見出し画像

米カーネギーメロン大の研究者はどう読むか。「興奮するとともに、残念。」永嶋知紘さん

「税所本」特有のワクワク感は今回の新刊でも健在で、楽しく拝読しました。日本の多くの人が知り得ない数々の独特かつ素晴らしい取り組みをこのような形でまとめていただいたこと、大変意義のあることだと思います。この本の大きなメッセージの一つ、「教職員、子ども、親、地域社会が協同してつくりあげる学校」の様子が手に取るように描写されていて、感銘を受けました。

ただ、教育を研究する者としては、とても興奮する本であると同時に、寂しさが残る本でもありました。

税所さんはところどころで、各事例のユニークな取り組みをどのように他の教育現場に広げていくかを問うています。とても大事な問いですが、本来であればこの問いを請け負うのは我々のような研究者でしょう。各事例をもとに、どのような要素がスケールアップ可能で、どの程度まで一般化ができるか、といったことを調査する研究者の姿が本書に見られなかったことを、(自戒をこめて)残念に思いました。

米国でも日本でも同様ですが、日々ダイナミックに変化する教育現場に研究者が立ち入ることは簡単ではありません。私自身、コロナウイルスの影響で遠隔授業をおこなう学校(や遠隔授業すらできない学校)とともに活動をおこなっていますが、研究者という「外部者」を受け入れることに抵抗がある学校も多くあり、受け入れてもらったとしても、その学校で行われている教育活動を包括的に把握するのは非常に困難です。これに関連して、本書の中で印象に残った「教育専門官」の菅野さんの以下の言葉があります。

「自分には、とくに飛び抜けたスキルがあるわけではない。けれども振り返ってみると、学校運営も行政の仕事も、素人だったからやり抜けたのかもしれない。」

この言葉とその背景にあるエピソードを読み、私は今後研究者としてどのように実際の教育現場に貢献していけるかを考えさせられました。より良い未来の学校をつくっていくために、「教職員、子ども、親、地域社会」に加え「研究者」がうまく入っていけるよう活動していくことが、私の使命かなと感じました。本書は、読者が教育どう関わっているかによって違ったアイデアを与えてくれる素晴らしい本だと思います。

永嶋知紘

1991年生まれ。国際基督教大学(ICU)卒業後、北海道大学高等教育推進機構オープンエデュケーションセンター勤務。2016年渡米。スタンフォード教育大学院修士課程を経て、現在カーネギーメロン大学計算機科学学部ヒューマン・コンピュータ・インタラクション学科博士課程所属。専門は学習科学、教育工学等。データに基づいた効果的な教授手法や学習プロセスの研究、および学習サポートシステムのデザインと評価が主な関心で、中学・高等教育から大学教育まで幅広く手掛ける。クリエイティブ・コモンズ・ジャパン日本支部メンバー。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?