無人化はユーザーフレンドリーなUXか?~コンビニ無人化の素朴な疑問~

 この記事【支払い20秒 続々登場する深センの無人コンビニ体験】を一読、いよいよリアル店舗における無人化・レジ無しの動きが加速へとアクセルを踏み込んだ感があります。もちろん、そのような新しいシステムへの果敢なチャレンジは称賛に値しますが、これを、実際に日本のコンビニに導入するとなると、いくつかの疑問が頭をもたげてくるのも事実です。

そもそも、何故、無人化や無人レジの実験的試み、実証実験がコンビニで行われるのでしょうか?その答えが、単にコンビニのような業態が実験しやすい環境だから、というのであれば、そこには顧客視点が欠落していることになります。実験そのものの価値は認められても、それをそのまま受け入れて、コンビニの新しい形を模索することはできません。あくまで、ユーザーにとって、無人化されたサービスのUXが価値あるものであるか、否か、という視点が必要です。

その点も含め、ちょうどいい機会なので、コンビニ無人化を巡る素朴な疑問点を整理してみることにしました。

【1】ネットがリアル進出を模索する時代、リアル自ら最強の武器である『接客』を放棄する?

今、ネットのリアル進出の動きは、アマゾンなどの大企業にとどまらず、ネット発の中小の小売にまで裾野を拡げてきています。つい最近の日経電子版にも興味深い記事が出ていました(【BASE、渋谷に初の常設店 ネットからリアル新たな流れ】本稿末尾に添付) 。

この潮流は、単にネットがリアルの顧客データへの接近を求めているという次元の話ではありません。リアル店舗の良さ、その最大の魅力である『接客』に注目が集まっているのです。

元来が無人店舗であるオンライン店舗が、コーディネートなどの提案強化で、少しでも『接客』に近付こうとしている時、リアル自ら、手段と目的を取り違えて、拙速に無人化=接客放棄する必要はどこにもありません。

【2】無人化すると、人の作る売場の魅力は失われる!

店が丸ごと自動販売機のような無人店舗は、無機質で近未来的なものが好きなユーザーは別として、実に殺風景なものです。無人化する、という事は、売場作り、『人の作る売場の魅力』を放棄することだ、という事実を忘れない方が良いでしょう。

少し前の日経電子版の記事に【安い、面白い ファミマが「ドンキ流」コンビニ開業】(本稿末尾に添付)というのがありました。ドンキ流コンビニの試みは、シェア自転車や民泊・宅配の拠点といった副業ではない、『売場作り』そのもので真っ向勝負、客数増に挑むものです。今、既存店の客数が伸び悩むコンビニは、多少売場作りに手間暇がかかろうとも、コンビニの再定義ともいえる大きなチャレンジを始めています。

コンビニを再定義して新たな顧客を開拓しようという時代、今まで取り込めていなかった潜在的な需要を見極めようというチャレンジに、『無人化』は馴染まないものです。

【3】コンビニの提供するモノとサービス、品揃えが急激に変化する時代

【2】とも関連しますが、「ドンキ流コンビニ」や「成城石井コーナー」(【ローソン、セブン追う「日販60万円」への秘策】本稿末尾に添付)などの『モノの品揃え』の変化、そして、ネットとリアルの融合する時代に新たに登場する、シェア自転車や民泊の拠点、宅配の拠点といった『サービスの品揃え』の変化、多様化は、やはり『無人化』とは馴染まないものです。

【4】無人化は、人の手によるサービスを放棄する事

【2】【3】をさらに突き詰めて考えると、無人化とは、人の手によるサービス、人がいることによって可能となる業務、接客対応を放棄するという事です。

ユーザーの立場で、例えば、現状お会計している間に温めてくれるお弁当を、会計が終わってから自分で温める?

棚の商品が品切れしていても、今なら、店員さんに頼めばBRから出してくれる……

現状、商品は会計時に店員さんが袋詰めしてくれますが、自分で袋に入れる……店が混んでいる時など、顧客が自分で袋詰めするスペース、サッカー台のスペースを取れるのだろうか?

・・・・・・

単純に、無人コンビニと有人コンビニが近くにあったら、品揃えやサービス、店の雰囲気などすべてを総合して「どっちに行く?」という問題です。子供にはあまり行かせたくないかも……。もちろん無人コンビニの条件に合う立地もあるでしょうが、無人コンビニが有人コンビニに勝てるようには、どうしても思えません。

【5】無人化すべき部分はどこか?

このように考えると、無人化に当たっては、店舗の完全な無人化というよりは、UXからして無人化した方がユーザーフレンドリーな部分はどこか、という視点が必要そうです。無人化というよりは、ロボット化という発想も(商品補充ロボットなど?)必要かも知れません。

【6】レジ無しの課題

やはり、最も可能性、必要性の感じられる部分はレジ、決済プロセスです。現状、人手不足の状況では、不慣れな店員さんがレジに入らなくてはならない時などは特に、レジを起点とした負のスパイラルが起きてしまうと考えられるのです。

① ピークタイムになりレジが混雑する。 ⇓② 顧客は、長時間待たされる上、不慣れな接客で不満を募らせる。 ⇓③ 店員さんが全員レジ応援に入り、品出しが追いつかず、あちこちにカラの棚が見えている。顧客は欲しいものが買えない。 ⇓④ レジがひと段落して品出しに戻った店員さんは、商品を出すのに一生懸命で、近くにお客さんが行ってもどいてくれない。買い物がしづらい状況。 ⇓⑤ 買い物しづらい中何とか商品を選んでレジに行くと……(⇒①)

コンビニにおいて、レジは、決済プロセスは最も顧客のストレスの生じやすい要注意ポイントと考えられます。しかも、レジが混むことによって、他の業務にも支障が生じ、そこでも顧客のストレスが蓄積していく。このような状況の打開策としてレジ無し化は、喫緊の課題にも思えますが、やる以上は本当に有効なものでなくてはなりません――

① かえって時間がかかるようなシステムでは採用できない。② 混雑時にも機能するシステムでないと採用できない。③ タグの貼り付けなど余分の作業の発生するシステムは採用できない。④ 既存のテクノロジーで組み立てられた即採用可能なシステムは、すぐにより良いシステムが出てくる可能性がある限り採用すべきではない。たとえ採用が遅れても、最先端のシステムを導入すべき。⑤ 決済を無人化することによって、その周縁のサッカー業務・お弁当温め業務などがどうなるのか、周辺業務も含めたトータルでの見極めが必要である。⑥ レジ無しにするために、どのように店のレイアウトを変えるのか、どれくらいのスペースが必要か、抜本的に店づくりを見直さなくてはならない。⑦ 無人レジと有人レジを併用するのか?

 今、コンビニが迫られている課題は、決して人手不足の問題だけではありません。新規の顧客を開拓して客数を増やす、という根本的な課題がトッププライオリティーではないでしょうか。無人化はあくまでその文脈の中で検討すべき課題なのです。

 

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO30867780T20C18A5000000/

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31802550V10C18A6000000/

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31245850R00C18A6HE6A00/

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31384130V00C18A6000000/

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