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市民参加型ワークショップのススメ

意外と重要な市政

先日、私が住んでいる自治体の市民ワークショップに参加してきた。市が作成する長期計画(10年)*の修正計画に市民の声を反映させるために開催されたものだ。国・都と比べると最も生活者(市民)にとって身近な存在であるはずの市政だが、残念ながら多くの市民の関心は低い。

しかし、実は、子育て、教育、高齢者、福祉、環境、貧困、街並み・景観など、我々が直面する様々な課題に何らかの形で支援を行う一義的なタッチポイントは市政になり、その重要性は高い。

政策立案、決定プロセスにおいて、市民の声を入れていくことが重要であると考え、ワークショップや公聴会を取り入れている自治体が多い。今回のワークショップも、その一つである。

今回、参加した市民ワークショップは、オンラインとオフラインで複数回にわたり開催された。無作為抽出と公募形式で市民が集められ、一回あたり、30人~40人が参加した。年齢も20代から80代まで幅広く、職業、居住エリアなど、属性も多様な市民が集まった。

*「長期計画」とは・・・
一般的に「総合計画」と呼ばれるもので、地方自治体の全ての計画の基本となり、地域づくりの最上位に位置づけられる計画である。10年単位の長期展望をもつ計画的、効率的な行政運営の指針が盛り込まれる。1969年の地方自治体法改正時に、総合計画の策定が義務付けられたが、2011年には、地方自治体法改正により、策定義務が明記されていた条文が削除され、策定は任意となったが、引き続き多くの自治体がこれを策定している。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B7%8F%E5%90%88%E8%A8%88%E7%94%BB

オンラインで参加できる市政

この手のワークショップをコロナ禍を契機にオンラインで自治体がトライした意義は大きい。普段、このようなワークショップは休日に市役所や市の公共施設に集まって催されることが多いが、集まる市民は、一定程度、市政に関心がある層だ。つまり、全くアンテナを張っていない市民の参加は期待できず、いわゆる普通の人の声は届かない。今回のオンラインでは、オンラインだから参加したという、日々多忙な現役世代の市民も多くいた。

市民の視点は多様

同じ市内に住むことから、共通の価値観を持つ部分もある一方で、生活圏、ライフスタイルが異なる市民がそれぞれもつ価値観、視点を垣間見ることができた点は非常に興味深いものだった。

当たり前だが、同じ市内に住んでおり、同じ最寄り駅を使っていても、住んでいる場所により、日常的に使うスーパーもカフェも、散歩する公園も違い、生活同線も日常的に見えている景色も異なることに改めて気づく。最近増えている、自転車専用道路に対しても、歩行状況に大きな差がある、若者とシニア見解は異なる。

一方で、共通項もあった。緑や公園の多さだ。これだけ都心部から近郊にありながら、吉祥寺という商業エリアを持ちながら、緑と公園があり、回遊性が高い街はなかなかない。大学や高校も多数あり、文教エリアならではの閑静さを保っている点に多くの市民が高い満足感を抱いていた。

市民が市政に参加する理由とその方法

そもそも、市民が市政に参加する理由は何だろうか。
選挙で議員を選ぶことで、市政に意見を間接的に伝えることはできる。しかし、当然ながらそれだけは不十分だ。

選挙では、個別具体的に政策の中身に触れる形で投票することは現実的には難しい。ある特定の政策の是非を問う選挙は稀にあるが、具体的にどのように市民ニーズを満たす政策にするかを検討するような選挙ではない。また、現代の市民ニーズは「あいまい」である点も見逃せない。ある程度、生活インフラが整い、最低限の生活は保障されている社会では、市民ニーズは、顕在化していないことも多く、あいまいなものだ。

同志社大学教授の野田遊氏によれば、市民ニーズは、常にあいまいであり、選挙を通じた間接民主主義では民意の政策への反映は十分ではない。市民が行政の政策過程に参加する仕組みは間接民主主義を補完するものだと位置づける。

市民ニーズを政策過程に参加させる手法

①地方自治法に規定された参加手法:条例の制定・改廃の請求、議会の解散請求、首長・議員・主要公務員の解職請求、住民投票制度等がある。その他にも、パブリックコメント制度という、行政が提示する計画素案に対する意見を求める手法がある

➁地方自治法に規定されていない参加手法:調査、会議、意見募集等がある。参加主体には、市民、自治会、NPO、市民組織、ボランティア、商工会議等がある。
調査手法には、アンケート、インタビュー、フォーカスグループ、市政モニター、討論型世論調査、サウンディング市場調査等がある。会議には、審議会、公聴会、委員会、市民会議、地域懇親会、タウンミーティング等を開催して、市民の意見を把握する手法がある。

今回参加した市民ワークショップは・・・

上記➁に分類されるものだが、今回のワークショップの目的は、コロナ禍を経た、市民のライフスタイルの変化、ニーズの変化を踏まえ、長期計画をどの程度、どのように修正するかを検討することだった。

もう一つの目的は、市民の市政への関心を高めること、市民間のコミュニケーションの場を作り、一体感を醸成すること、自治体へのエンゲージメントを高めることだ。

今回、ワークショップで特定のテーマに対して、参加者と一緒に取り組む中で、このワークショップは、後者の目的を達成するには十分な内容であったと感じた。わずか、初対面の人間が4時間程度を過ごしたに過ぎないにも関わらず、ワークショップを通じて、最後には、アドレスを交換するほど、一体感が高まった。

ワークショップから感じた課題

一方で、前者の目的はどの程度、達成されるのだろうか。問いがあいまいだったこともあり、参加者から出てきた課題、ニーズはワークショップ前に想定された範囲を超えるものはあまり出てこなかったように思う。

市はこのワークショップで出てきた声を長期計画の修正にどのように活かすのだろうか。今回のワークショップの意見が、今後、どのように修正計画に反映するのかを見守りたいところだが、属性に応じた、より具体的な問いを投げることにより、一般論を超えて、より市民の潜在・顕在的な課題とニーズを引出すこができたのではと思う。

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