AI時代の論文不正検出システム

 どれほど倫理規範が高水準で浸透している組織であっても、組織である以上人間の集まりですから、そこから逸脱する人の出てくることは避けられない、つまり、論文不正をゼロにすることはできない、という事なのでしょう。

それでは、論文不正は、どのような条件で発生するのか?

いろいろな条件が複数絡み合って発生してしまうのでしょうが、全ての論文不正に共通の、言わば必須の条件があるとすれば、それは、他の投稿者の方もおっしゃっているように、『研究者が自分の不正は発覚しないと認識する』事だと思います。不正が発覚すると自覚して不正を働く人、ある短期間だけ発覚しなければよいと覚悟を決めて不正を働く人は、ゼロとは言いませんが、極めてまれなケースだとみなして除外します。

ちなみに、必須条件以外の任意の条件については、研究者が、そもそも自分の研究で出した結論に対してどういう認識を持っているか、ということを分析すれば見えてくると思います。それは、3タイプあると考えられます。

・(パターン1) 結論部分はほぼ100%正しい、と認識している。
・(パターン2) 結論に対する自信はあやふや。
・(パターン3) 結論は間違っている、とはっきり認識している。

そこで、それぞれの場合に不正を犯してしまう条件を推測すると――

・(パターン1) 結論は正しいのだから、結論に至る過程に不正(改ざん・ねつ造・盗用)があっても構わない、と認識する事。
・(パターン2) 早く論文を提出しなくてはならず、これ以上実験等に時間はかけられないから、やむを得ない、と認識する事。
・(パターン3) 世の中を欺こうという認識。(これは、全くの論外で、研究者ではなくペテン師の領域です。)

少し長くなりましたが、以上をふまえた上で、私は、あくまで一読者として、不正対策と言うものを考えてみたのですが、今各方面で取り組まれ、また提言されている様々な対策を見てきて、どうしても気になることがありました。eラーニングを活用した研究倫理の教育、落ち着いて専念できる研究環境づくり等々、どれも、これは必要だな、と思わせるものばかりなのですが、決定打には見えないのです。

それは、私が、冒頭に記したように、全ての不正は『研究者が自分の不正は発覚しないと認識する』ことから発生する、と考えるからです。

理論上は、研究者が、『不正を働けば、必ず発覚する』ものだと認識し、そうなったら研究者としての道に終止符が打たれるのだと思い至れば、不正は防げる、という事です。荒唐無稽かも知れませんが、単刀直入に言うと、『論文不正が必ず(とは言わないまでも、極めて高い確率で)発覚するシステム』です。どうしたって、この点を押さえる必要があるのではないでしょうか?

でも、そんなシステム、一体誰が担えばよいのでしょう?私のような素人の目にも、膨大な量の論文をチェックするためのうんざりするようなエネルギーとコストは、登頂不可能な未踏峰のように見えます……。私の回答は、もうタイトルに書いてしまってあります。こういう状況こそ、こういう状況の解決こそ、AIの出番なのではないでしょうか。改ざん・ねつ造・盗用のディープラーニングを行い、実験ノート・データ・論文を突き合わせて不正箇所を検出する……。AIに、すでに世に出ている不正画像検出用ソフトウエアなどの既存の技術を組み合わせて、1次的な検証を行う。その上で、(ここが肝心の点ですが、必ず)人の手で2次検証を行い、最終的判断を下すのです。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO26617020W8A200C1SHA000/

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