見出し画像

【香港旅行記②-1】立体迷路に殺されかける

ドミトリーでの心得

 昨夜は驚くほどの快眠ができて、目覚ましなしで朝八時ごろにばっちり目が覚めた。2段ベッドの数が3で、泊まれる人数は6人だが、ルームメイトは僕を含めて4人だった。
 そのうちの一人は、夜八時半頃、早々に寝出した。僕がいるのに、黙って電気を真っ暗に消して。でも消されたのは彼に近い方の電気だったので、申し訳ないと思いつつも、僕に近い方の電気を付け直して、日記をつけたりしてすごしていた。夜十時頃に他の二人が帰ってきて、パソコンのスピーカーを使って動画を見たりと、自由にすごしている。すると早々に寝た彼は、眩しさとうるささに寝つきが悪そうで気の毒だった。
 僕は、寝る前にルームメイトに、「電気消していい?」と一声かけて、「もちろん」「いいよ〜」との声を聞いてから電気を消した。かつ、耳栓をつけて、ネックウォーマーをアイマスクがわりにして、光と音から完全防備。我ながらドミトリーでの立ち回りが上手い。

・他人と時間をずらしすぎないこと
・一声をかけて顔見知りになっておくこと
・自己防衛をすること
 この3点が、早く寝た彼に足りなかったことだ。彼の今日一日がいい日であることを願う。

香港式朝ごはん

 泊まっていた重慶大廈(チョンキンマンション)から徒歩で行ける場所に、これまた例の友達のオススメ店があったので行ってみる。やはり飯どころは口コミに限る。
 行ってみると、悲しいことに年末年始休業だった(この日は旧暦の大晦日)。しかし幸運にも、その場所はいくつかのお店が席を共有する広場を持っていた。フードコードの原型のような場所だ。半分ほどのお店は年末を返上して開いていたので、適当な店のメニューを覗いていると、半ば無理矢理座らされる。観念して頼むことにした。安っぽいトーストと甘味ゼロのミルクティーで30HKD(約576円)。不味くはなかったけれど、これでこの値段は厳しい。台湾だったらこれより美味しいものを2回食べられる。やはり事前に調べていた感覚より、物価が一回り高い印象で、両替した金額が足りるか不安を覚える。

ここでも相席だった
やはり皿は投げられた
朝から現地客と観光客で賑わう

ブルース・リー好きに悪い人間はいない

 今日は海の向こう側(香港島)を目指そうと思っているのだけれど、朝ごはんを食べながらGoogleマップをいじっていたら、今自分のいる場所の近くに、李小龍(ブルース・リー)銅像の文字を見つけ、急いで駆けつけた。そこで出会ったお兄さんと、お互いにブルース・リーのポーズを決めながら写真を撮りあった。彼はなんと厚かましくも動画を撮ってくれと言ってきて、「アチャー」とかいいながら、足を振り上げたり、鼻をかく仕草を真似ていた。銅像が上裸だったので、「服を脱いだら?」とアドバイスしたけれど、「寒すぎるよ!」と言われた。そこまでじゃないらしい。
 僕は彼ほどは突き抜けられず、それっぽい格好で撮っておしまい。中国語がある程度できるようになって、コミュニケーションを取ることのできる人口が格段に増えたなと思う。間違いなく、人生の豊かさの一つだと感じた。

この少年は僕じゃないです

香港島へ

 地下鉄駅に向かう。地下鉄は、現金を入れたら切符ではなくカードが出てきた。入る時はタッチして、出る時は挿入して返す。ゴミが出ないのが良い。
 まったく海を渡った実感がないまま駅を出ると、建物の高層加減は大差ないのだけど、高級エリアという感じがした。バーバリー、シャネル、ドルチェ&ガッバーナなどなど、僕でも知っているブランド店が立ち並ぶ。服飾ブランドに全くと言っていいほど興味がない自分にとっては、あまり見ていて面白くない。
 駅から歩いていける中国銀行を見に行く。建築を学ぶものとして、一見しておくべきだと思ったのだけれど、中に入ってどうにかなるタイプの建築じゃないので、遠くから見てスケッチをしてすませた。しかしあまりにも高すぎる。

香港のお札にもなっている有名建築

 次の目的地に向かう途中に、あの有名なエスカレーターを発見した。『恋する惑星』に登場するあれだ。ビル群の隙間を突っ切るように、地形に沿って駆け上がっていく。何も調べずに辿り着いたことがとても嬉しかった。引き寄せられるように入り口に向かう。

それは突然現れた
くだりは階段
ビル内の光景が間近で目に飛び込んでくる
複雑な高さ関係の街

 続いて、大館という、昔監獄だった場所をコンバージョンして建てた文化施設を見に行く。現代建築が目当てで見に言ったけど、建築自体はあまり面白くなくて写真が残っていない。

カフェにコンバージョンされた監獄

 そんな中で、ある映像作品の展示が結構面白くて、じーっと見ていたら、二人の学芸員さんが一緒になって声をかけてくれた。その映像作品は、かなりぶっ飛んでいて、悪夢を映像化したみたいな、訳の分からないシナリオと映像効果が14分間も続く。僕はそれを(休憩も兼ねて)ぶっ続けで視聴していたので、相当珍しかったみたいだ。

