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「だれのために書いたのかわからない本」でした。ケニアで頑張ってるアイツからのエール。熊平 智伸さん

くまちゃんは、ケニアのモンバサを拠点に森林業界を変えるベンチャーの幹部として世界を飛び回っている。そんなくまちゃんが、新刊『未来の学校のつくりかた』の感想をくれた。ありがたい!!!

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御尊著、拝読しました。
率直な第一印象は、「誰のために書いたのか分からない本」でした。

教育の未来を大上段で語る本かというと、出てくるのは現場の汗臭いエピソード。
優れた先生を生み出す本かといえば、学校の仕組みづくりや事業経営、行政まで話が広がっていく。
政策提言かといえば、具体的な手触り感や成功事例の固有性をむしろ大切に描写している。
子どもや保護者の代弁か、というと、そういうわけでもない。
それなのに不思議と読み終わったあとに、理想の教育の姿が浮かびあがってくる。そんな本です。

税所さんが描いていたのはおそらく未来の教育なんかではない、とも感じます。
登場する事例に共通するエネルギッシュで未来志向な大人たちの姿を思い起こすにつけ、本作の主眼は政策関係者も教師も子どもも保護者も地域も、それぞれが積極的に教育に関わる先にできる社会全体の姿ではないか、そう思えてなりません。
本作はいうなれば、教育関係者に限らず、社会のあらゆる人たちが自分事として追体験できる「アクセシブルなルポ」なのではないでしょうか。
教育者は教育者、政策立案者は政策立案者、親は親、地域は地域、それぞれの視点から共感できる願いがあり、得られる学びがあるのが、(実務的なディテールが欠落しているという批判はあるでしょうが)この本の良さです。

冒頭で述べられる通り本作はルポルタージュですが、ときおり顔をのぞかせる税所さんの起業家としての顔と悩める人間としての一面には、ジャーナリズムにはない生々しさがあります。
とりわけ印象に残ったのは、

僕は「子ども一人ひとりの好奇心の方向性を理解、コーディネートし、子どものやる気の発火点、きっかけをつくること」が学校にしかできないことだと考えている。
今の学校には”まだ”火のついていない子どもたちが多い。

という一節。
本書において教育の意義が筆者の一人称で定義される数少ない箇所です。
社会起業家としての課題意識の原点ともとれるこの一文も、”まだ火のついていない”子どもたちの周りにいる、同じく”まだ火のついていない”大人たちに向けられているのかもしれません。

以前の作品には、起業家としての税所さんが前面に出ていましたが、むしろ今回はジャーナリストとしての目線が新鮮でした。
現場をくもりなく映し出す鏡であろうとするMedia/Mediumとしての誠実さと使命感を強く感じましたし、ソーシャルセクターで仕事をしている自分としては、ところどころに挿入された「自分探し」への批判的内省にハッとさせられました。
おしむらくは、巻末に税所さんの次のプロジェクトについて何も書いていないことでしょうか。続編(書籍ORプロジェクト)、待ってます!


熊平智伸

1991年生まれ。慶應義塾大学入学後一念発起してブラウン大学に編入。専攻は国際関係論(優等・最優秀論文賞)。在学中、留学で苦労した学部進学の情報・メンタリング不足を解決するため、同級生と年間100万ビューの留学ブログ「ブラウンの熊たち」を始める。三菱商事株式会社のアセットマネジメント事業開発部・企業投資部を経て、零細農家とのパートナーシップ型林業を行うソーシャル・ベンチャーのKomazaで財務責任者として、零細農家の林業に特化した世界初のファンドを組成中。ケニア在住。ロバート・ボッシュ財団GGF2035フェロー。

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