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逆噴射小説大賞2019PU

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#逆噴射小説大賞2019 で『貴方の作品スキ!』と心を揺り動かされたnoteをピックアップしました。プラクティスが混じっていますが、自分のブックマークみたいなものなので個人的には…
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#逆噴射プラクティス

ホームセンター戦闘員、浅間!

「うるせえ! 自分の車に積み込めってほざいたのはてめぇだろ!」 俺が振るった金槌は、眼前のクレーマージジイが握る草刈り鎌より早く、ジジイの側頭部を打ち砕いた。ジジイは倒れ、そのまま動かなくなった。 「しまった……」 俺は青ざめた。今月の殺害許容数は5人まで。このジジイは6人目だ。本当に非正規は不利だ。殺していい数が正社員に比べて少なすぎる。 「やってしまったねえ、浅間くん。超過だよ」 粘ついた声音に振り向くと、東村店長が立っていた。最悪だ。ずっと見てやが

キャンプ・オブ・ザ・デッド

「火野、火出してくれ」 「あいよ」 水木の指示に応じて、毛羽立たせた薪に指先から火を灯してやる。 が、あっさりとは火がつかない。仕方無しに着火材の新聞紙に火をつけてから薪に移す。 「あいっかわらずの低火力だなー、ライターの方がまだ強いぜ」 「そういうお前だって霧吹きがわりがせいぜいじゃん」 「こっちはサボテンに水やれるし、サボテン持ってないけど」 「他に使いどころねーのかよ、おーい雨田ースマホ充電できた?」 暗雲たれ込むキャンプ場、そこに俺達は幼なじみグループでゆるくキ

『求む!最強のたまごかけごはんの作り方』

 どう、と対戦車ライフルが火を噴いた。裾野の大気を震わせた重金属弾頭は標的へ過たず命中したが……多くの観客の期待通りに弾き返され宙を舞った。標的は微動だにせず傷跡ひとつない柔肌で気持ちよさそうに陽光と観客の視線を浴びている。その標的とは「生卵」。ごく普通の鶏卵である。 (……私はTKGを食べたかっただけなのに……)  はじめはテーブルの角だった。「こんっ」女子高生が自然な力で叩き付けたその卵はテーブルの角(パーム材/IKEA)を弾き返し一切の無傷。「ごんっ」強い力を加え

不可視のバックドロップ!の巻

 プロレスでマイクアピールするのは重要な行為だった。  だが、マイクアピールだけで勝つレスラーが出てきたのは、誰にとっても予想外だった。 「ふざけんじゃねえぞコノヤロー!」  マスクド『ザ・ドミネイター』ギルガーンがマイクを握り、そう相手を恫喝した瞬間、相手であったチャンピオン、ゴージャス・メルが文字通りKOされた。まるでギルガーンの繰り出したバックドロップを食らったかのように、ひっくり返されてしまったのだ。  白目を剥き、泡まで噴いている。  ギルガーンはマイクを叩きつ

「よろず屋サカズキ」営業中

 ──この酒、味がしない。  それに気付いたのは、皿に零した酒を啜った時だった。  半年に渡る週7バイトと夕飯モヤシ生活を経てようやく購入した幻の酒、<龍の声>。芳醇な香りと裏腹に飲み口は軽やかで、後から健やかな甘みと爽やかな酸味、そして暴力的な旨味が押し寄せる、龍をも唸らす銘酒……の、はずなのだが。 「……?」  俺は手元の皿──酒浸しになったエイヒレの皿から、銘酒をもうひと啜り。  ……やはり味がない。水のほうがマシだ。 「いや、え、エイヒレのせいかも……」