無限増殖する栞たち
いつから始めたことなのかもうはっきりとは覚えていないけれど、僕は本を読むときに、栞を沢山使う。栞と言っても、大抵は栞として生を受けたものではない。レシートだったり、名刺だったり、展覧会のチケットだったり、電車の切符だったり、かなりラフなものである。沢山とはどのくらいかというと、例えば、岩波文庫でいえば1冊の中に5枚ほど挟まっている。もっと厚い本だと更に増えるし、薄い本だと1枚だけの場合もある。やり方は簡単で、読書を中断したときに、前の方から栞を持ってくるのではなく、新しい栞を作成するだけ。天(本の上部のこと)からはみ出すように挟んでしまうと持ち運ぶときに邪魔になるため、栞全体がすっぽりと収まるように挟んでいる。なぜこんなことをしているのか?これにはいくつかの意味がある。
一つには、読むスピードと進捗の管理。栞が挟まっている部分を開く→読み進める→栞を移動させる、を繰り返していると、前回まで進んだところは分かるけれど、前々回までに進んだところが分からなくなってしまう。沢山の栞を用いると、読み終わったときに、何回開いて読みこなしたかと、どこで休憩しようと思ったかが、一目瞭然になるのが面白い。したがって、面白い本や薄い本は栞の枚数が少なくなる傾向にある。
二つ目は、本と自分の生活をリンクさせられること。本を読み返したときに「ポテチとビールばっかり買ってるな〜」とか、「そういえばこんな展覧会見たよなー、この頃これ読んでたんだっけ」みたいに、本から記憶が引き出されることが沢山ある。
三つ目に、財布の中身が整理できること。レシートや切符など財布に入れがちなものをどんどん挟んでいくので、自然と財布が綺麗になる。また逆に、財布の中身を見ることで、読書の調子を観察できることになる。レシートなどが溜まってくると、読書ができていないことが分かる。財布と本がお金以外の関係で結びつくのが、とても面白いと思う。逆に、もう挟むものがない!と探しているときは、沢山本を読めている証拠。調子の良いときに部屋の掃除ができるように、自分の読書の波が丸見えになる。
ここからは、ここ数年で試してきたものを列挙し、オススメ度と所感を書いていきたい。読書好きの参考になれば幸いである。
名刺 ★★☆☆☆(2/5)
名刺は放っておくと増え続けるので、どんどん挟んでいきたいのだけれど、硬さが文庫本に不向きなことと、名前が目に入ると人の顔を想起してしまい読書の妨げになることから、最近は不採用になった。ただ、名刺が手元(目に入るところ)から消えていくことは、気分がとても良い。断捨離をする気持ちよさに似ている。
レシート ★★★☆☆(3/5)
どこで普段買い物をするかにもよるのだが、長すぎるのが欠点。また、折り曲げて挟んでも良いのだが、丁寧に折らないと折り目が重ならず、見た目が悪くなり煩雑に見える。ただ、レシートならではの特典は、その時期に買っていたものが可視化されること。特に、海外旅行をしたときのレシートなどは、知らない言葉が並んでいる珍しさから貴重に思える。
一時期、大学の近くにあった大判焼き屋で一個60円の大判焼きを毎日買っていたときは、ほどよく小さく、値段も買い物の内容も可愛らしくて、重宝した。その頃に読んでいた本には数多くの大判焼きの記憶が宿っている。
映画の半券 ★★★★★(5/5)
小さく、柔らかく、映画館に行った楽しい記憶が引き出されるので、最高評価。欠点がほぼ見つからない完璧な栞。映画館によっては、硬くて使いづらい場合があるのかもしれないが。
美術館の半券 ★★★★☆(4/5)
見た目(デザイン)も良く、程よく柔らかいし、展示の内容も思い出すのが良い。ただ、ときに大きすぎるのが玉に瑕。文庫本に挟むとはみ出してしまうことが惜しい。ハードカバーの本を読むときなどに積極的に利用している。
航空券 ★★★★☆(4/5)
これも美術館と同じで、大きすぎるきらいがある。あまり飛行機に頻繁に乗らない身としては、飛行機に乗ったという特別な思い出と、そのときに読んでいたという紐付けは、見返したときにとても嬉しいものとなる。
電車の切符 ★★★☆☆(3/5)
これは台湾に暮らし始めてから始めたこと。台湾では改札を出るときにも切符が返ってくる。回収箱が置かれていることもあるけど、無いことが多く、それも本に挟んでしまう。旅の記憶と本は相性が良い。
葉っぱ/花びら ★★★☆☆(3/5)
道を歩いていて見かけた、面白い形の葉っぱとか、綺麗な色の花びらもたまに挟む。とてもロマンチックなのは良いのだけれど、色素が本に移ってしまうことと、湿気で本が痛んでしまうこと、独特な匂いがするところが難点。また、「いつ」という大事な情報がないことも、自分的にはマイナスポイント。
ポイントカード ★★★★☆(4/5)
僕はポイントカードが嫌いなので「作らない・持たない・使わない」という非ポイントカード三原則を掲げているのだけど、時たま自動的に作られて、レシートと一緒に渡されてしまうことがある。そういうタイプは基本的に紙製なので、本に挟んでしまう。そうすると、栞として成仏させられるので、一石二鳥。
出版社の栞 ★★☆☆☆(2/5)
本に最初から一枚は挟まれていることが多いので、これもちゃんと活用する。最初の一枚はこれになることが多い。
以上が、僕が5年ほどかけていろいろ試して開拓した、ちょっと変わった読書論だ。皆さんも是非お試しあれ。さもないとゴミとなってしまうものが、タイムカプセルのように記憶の引き出しになる瞬間が、とても楽しいのだ。
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