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読書感想文〜鹿の王(上橋菜穂子)〜



読了。「読み終わった!」ではなくて、「読了」という感じ。2つの言葉に、どれほどの違いがあるのか、細かなところは分からないが、「読了」を選びたい。それぐらい壮大な話だった。

上橋菜穂子の作品は、「守り人シリーズ」「獣の奏者」を読んできた。どれも、食事することを忘れるほど、夢中になって読んだ。不覚にも、「獣の奏者」のラストは、泣いてしまった。

今回の「鹿の王」。読みたい!という気持ちも強かったけど、それ以上に、物語にハマりすぎて何も手につかなくなる恐怖が大きかった。生活に支障をきたすような読書の仕方を直さないと。幸いにも、今は夏休み。時間はたっぷりある。じっくり、どっぷり上橋菜穂子ワールドにつかってみよう。

東乎瑠(ツオル)帝国にとらわれ、岩塩鉱で奴隷となったヴァン。
ところがふしぎな黒犬の群れにおそわれ、謎の病気が流行してしまう。
ひとり病気から生き残ったヴァンは、逃げる途中、幼い少女をひろい、ユナと名づけて育てることに。
一方、若き天才医術師ホッサルは、その病気が、伝説の病「黒狼熱(ミッツアル)」だと考え、治す方法を見つけるため、ヴァンを探そうとするけれど!?
ヴァンとユナの壮大な冒険がはじまる!!
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 医療的な専門用語がたくさん出てくるので、「医療ファンタジー」などと呼ばれてもいる。(医療・・・ファンタジー?そんなジャンルあるのか?)
 たくさんの登場人物が出てくる。ヴァンにホッサル、ユナ、サエ、マコウカン、ミラル、トマ・・・。全員が魅力的だ。そして、全員の心の中に「正義」がある。

 独角(ヴァンが頭を務めていた集団)には独角の正義。東乎瑠帝国に東乎瑠帝国の正義がある。アカファ王国にも、オタワル人にも、火馬の民にも。心の中に正義をもっていて、相反するものを時には滅ぼしたり、受け入れたり、そこから抜け出そうともがいたり。その人間模様は、泥臭さを感じるほどだ。
 
 中でも、天才医術師ホッサルの心の葛藤は読みごたえがあった。人体実験ともとれる医療行為に抵抗感を感じつつ、高みに到達したい気持ちから、薬を投与する場面があった。また、「呪い」というものを信じず、医療的に原因を究明しようとするが、手に負えない状態の患者を目の前にして、神の存在を想像している。とっつきにくいところがある登場人物だが、1番人間臭くて、僕は好きだ。

 物語の終盤に出てきた、題名の「鹿の王」につながるヴァンの父親の話。ヴァンは、最後まさに「鹿の王」であった。さまざまな人の思惑が渦巻く中で、自分の正義を変容させながら、その正義を貫いた。

 物語に没頭できた、とても幸せな時間でした。上橋菜穂子は、やっぱり魅力的な作家で、大好きな作家だ。「香君」も読んでみたいと思う。


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