告書(第三者再調査委員会、概要版)【上】」
――――、2024「コザ高校・生徒自死に関する調査報告書(第三者再調査委員会、概要版)【下】」
――――、2024「『むすびにかえて』コザ高校・生徒自死に関する調査報告書(第三者再調査委員会、概要版)【抜粋】」
琉球新報、「『指導という名の執拗なパワハラ、認めて』部活高2自死、遺族が沖縄県を提訴 元顧問の暴言に『追い込まれた』」(2023年02月09日)。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?