「この映像の意味が分かるんですか?」

「いえ、全く分からないです。ただ休憩していただけです。」

 3人で顔を見合わせてひとしきり笑った。多分作った人にもはっきりと説明はできないと思う。そういうタイプの作品が、僕は好きなのだ。

立体迷路に出会う

 バスに乗って香港大学へと向かう。みんなSuicaみたいなカードで支払っていたけれど、僕は持っていないので現金で支払い。9.2HKDなんだけど、そんなのピッタリ出せるわけがないので、10HKD札(約192円)を用いて支払い。僕が支払いを終えるまでバスは発車しないので、周りからの早くしろよの視線が痛く、アタフタしてしまった。
 次止まりますボタンがあるのに、みんな口頭で運転手に伝えていた。多分廣東語(カントン語)なので聞き取れず、僕は素直にボタンを押したら降りられた。香港大学の美学博物館が目当てなのだけれど、その前に腹拵えをしようと、台湾大学の学生レストランを目指した。僕は大学を訪れるたびに、その大学のレストランで食べてみることにしている。今まで、台湾大学、東京大学などで食べたけれど、学生向けで安いのが良い。それに、学生や校内の雰囲気も体験できる。でも、それが悪夢の始まりだった。

 まず、大学自体にいつまでも辿り着けない。香港大学というバス停で降りたのに、目の前は高い擁壁である。地図上ではすぐそこなのに、高低差があまりに激しく、また案内サインも少ない。学生らしき人々の後ろをついて行ったら、なんとか辿り着けた。
 やっと大学に着いても、レストランのレの字さえ見当たらない。建物の中を横切り、竹の足場が組まれて工事真っ最中のピロティ部分を抜け、「関係者以外立ち入り禁止」のマークに幾度も阻まれながら、やっと辿り着いたと思ったら、工学部の研究棟だったり…。周りの学生と思われる人たちは慣れた足取りでスタスタと歩いていってしまう。Googleマップと校内のマップを照らし合わせながら、建物を特定し、その建物の小さなフロア案内をやっとこさ見つけ、30分ほどかけてようやくレストランを探し出した。地上10階はあろうかという場所にある空中レストランだ。ここで毎日食べれたらとても気持ちが良いだろう。
 食券機に少し並んで、やっと買える…とおもったら、「学生カードをタッチしてください」との文字。当然持っていないので買えない。誰かに買い方を聞こうと思案していたら、「このレストランは香港大学関係者にしか提供しておりません」という張り紙を見つける。そりゃないぜ…。

 こんなことは普通に考えたら全然有り得ることだけど、このときの僕は、相当お腹が空いていたことと、歩き回りすぎて心拍数が上がっていたことから、すごく頭に来てしまった。

・なぜこんなに分かり辛いのか?
・なぜ外部の人間がご飯を食べられないのか?
・そもそもなぜこんな不便な場所に大学を建てたのか?

 と、次から次へと(自分でも理不尽だと思う)疑問が湧いてくる。このときの自分の顔は相当近寄りがたかったに違いない。今なら、神父を裏切ってしまうジャンバルジャンの気持ちも分かりそうな空腹だ。そのうえ、コンビニを調べても校内にはないし、壁に寄りかかって休んでいたら、警備員みたいな人に「そこで立ち止まらないでください」と怒られてしまった。本当に座り込んでしまいそうだった。泣きべそになりながら歩いていたら、なんと唐突にカフェテリアを発見。神が救いの手を差し伸べてくれたような気分だった。値段などどうでもいいという気持ちで突撃すると、メインのランチは売り切れてしまったけれど、まだいくつかのメニューがありそうだったので、1200円くらいのクリームパスタを頼んだ。

神のクリームパスタ

 これがまあ、めちゃくちゃ美味かった。いままでの不幸(というほどでもない)が全くチャラになってしまうほど。多分、実はそんなに美味しくはないのだけれど、空腹ブーストがかかって美化されている。 

 お腹がいっぱいになると、急に余裕が出てくた。今こうやって俯瞰して書いてみると、ほんとに赤ちゃんみたいで面白い。地図をみると、当初の目的の美術館からだいぶ離れてしまっていたことに気づいた。ならば、もう一つの目的地である墓園に先に向かって、それを見た後戻ることにした。時間には余裕がありそうだった。

 そこから徒歩20分くらいだったので、音楽を聴きながら歩くことにした。ここ一週間くらいずっと聞いているbetcover!!の『告白』というアルバム。あまりにも良すぎて、歌いながら散歩。これからこの音源を聴いたら、香港のことを思い出しそうだ。

 歩いていると、バスよりずっと快適で、とても幸福な気持ちだった。適当に立ち止まって写真も撮れるし。旅はこうでなくっちゃ、とおもった。シンプルに自分の気持ちを優先するのが大事だ。

 徒歩で行くと、いろいろ発見があって面白い。一つは立体歩道。車を優先させて、歩行者を避けさせる方法には、高架と地下の2パターンがあると思うのだが、ここ香港はそのどちらでもない。僕が歩いた場所は、山の斜面が急な為、車道自体が既に半分高架で、その下をくぐるように歩道が降りていくようになっている。その為、車道に対しては地下、地上に対しては高架、という不思議な関係になっており、歩道から外が見渡せるようになっているのだ。また、隙間に木が生えたりしていて、車の為に回り道をさせられている感が全くない。晴れた日なら、日が差し込んで気持ちが良さそうだ。

外が見える立体歩道
現地でのスケッチ

 他にも、山肌を削りすぎているガソリンスタンドとか、4階に直接アクセスできる集合住宅とか、ここでしか見られない、面白い風景が広がっていた。

香港人はガソスタの為にこれだけ山を削る

(②-2に続く)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?