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ツレとの時間

ツレは義妹謹製のケーキを食べるため三連休を実家で過ごす.私は諸事情により自宅待機だ.イブの夜は戻るだろうから,ご馳走でも用意して待ちたい.

私たちはこの春に結婚した.私が卒業するまで随分待たせた.ただ,学位論文を提出せずにおり,執筆時間の確保に苦慮している.秋の挙式以降,まとまった時間をとりやすくなった私は,退勤早々に食事を済ませ夜半過ぎまでの作業を繰り返した.するとツレは「これでは結婚した意味がない」と告げた.これには堪えた.私が悪い.朝に弱いツレのことを思えば,早朝に作業すればよいのだ.ツレも以前からそう提案していた.私は作業時間が夜と朝に分断されるのを嫌って夜に集中的に作業していた.

ツレはあまり言語による直接的な愛情表現をしないと思っていた.私から「好きか」と聞いて答えてもらった以外にツレが愛を囁いてくれたことは片手に数えるほどしかないと思う.作業中の私の背中に頭をぶつけてきたり,ダイニングテーブルで向かい会って話しているとおもむろに私の膝に座りなおしたり,ツレなりの愛を感じる.

ひょっとしたら鈍感な私は私好みの表現でもなければ,ツレの想いに気付けないのかも知れない.「結婚した意味がない」と言われた時には私を傷つけたいだけかと思ってしまったが,「もっと一緒の時間を楽しみたい」という言葉の裏返しだ.それからの私は,執筆に費やす時間の一部を早朝に移した.帰宅したら夕飯を用意してツレ待ち,食事を共にし,食後もダイニングに留まって雑談するようにしている.私の心変わりをツレは不思議がる.「好きだから」以外に何かあると思ったのだろうか.その言葉を引き出したかったのだろうか.私も引き出したい.



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