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探検!ゲーム条例制定後の香川県議会の議事録を暴こう!(2020年版)5/6

香川県ネット・ゲーム依存症対策条例(以下、ゲーム条例)制定後、香川県では、その影響を受けた施策が次々と施行されている。
その施策を成立させた根源的な考え方とは何か。そのどこが歪んでいるのか。公開されている議事録を精査することで、それを少しでも把握したい。本稿は、それを目的に作成した。
もちろん、良い点があれば紹介したかった。しかし、精査の結果、それは叶うことはなかった。むしろ、頭が痛くなる内容ばかりだった
その頭の痛くなる爆弾発言が詰まっている議事録を、解説付きで暴く。

この階層では、香川県知事の答弁に注目する。迷宮探索で例えるなら、その主と遂に遭遇することになる。心して「踏破」に挑もう。

[ おことわり ]
議事録は、できる限り原文のまま掲載していますが、文章の前後関係の意味を通すため、文意を崩さないよう編集をしています。何卒ご了承ください。

登場人物

第5階層-1:香川県知事のゲーム条例に対する見解は?

ゲーム条例に関する知事の見解は、テンプレートの使いまわしなのかと疑うほど表現内容が固定されており、あまつさえ、質問内容にはまともに答えていないきらいがある。これは、「県知事へのメール」で、ゲーム条例界隈の意見を送った方ならより理解できるだろう。

知事自身の見解が含まれているもかもしれないが、「中の人」から「~というように書いてください」と厳しく言われているのかもしれない。
なお、知事自らゲーム条例の施行を抑止できる機会はあった。条例が議会を通った後に行使できる「再議」だ。

[ 再議(拒否権) ]
地方自治体の首長にしか行使できない職務権限。これを行使すると、議決内容を議会に差し戻して再審議することを強制させることができる。

本投稿執筆時点で香川県知事の職位に就いている浜田 恵造氏は、キャリア国家公務員としての経歴が長いため、ゲーム条例の動静に注意を払う国会議員は、制定過程が不透明極まりない同条例に対して再議を出すことは厭わないと思っていた*1。

余談だが、議員の本体業務は法令の策定であり、その業務の遂行のため、本来なら、議員は、法的な知見を豊かに備えていなければならない。

しかし、実際は、再議は出されなかった。結果、ゲーム条例は施行されてしまう。
もう少し詳しく「返信メッセージ」を見てみると、質問内容に応じた追記事項はあるものの、それ以外の文言は、送信者個別に返信しているメールや、香川県庁Webサイトで公開されているもの*2とほとんど同じだ。特に、知事の本名以外の太字で書かれていることは、以下のように、寸分違わない表現で、2020年4月以降の議会答弁で3回も使用されている。

浜田 恵造:
ネット・ゲーム依存症対策についてですが、ゲームやインターネットの過剰な利用は、自分で自分の欲求をコントロールできなくなる依存症につながることや、睡眠障害、ひきこもりといった二次的な問題まで引き起こすことなどが指摘されており、若者が陥りやすく、一度そのような状態になると抜け出すことが困難となる (中略)
私といたしましては、引き続き関係機関と連携し、効果的なネット・ゲーム依存対策を推進するとともに、国に対して法整備など必要な対策を講じることを求めるなど、本県の子どもたちをはじめ、県民の皆様をネット・ゲーム依存から守るための対策に積極的に取り組んでまいりたいと考えております。

上のような(メールでのそれとほとんど同じ)回答をされたのでは「本当に私の質問に真摯に答えているのか?」と疑問を抱く議員がいても当然だ。

樫 昭二:
知事の答弁、教育長の答弁を聞いておりますと、どうもこの弁護士会の会長声明に反論するというか…否定的な答弁に聞こえました。それでいいのでしょうか、と、私は思います。
私は、法律の専門家である弁護士会の会長の声明は、非常に重いものがあると考えております。そういう点で、この重さを改めて認識し、再度、この問題で時間制限をするということは問題でないのか、このことについてもう一度、知事並びに教育長に答弁を求めます。

