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映像人類学・マルチモーダル人類学の修士課程では何を読むのか

映像人類学という名を冠する修士プログラムは、世界的に見ても限られます。私が所属するオーフス大学 MSc in Visual Anthropolgy の他に代表的なものでは、マンチェスター大学 MA Visual Anthropologyロンドン大学ゴールドスミス MA Visual AnthropologyドイツHMKWM.A. Visual and Media Anthropology(ベルリン自由大学よりプログラムごと移管)などでしょう。そのほか北米や欧州の人類学分野の大規模な修士プログラムでは、そのモジュールのひとつとしてVisual Anthropologyのトレーニングを提供する機関が散見されます。

ひとえにVisual Anthropology(映像人類学)と言っても、近年のデザイン人類学・STS(Science and Technology Studies)との関わりから、ドキュメンタリー映像に代表されるような狭義の「映像」にとどまらず、エスノフィクションやインスタレーション、サウンド表現など、より多様なメディアや手法を導入したリサーチを展開する潮流から、「Multimodal Anthropology(マルチモーダル人類学)」という言葉を使用することの方が多いです。オーフス大学の映像人類学修士課程も例に漏れず、内部的には「Visual and Multimodal Anthropology」という表現を採用しています。

この記事では、MSc in Visual Anthropologyの最初のセメスターを通して、主にリーディング課題として課されたもの、中でも特に研究室での議論の中心に置かれていた文献、さらには参考文献として推奨されたものをリストアップしてみます。体系だった情報が見つかりにくい新興分野ですし、自分も正直「これを読めばOK!」なんてものは見つかっていない(というか存在しないと思っている)ので、参考程度にご覧いただけたら嬉しいです。(チャプター抜粋で読んだものも多いので、解説は簡潔にしています)

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Visual Anthropology:「映像」人類学

カメラを用いた映像撮影、フィールドへの参与の方法、映像の持つ権力性や倫理的知識などが中心です。いわゆる本流の、一般的なイメージに近い映像人類学のトレーニングです。

・MacDougall, David. 2008. The Corporeal Image: Film, Ethnography, And The Senses.  Princeton: Princeton University Press.

・MacDougall, David. 1998. Transcultural Cinema. Princeton:Princeton University Press.

いずれも米国の映像人類学者、フィルムメーカーのMacDougallの著作。記述されたテキストと映像の根本的な違い、フィルムメーカーと人類学者の違いなどに言及したものなど、複数のエッセイがまとめられています。

・Trinh T Minh-ha. 1991. When the Moon waxes Red. NY: Routledge.

西洋中心的な知識の体系に対する批判、アジア・アフリカにおけるテキストの実際、「観る者」と映像の関係性に関する議論などを展開しています。

・Marks, Laura U. 2000. The Skin of the Film: Intercultural Cinema, Embodiment and the Senses. Durham and London: Duke University Press.

映像が持ちうる「触覚性」に焦点を当てたチャプターでは、それを読んだ上で学生それぞれが短い映像を作成。映像を通して「触覚性」をいかに表現できるか、実践的に学ぶ取り組みがなされました。これは楽しかった。

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Multimodal, Digital, and Design Anthropology:「マルチモーダル」「デジタル」「デザイン」人類学

従来のエスノグラフィのように「テキスト」により、研究者がその対象を一方的に描いていくような姿勢に対する自己批判などを背景に、フィールドにおける人々との協働と介入の可能性、デジタル空間に対するリサーチの方法、デザイン的要素の応用可能性などを扱います。

・Collins, Samuel Gerald and Matthew Durington. 2015. Networked Anthropology: A Primer for Ethnographers. Abingdon: Routledge

Visual anthropologyの先にあるNetworked anthropology、という位置付けで、テクノロジーとともに複雑化した世界の絡まり合いにどのように向き合っていくのか。人類学における新たな方法論的可能性、活用可能なソフトウェアや手法、そのケーススタディなどを紹介しています。

・Boellstorff, Tom, and Bonnie Nardi, Cecilia Pearce, T.L. Taylor (2012): Ethnography and Virtual Worlds. Handbook of Methods

・Hine, Christine (2015): Ethnography for the Internet: Embodied, Embedded and Everyday.

インターネットとその関連問題を理解する上で、Embodied / Embedded / Everydayness の「3E」をキーワードに議論が展開されています。

・Pink, Sarah, Heather Horst, John Postill, Larissa Hjorth, Tania Lewis and Jo Tacchi (2016): Digital Ethnography: Principles and Practice. London: Sage.

いわゆる「デジタルエスノグラフィ」に関する教科書的存在のようなイメージを(勝手に)思っています。

・Rabinow, P., Marcus, G. E., Fabion, J. D. and Rees, T. 2008.  Designs for an Anthropology of the Contemporary

Paul Rabinow と George E. Marcusという、極めて大きな影響力を持つ人類学の理論家による著作。

・Smith, R. C. et al. (eds). Design Anthropological Futures. London


その他

他の場も含め、関係者からおすすめされた書籍です。読んだものもあれば、そうでないものも。

・Jay Ruby. (2000). Picturing Culture: Explorations of Film and Anthropology

・Gunn, W. Otto, Ton. and Smith, Rache; Charlotte. (2013). Design Anthropology: Theory and Practice

・Escobar, Arturo. (2018). Designs for the Pluriverse: Radical Interdependence, Autonomy, and the Making of Worlds (New Ecologies for the Twenty-first Century)


以上、映像論に近いものからコテコテの人類学理論家まで。議論の参考になりそうな書籍があれば、日英問わずシェアしていただけたら嬉しいです!

Twitter @atthegorge

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