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Study86_4.旨味を最大限に引き出した「ひらきなめこ」の唐揚げをつくるには(加熱速度でおいしさは変わる?編)

この記事は、《自然にやさしく 環境負荷の小さい農業の普及を目指し、野菜セットの定期宅配をはじめとした様々な取り組みを行う会社「坂ノ途中」》が取り扱う野菜から1つをピックアップし「一番おいしい食べ方」を探究していく記事です。

これまでに行った「ひらきなめこ」の実験記事はこちらから
Study86_1.下調べ編
Study86_2.下処理・洗い方のコツはある?編
Study86_3.下処理・洗い方のコツはある?編2

前回まで「洗い方」「下処理方法」についてを実験してきましたが、今回は「加熱速度の違いでおいしさは変わるのか?」についてです。押さえておきたい事前情報はこちら。

一般に,キノコは乾熱でゆっくりと調理すると風味が最も強まる.酵素が失活してしまう前にある程度働き,また水分もいくらか飛んでアミノ酸,糖,香りが濃縮されるからである.

Harold McGee(2008).マギー キッチンサイエンス -食材から食卓まで- 共立出版

今回は煮込みなので水分が飛ぶことはないのですが、「加熱途中で酵素がある程度働き」は舌で感じるくらいに変化は出るのでしょうか。用意した条件はこちら。

A、水から煮る(生)
B、沸騰したお湯から煮る(生)
C、沸騰したお湯から長めに煮る(生)
D、水に40分浸水して水ごと煮る(生)
E、水から煮る(冷凍)
F、沸騰したお湯から煮る(冷凍)
G、沸騰したお湯から長めに煮る(冷凍)
H、水に40分浸水して水ごと煮る(冷凍)

いずれも終始トロ火で加熱しフタはしません。沸騰した状態からの加熱時間が同じになるように3分に調整しています。CとGは、沸騰した状態から加熱しても加熱時間を延ばしさえすれば旨味が出るのか?を確認するために追加した条件で、加熱時間は10分です。Dは、浸水時間をさらに延ばした時変化が起きるのか?を確かめます。

早速ひらきなめこを煮ていきますが、煮込みの様子でもちょっとした違いが見られました。

A、生のひらきなめこを水から煮る様子
D、40分浸水したひらきなめこを水から煮る様子

前回の実験では気づかなかったのですが、「40分浸水」「冷凍」したひらきなめこは煮込む時に泡立ちが激しいことを見つけました。何かしらのトロみ成分が溶け出しているのかもしれません。味にはどのように影響してくるでしょうか?出揃ったものがこちらです。

1行目左上からA、B、C、D 2行目左からE、F、G、H

煮汁の様子を比べたかったのでひらきなめこを抜いてみたものがこちらです。

上写真と同じ順序

煮汁の色の濃さの傾向としては、長時間煮た「生を沸騰から長めに」「冷凍を沸騰から長めに」の例外を除くと、生の方が全体的に色が薄くなり、冷凍の方が全体的に色が濃くなる傾向がありました。このままだと分かりにくいので色の濃さ順に並べ替えてみたものがこちらです。

左上E、左下C、右に向かってH、F、A、B、下G、一番右D

冷凍すると煮汁の色が濃くなる

上の行だけ見ると左から3つは全て「冷凍」、右は全て「生」。下の行は「沸騰から長めに」煮たものです。長めに煮てしまったものは外れ値になってしまいましたが、それ以外は綺麗に「冷凍」と「生」で色の濃さが分かれました。「冷凍」の方が色が濃くなる傾向があることが分かります。「沸騰から長めに」の2つは、色の濃さはそれぞれですが「冷凍」と「生」共に色が黒っぽくなり彩度もが下がっていました。こういった色の違いは、味にどのように関係してくるでしょうか。

冷凍すると旨味も濃くなる

次に味も確かめます。旨味の強い順に並び替えるとこのようになりました。左から旨味の濃い順です。色の濃さと一致しそうにも、しなさそうにも見えます。

左からE、H、F、G、B、A、C・Dは同立

ここでも旨味の強い上位4つを冷凍が占拠してしまいました。その中でも一番旨味が強かったのは、Eの「水から煮る(冷凍)」、その次はHの「水に40分浸水して水ごと煮る(冷凍)」でした。この2つはかなり強い旨味を感じます。続いて、Fの「沸騰したお湯から煮る(冷凍)」、Gの「沸騰したお湯から長めに煮る(冷凍)」の順でした。

冷凍して水から煮れば、ひらきなめこ自体もおいしくなる!

E、水から煮る(冷凍)のひらきなめこ

肝心なひらきなめこ自体の味についてですが、うれしい結果となりました。煮汁の旨味が強かったEの「水から煮る(冷凍)」とHの「水に40分浸水して水ごと煮る(冷凍)」の2つは、ひらきなめこ自体の旨味も残っていたからです!煮汁もおいしいし、ひらきなめこ自体もおいしいなんて、もうこの方法を選ばない手はありません。

とにかく冷凍した方がいい!

このことから分かるのは、とにかく冷凍をしろ!ということです。冷凍すれば、沸騰したお湯から煮てしまおうが、煮込みすぎてしまおうが、水につけたまま忘れ去ってしまおうが、生をそのまま煮るよりおいしいのですから!前回の実験結果では「冷凍は旨味が増して良さそうだけど、料理によって使い分けた方が良さそうだぞ」という表現にとどめていましたが、ここまでの結果が出てしまうと、煮るときは絶対に冷凍してほしいです!

水から煮るか、熱湯からか?は判断が難しい

ちなみに、冷凍の4つが優秀すぎて「生」に触れられていませんでした。実は生の4つと完全に傾向が同じかというと、そんなことはありませんでした。旨味が一番強かったのは冷凍と違い、Bの「沸騰したお湯から煮る(生)」その次はAの「水から煮る(生)」だったからです。そして、C「沸騰したお湯から長めに煮る(生)」D「水に40分浸水して水ごと煮る(生)」は同立で旨味を感じることができませんでした。

「ゆっくり加熱した方がおいしくなる」という仮説のもと実験を行なったのですが、沸騰からの加熱の方が旨味が強くなってしまいました。沸騰状態での加熱時間は合わせているので、沸騰からの方が加熱時間が長くなった結果旨味がよく出た、という考察は成り立ちません。今回の実験だけでは、水から煮た方がいいのか、沸騰からがいいのかを結論づけることは難しそうです。

さっと煮ること!
煮込みすぎだけはしない方がいい

C、沸騰したお湯から長めに煮る(生)

今回加熱方法に関して言えそうなのは「煮込みすぎること」だけは意味がなさそうだ、ということです。冷凍・生 共に、長時間煮込んだものは一番旨味を感じないという結果になったからです。今回の沸騰中の煮込み時間は3分、長く煮たものは10分なので、さっと火を通す感覚で煮込みは3分程度にとどめて調理した方が良さそうです。

冷凍が良さそうだ、ということは分かってきたので、次からはいよいよ「揚げ」の実験に移っていきます。次回もお楽しみに*

「ひらきなめこ」について詳しく知りたい、購入したい、という方は坂ノ途中のHPからどうぞ*




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