香川県弁護士会のゲーム条例に対する声明は、以下からご覧いただけます

しかし、同じような内容の答弁に終わった。というよりは、質問に対してまともに答えていないと書くほうが正確だ。

浜田 恵造:
ゲーム条例につきましては、先ほども申し上げましたとおり、県民の皆様がネット・ゲーム依存に陥らないように、県、保護者、事業者などの責務・役割、事業者の協力、家庭におけるルールづくり、見直しの目安を定め、依存症につながるような過度の使用とならないよう求めるものと理解しておりまして、インターネット・ビデオゲームの有用性を否定しようとするものでもなく、憲法の理念あるいは子どもの権利条約に反したものでもないと考えております。

2020年第二四半期から顕著になったCOVID-19の感染拡大に対して、それを抑止する関連施策の立案と実行を重視しなければならない事情も理解できる。しかし、「(香川県的に)病気」という面ではCOVID-19と同じであるゲーム症に県民が苛まれることを真に憂いるなら、技術標準および科学的根拠に基づかない自身の発言内容を検証し、誤り(=客観的に見て不適切な内容)については、ぜひ、公の場で謝罪と訂正をしていただきたいと願う。公人である知事がデマをまき散らすなどあってはならないことであるし、まして、お客様の仕事に影響する業務にかかわる事で、お客様に対して行った説明の誤りを放棄するなど、ビジネスパーソンとして絶対にやってはならないことだからだ。

浜田 恵造:
ビデオゲームやインターネットの過剰な利用は、自分で自分の欲求をコントロールできなくなる依存症につながることや、睡眠障害、ひきこもりといった二次的な問題まで引き起こします。
(中略)
ビデオゲームの使用開始年齢をできる限り遅らせることは、ネット・ゲーム依存症の有効な予防対策の一つとされています。
(中略)
ネット・ゲーム依存症につきましては (中略) 依存症につながるような過度の使用とならないよう求めるものと理解しております。

上は、すべて、久里浜医療センター発のデマの受け売りだ。浜田氏は、暴論すると、COVID-19関連では禁忌であるデマの流布は、ゲーム症に関する知識の啓発なら無問題と考えている。

浜田 恵造:
医師などの専門家や学校関係者等からの意見聴取を行うとともに、国や県教育委員会が行ったアンケート結果等を検討した結果などに基づき議論を行いました。

第1階層で見たとおり、香川県招致して意見を尋ねた医師である樋口 進氏と岡田 尊司氏は、ビデオゲーム含めた個人向けITサービスを完全否定する思想を持っていることで有名な人物だ。ここまでの「冒険」で何度も登場した表現ではあるが、香川県および香川県議会は、最初から、自分たちの望む方向に沿う、もしくは、補完に役立つ人たちしか招聘していない。これは、著しく公平性を欠いている人選だ。また、学校関係者は、ITサービスの使いすぎによる学業成績の低下を主に問題としていた*3 。これは、結局、ネット・ゲーム依存症の定義である「ITサービスの使いすぎによって発生する病気」を補強する部品として使われた。要するに、公平性のかけらもない環境を自ら用意して議論をしたことになる。この環境では、偏りのない客観的な意見が入る余地など、ない。

また、香川県教育委員会が行ったアンケート調査だが、相関関係を考慮しない標本抽出を行ったうえで、意図的にITサービスの存在を完全否定させるように読者を誘導するレポートを作成したことが、第三者の検証で明らかになっている*4。そのような杜撰な統計データを「まとも」と呼ぶこと自体がおかしい。

浜田 恵造:
ネット・ゲーム依存のリスクや家庭におけるルールづくり、条例の趣旨等について、県広報誌2020年8月号に折り込みチラシを入れるなど、広く県民の皆様に周知しています。

