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ナガサキアゲハと温暖化

 今年は、記録的に短い梅雨となったと思えば、今度は台風がやってくる。温暖化の影響が懸念される中、日経新聞の記事に今の状況をズバリ表現した短いフレーズがあった――

日本列島が全体として、数百㌔㍍南下したイメージ


 列島がそんなに南下すれば、その分生物相の北上があってもおかしくはない。筆者には前から気になっていた昆虫がいた。本来は南方系のチョウで、東南アジアから台湾などを経て、日本では九州辺りまでを分布域としていた、その名もナガサキアゲハだ。
 このナガサキアゲハ、日本では最大級のチョウで、近畿・関東北部・南東北とその分布域をどんどん北上させている。見てみたくもあるし、温暖化のことを考えると見るのが怖いような気もする。
 
 ナガサキアゲハが、筆者が都心の自然撮影によく訪れる白金台の国立科学博物館附属自然教育園に生息していることは、そのウェブサイトから知っていたが、半信半疑というか、希望的観測というべきか、実際に見るまでは信じられない気持ちであった。
 それが、7月のはじめ、とうとうその撮影ができたのである。ただ、黒を基調としたアゲハチョウは、カラスアゲハ・ミヤマカラスアゲハ・クロアゲハ・モンキアゲハ等たくさんいて、自分が撮影したアゲハチョウがナガサキアゲハと分かったのは家に帰ってよく見てからである。
 オスに特有の真っ黒な姿に、微かに何本もの線状に青い鱗粉が輝いており(翅に付着しているオレンジ色の粉は、この時期アゲハチョウがよく集まるノカンゾウ・ヤブカンゾウの花粉)、決定的なのは後翅にアゲハチョウの仲間に多い尾状突起がない――ナガサキアゲハだ!——。

 ナガサキアゲハは、撮影の後、いかにも大きなアゲハチョウらしく、ゆるやかに、優雅に飛び去っていった。世間には今だに温暖化を信じず否定する、またはその影響を軽く考える人もいるようだが、筆者はナガサキアゲハの方を信じる。自然の生き物は噓をつかない(擬態等は別として)。
【以上、『随想自然』第2話】


(筆者のインスタグラムhttps://www.instagram.com/angelwingsessay2015/では、主に東京都心で見れる自然の写真を紹介しています。)

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