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「ウルトラマンが泣いている」感想

超絶ざっくりあらすじ

「円谷英二」のお孫さんで、円谷プロの6代目社長も担った円谷英明さんが語る円谷プロ破綻の歴史。

破綻の結末としては、円谷プロの資金繰りが悪化しまくった結果、TYOという会社の子会社になってしまい、その過程で円谷一族は円谷プロから一掃されてしまいます。(円谷一夫さんのみ会長職で残る。)

じゃあなんでそんな事になったのっていう話なんですが、その部分がすごい興味深いです。
では、特に興味深かったところ(円谷プロの経営の失敗)を本書から拾っていきます。

・TBSとの関係悪化

「ウルトラマン80」という作品をTBSと円谷プロ共同で作成した際に、TBS側が当時流行していた「3年B組金八先生」のような教育もののテイストを無理にねじ込んだせいでストーリーがカオスになりました。また、それに伴い「ウルトラマン80」の視聴率も振るいませんでした。
それに対して

「我々が作り、育ててきたウルトラマンを、いったいどうしてくれるのか」(P64)

と当時の円谷プロ社長皐さんが激怒。
当時のTBSの編成局長(後に社長になる)は

「おまえが作ったウルトラマンじゃないだろう」(P64)

と反論。(実際「ウルトラマン」や「ウルトラセブン」の演出は、TBSから呼び込まれた演出家の貢献がとても大きかった。)

以後、ウルトラシリーズはTBSで放映できなくなりました。

・海外進出失敗&海外進出不可


アメリカで「ウルトラマンUSA」、「ウルトラマンパワード」を展開するも振るわず、そして権利関係はほとんだハリウッド側に抑えられてしまいました。

アメリカよりこっちのほうがやばいんですが、タイのチョイヤー・プロダクションという会社に「ウルトラマン」から「ウルトラマンタロウ」までの全作品のキャラクター商品権を海外で独占的に利用する権利を円谷プロが譲渡したという契約書を盾に、チョイヤー側が権利を主張してきました。
で、裁判になるんですが、日本の裁判所とタイの裁判所で見解が違ったりしてどんどん事態が複雑になり泥沼化していきました。

結果として、ウルトラマンシリーズは気軽に海外展開ができないようになってしまいました。

・会計が甘々

もともと円谷プロは東宝のグループ会社という位置づけだったため、東宝の社員が経理の管理をしてくれていました。しかし、1992年に東宝から円谷プロが株を買い戻します。そこから東宝グループの経理チェックがなくなり、円谷プロの会計がぐちゃぐちゃになっていきます。

平成三部作にかかったお金を筆者が調査したエピソードを例にどれくらいぐちゃぐちゃか見ていきましょう。
世間的には成功と思われていた平成三部作が蓋を開けてみたらすべて赤字でした。番組ごとの収支すらとっておらず、経理の報告書と実際に掛かっていた経費の間に2000万円もの差が生まれている作品するある状態になっていました。
また、経理の管理にはパソコン・経理ソフトは導入されておらず手書きで行われていたようです。

アメリカでウルトラマンが放映された際の収入が円谷プロには一切入金されず、経営陣のファーストクラスの航空券・高級ホテルの宿泊代に消えていることも発覚しました。

・赤字を生み続けるウルトラマンランド

1996年円谷プロが熊本県にウルトラマンランドを開園します。最初は目新しさで客も多く順調に進んでいたのでしたが、3年目以降からはすべて赤字になってしまいました。しかし、誰も責任を取りたくないから閉園することができず、結局閉園できたのは2013年になってしまいました。

・ストーリーより玩具優先

「ウルトラマンティガ」に始まる平成三部作以降、大スポンサーであるバンダイの影響力が増加します。それに伴いバンダイから円谷プロへの注文が多くなります。

・「飛びもの(戦闘機)は三種類だしたい」
・ウルトラマンの彩色は子供の目を引くように派手になり、状況に応じて能力の異なる3つのタイプにチェンジするという、新しい設定が導入されました。
・クリスマス商戦が間近に迫ると、「武器や乗りものをたくさん出してくれ」といった要求がありました。
(P134,P135)

視聴者である子供は置き去りにされ、玩具をより多く売るためにウルトラマンが利用されるようになってしまいました。

雑感

ここまで円谷プロの経営のだめな部分をまとめてみました。
円谷プロを解任された後著者の円谷英明さんは中国で事業を起こそうとしますが、いろいろな障害があり失敗に終わります。

すべてを失い、借金だけが残った私は、心が折れてしまいました。(P212)

だいたいこういう本って、「昔は色々失敗したけど、今はその失敗をバネに頑張って成功したんだハハハハハ」みたいな終わりが多い気がするのですが、こんなに報われない終わり方は始めてみました。胸にしみました。

僕たちはここに書かれた円谷プロの失敗を他山の石とすることが、この本を通して、自分が味わった辛い体験を伝えてくれた円谷英明さんへの報いなのかなと思いました。

以上



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