当該折込チラシの内容も、県教育委員会が県内の小中学校すべてに配布した「ネット・ゲーム依存症予防学習シート」と比肩する、デマの総合デパートだ。

上のリンク先にあるPDF文書「ネット・ゲーム依存を予防するために(A3二つ折りチラシ)」をダウンロードして実物をご覧いただくとわかるが、レーティング”制度”を「ゲーム症対策のために備わっているICT機器の”機能”」と説明するなど用語解説もデタラメ、オリジナルの質問内容を勝手に改変、日本語表現すら破綻している…など、公的な啓発資料として断じて許されないことを躊躇なく行っている体たらくぶりだ。このような内容で、家庭におけるルールづくりなどまともにできるわけがない。

歪んだ用語解説

質問以前に日本語が壊れている…行政機関が公式に配布した文書なのに…

浜田 恵造:
2020年11月3日にネット・ゲーム依存予防対策講演会を開催するなど、ネット・ゲーム依存に関する正しい知識や予防等に関する知識の普及啓発を図ってまいります。

この講演会で招聘された医師の言っていることは一見まともそうだが「ビデオゲームの存在は害悪であるゆえ、最終的には切り離さなければならない」の理念がそこかしこに見える危険な内容だ。

また、忍足 みかん氏は、自責の念に駆られて講演を行ったと思われるが、結果的に、彼女の経験に基づく講話は、聴講者に対して、ITサービスの使用に無用な恐怖感を抱かせるとともに、「スマートフォンの長時間利用=ネット・ゲーム依存症につながる」という、香川県が望むロジックの補強のためだけに利用されてしまった

その彼女は、おそらく、インターネット依存症ではないと私は捉えている。本当に重度の依存症なら、自身のITサービスの使い方の悪癖に気づいて自力で克服することなどできない*5からだ。

ちなみに、彼女が行ったデジタルデトックスは、ゲーム症/インターネット依存症の解決手法としては効果がほとんどないとの調査研究の結果が出ている。それを踏まえると、彼女の講話が、ITサービスの使用に無用な恐怖感を聴講者に抱かせる目的で利用された疑念の払拭がますます難しくなる

浜田 恵造:
相談に必要な専門的知識を持つ人材を確保するため、昨年度より依存症対策の全国拠点である国立病院機構久里浜医療センターが主催する研修へ県職員を派遣しています。

行政機関として、支援ネットワークの充実を図る施策は歓迎したい。
しかし、頼るところを間違えた。デタラメだらけのゲーム症対策の情報しか流さないうえ、ゲーム症からの回復を仕事とする者としての資質と知見を疑わざるを得ない医師が多い(と思われる)久里浜医療センターが、研修受講先になっているからだ。この時点で、以下のフローに沿った顛末になることが目に見えている。

1. 以下のようなとんでもない知見を惜しげもなく晒す医師がひしめく(であろう久里浜医療センターへ、職員や県内在住の医師を研修に赴かせる。
2. 職員や県内在住の医師が研修を修了する。
3. 科学および情報リテラシーのスキルが高い人間を除く全員が、研修内容に基づくデマを流布、もしくは、施策や仕事に反映させ、当事者をさらに苦しめる尖兵と化す。

ゆえに、この施策を打たれ続けたら、県税を納める一香川県民としては「税金の使い道がおかしい」と訝ってしまう。

新聞の記事よりも、記事写真内のPowerPointスライドに注目しよう

ガングリオンの発症原因は「不明」が医学的に正しい*6。しかし…

第5階層-2:ゲーム条例関連施策の将来の展望について

浜田 恵造:
条例附則に規定する検討につきましては、施策の効果も検証しつつ、この調査の結果や国の動向などを踏まえ、県民の皆様の御意見も十分に伺いながら対応すべきものと考えております。

冒頭に挙げた「県民の皆様のご意見」で塩対応同然の対処をしておいて、この答弁はない。一方、附則については、2022年に改定を検討するとゲーム条例に規定されている*7。また、答弁にある「調査」とは、以下のものだ。

イミフな調査

このようなとんでもない内容の調査で得られる分析結果が是とされ続けた場合、何かしらの理由をこじつけて、さらに「規制する」方向へ改定される可能性が否定できない。また、第3階層で取り上げた課題、すなわち、ゲーム症になった人やその支援者に対するサポートや保障の制度もなおざりにされる恐れがある。

