Rapha Prestige Sanjo

車輪が誕生したのは紀元前数千年という大昔なのにも関わらず、自転車というのは1817年が起源とされている。古代より人力車や馬車に示すまでもなくあらゆる時代に車輪の存在を確認できるが、人類は2つの車輪を縦に並べるという発想に至るまでに何千年もかかったということだ。その頃、世界はすでに内燃機関を発明し、自動車を実用している。それは労働において荷物や人を楽に遠くに運ぶという、車輪の発明と利用の進化の埒外で自転車が誕生したと言えるだろう。自転車の起源とされる乗り物は木製の車輪が着いたキックバイクのようなものだったと言われているが、それは人類に見つかるとすぐに進化した。ペダル式の駆動が取り入れられ、現在の自転車の原型と言われるベロシペード(自転車を表すベロという言葉の原点だ)が生まれ、ペニーファージング(前輪が異様に大きいアレだ)が登場し、サイクリングやレースが、自転車による世界一周も行われた。そしてその誕生から100年を待たず、1903年には第一回のツール・ド・フランス(総距離2,428km。6ステージ19日のレースだった)が開催される。この頃には既に現在と構造上は大差の無い自転車がフランスを走っていたという。つまり自転車というのは生まれたその瞬間から、人間のちからだけで速く(だれよりも)、遠く(どこよりも)へと移動する純粋なものとして成立した。そして今もそれは結晶ような状態で、我々の目の前に存在している。

2022年6月28日、新潟県のほぼ中央に位置する三条市で行われたRapha Prestige Sanjoに参加した。Rapha Prestigeは自転車で走るべき魅惑の地で、チーム一丸となって未舗装路を含んだチャレンジングなコースにトライするイベントだ。そう、これはRapha Prestige Sanjoの参戦記なのである。それなのに長々と自転車誕生史の抜粋のようなものを書いたのは、我々が知らない街で仲間と、またそれを共有する多くの参加者と自転車に乗る行為が、自転車誕生の瞬間とそのビッグバン的インフレーションの過程で彼らが求めたものと類似、または同じであることを示唆するものである。ではその肝要な旅の道程はどうだったかということを、そこでどのような感情であったかということを、同じく1800〜1900年代に生まれ進化した写真で伝えようと筆者は試みる。

スプリングと圧縮空気による振動吸収機構のあるフロントフォークを備えたカーボン素材のフレームに、無線通信の電気制御の変速機、油圧によって動作するディスクブレーキ、フレームと同じくカーボン素材のリムに装着したタイヤの中はチューブではなく液体が入ってる最先端の自転車で、衛星で位置情報を測位確認しながら知らない土地を走った記録を、測光もフォーカスも巻き上げも全て自動で行う完全電子制御のフィルムカメラで撮影し、その現像したフィルムをデータ化してクラウドサービスを利用して発信する。しかし本質はずっと変わらない。僕たちはただ、旅をした。彼らがきっとそうしたように。


これまでに参加したRapha Prestigeの参戦記は以下にあります。


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