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やわらかい心は折れない

「あれ、もしかして、前にも来て下さった方ですよね?」

そろそろ帰ろうかと席を立ったら、声をかけられた。

たしかに前にも来たことがある。だけど店主と話したのはもう1年前のこと。きっと覚えていないだろうと思って、何も言わず静かに珈琲を飲んでいた。

覚えていてくれた。初めて来た風を装っていたのがなんだか恥ずかしい。

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総曲輪通りの商店街にひっそりとたたずむ「まめやコーヒー」。最初に訪れたのは、まだ富山に来はじめたばかりの頃だった。

リクルートを退職し、東京・富山の二拠点生活を始めますと言ったはいいものの、自分で仕事をするのは初めてだし、富山には祖父母以外に知り合いなんていない。

その時ちょうど「2019年のトレンドワードは"デュアラ―"」と言われはじめたこともあって、「いま流行りの二拠点ですね!」という反応をされることが多かった。

(流行りに乗っかったわけじゃないんだけどな…)なんて冷めた感情をぶらさげながら、どこにも属さず、住む場所も絞らず、ふわふわした生活をしている自分が中途半端に思えて、モヤモヤしていた時に立ち寄った珈琲店だった。

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たまたま店主と私の地元が近いことがわかり、盛り上がっていろいろ話を聞いてみると、どうやら店主は神奈川から移住して富山で珈琲屋をはじめたらしい。(さかのぼると、この時のこともnoteに書いていた。)


そんな彼を見て思わず、「すごいですね。私は東京にいたり富山にいたりで、正直中途半端なんですよ・・」とポロっと弱音をこぼしてしまった。

まぁそういう時期もありますよね、くらいに返されるかなと思っていたら、真剣な顔でこう言われた。

「何を弱気になってるんですか。あなたがこうして東京と富山を行き来することに価値があるんですよ。」

「あなただからこそできることが、きっとあります。」

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勇気をくれた一言だった。


* * *


そこから毎月に富山に通いつづけて、このときには想像もできなかったいろいろなお仕事をさせてもらった。


▼「泊まれる資料館」の立ち上げ

江戸時代からつづく売薬一家が住まわれた家。それをただの空き家としてお洒落に改装するのではなく、一家が暮らした思い出や記憶を紡ぐ場として残すことができないかという家の在り方を問い直したプロジェクト。

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東京でも告知イベントを開催して、富山県内の方だけでなく関東の方々にも応援いただき、クラファン支援額は当初の目標金額75万円を大幅に超えて141万円に。(ご支援のおかげで無事オープンできました。)

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【泊まれる資料館「山キ」】
https://www.sharelife-toyama.com/yamaki/


▼これからの暮らしを考える座談会

富山の素敵な女性陣(経営者、フリーランス、会社員)をゲストにお迎え。「地方での暮らしって実際どう?」を知り、「わたしたちはこれからどんな暮らしをしていく?」を考える場を企画。

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この一年間で富山でお会いして、いつか一緒にお仕事をしたい!と思っていた方々との念願がかなった瞬間だった。

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はじめて東京以外で仕事をして、苦戦したことも多かった。扱うテーマも、仕事の進め方も、関わる人もいままでとは全く違う。自分にとっての「当たり前」が通用しないことが多くて、一部のルールを世の中のルールだと勘違いしていたことに気づいた。

その反面、やったことの反響をダイレクトに肌で感じることができて、困ったときに「あの会社に問合せよう」ではなく「あの人に相談してみよう」と、人と人とでつながれる関係性はとても温かかった。


だからと言って、「二拠点生活最高!」とか「みんな地方に移住しよう」と言うつもりはない。都会に住んでいて大変なことがあるように、地方に住んでいても大変なことはある。二拠点生活は移動が面倒だし、地方での人付き合いは慣れるのに時間がかかる人もいるかも知れない。

誰にでもすすめられるような完璧な選択肢はないし、何の不満も生まれない場所はない。それでもわたしは、これからも富山に関わりつづけたいと思う。


* * *


今まで0か100かの選択しかできなかったけど、そうじゃない関わり方にも価値があると知るきっかけをくれたのは、このお店だった。

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あの時かけてくれた言葉のおかげで、一年間がんばれたんです。ありがとうございました。

なんて言えたらよかったけど、何せはじめて来た風を装っていたので伝えられず、代わりにこのnoteに書いた。


祖父母に会いに、東京と富山で二拠点生活をすると決めていた1年が終わった。この1年間で、祖父母に会う以外の富山に行く理由ができた。

3月からは拠点を東京に戻す。けれど変わらず、富山にはゆるやかに関わりつづけたい。

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関東の方も、富山の方も、これからもよろしくお願いします。


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