最後に、ゲーム条例違憲訴訟に対する浜田氏の見解を挙げる。ここについてだけは、異論はないと感じる。原告の社会的属性にかかわらず、裁判で問われることは、法に照らし合わせた際、違法であるか否かだけだからだ。

浜田 恵造:
ネット・ゲーム依存症対策条例に関しての提訴に関するお尋ねでございますけれども、(中略) その提訴している方のそういう属性によって対応が変わるというものではなくて、これは法律に基づいて判断されるべき問題だと思っております。

第5階層:議事録内大探検の暫定結果

端的に言えば、浜田氏は、ゲーム条例についてまともに考えていないか、考えないように誰かから言われていると推察できる。以下の答弁や記者会見の模様は、それを如実に示す。ここまでの内容を踏まえると、これらの答弁は、能天気としか言いようがないからだ。

浜田 恵造:
条例施行後の県民の変化につきましては、今後、条例を踏まえた様々な取組を通じて把握していくこととなりますが、ネット・ゲーム依存のリスクや家庭におけるルールづくり、条例の趣旨等についての県広報誌などによる普及啓発により、県民の皆様のネット・ゲーム依存に関する正しい知識への理解は深まっているものと考えております。

「自分らのしたことをわかってるの?」と訝ってしまう記者会見の内容…

実際は、香川県民のゲーム症/インターネット依存症に関する理解については、正確なものが身につき、深まっているどころか、デマやデタラメ情報をただひたすらに刷り込まれているだけだからだ。それを啓発資料や業務で運用するマニュアルの頒布などの形で強行しておいて「他地域のそれと比べて突出してなどいない」とは「とぼけるのもいい加減にしろ!」と激高したくなる。なお、「正しい」とは書かない。香川県にとって正しい知識なら、その知識は、科学的根拠に則らない誤った知識を意味するからだ。

それはともかく、知事ですら上述したような有様で、かつ、それを誰も諫めないのならば、香川県の行ったゲーム条例関連施策を巣とする「怪物」が、将来、多数出没すると推測される。その怪物の獲物は、ゲーム条例の規定対象者である香川県民と、世界中のビデオゲームビジネス関連事業者*7 だ。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。
ご意見やご感想は、著者 (Twitter:@Attihelo37392M)までいただけると幸いです。

キミは無事に第5階層を踏破できた。
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参考資料

・香川県議会議事録 2020年7月8日:令和2年6月定例会 (第3日)、本文
・香川県議会議事録 2020年7月9日:令和2年6月定例会 (第4日)、本文
・香川県議会議事録 2020年10月6日:令和2年9月定例会(第3日)、本文
・香川県議会議事録 2020年10月7日:令和2年9月定例会(第4日)、本文
*1 「藤末健三フォーラム」における参議院議員、藤末 健三氏のコメントに基づく
*2 ご提言等の内容「ネット・ゲーム依存症対策条例案の再議について」(https://www.pref.kagawa.lg.jp/kocho/kocho/koe/kperj7200318220253.html)
*2 ご提言等の内容「ゲーム規制条例について」(https://www.pref.kagawa.lg.jp/kocho/kocho/koe/k4qklt200314095844.html)
*3 2020年9月6日開催「みんなで考えるネット・ゲーム依存症対策条例」の質疑応答に基づく
*4 コンテンツ文化研究会「ネット・ゲーム依存症対策オンライン勉強会(2020年8月21日版)」(https://youtu.be/MN2xrFaOO5g)
*5 『#スマホの奴隷をやめたくて』忍足みかん
*6 お医者さんオンライン「ガングリオン:どんな病気?検査や治療は?手首や足におきるって本当?」(https://www.premedi.co.jp/%E3%81%8A%E5%8C%BB%E8%80%85%E3%81%95%E3%82%93%E3%82%AA%E3%83%B3%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B3/h00382/)
*7 香川県ネット・ゲーム依存症対策条例 マスター版(https://www.pref.kagawa.lg.jp/documents/10293/0324gj24.pdf)

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