Vチューバーの魅力~バーチャルな『仮託』のメカニズム~

 この記事【おっさん記者、美少女キャラに変身 動画新潮流】は、人間の動きをモーションキャプチャーで読み取って、リアルタイムでCGキャラクターに反映させる手法でコンテンツ作りをするVチューバーの活動の広がりを、記者の体当たり取材でリポートしてくれています。記者が自身でアニメーション作りにチャレンジする動画から、百聞は一見に如かずで、比較的簡単にVチューバーとして活動を始められそうなことが分かるのです。実際、私自身、やる気になれば出来るな、と思いました。例えば、このCOMEMOへの投稿なども、文章を練って綴っていく作業は結構大変ですが、Vチューバーとしてコンテンツを作って、そのページをここへ貼り付ければ完了、書くよりもしゃべる方が早いし、はるかにインパクトがあるかも知れません。

 それはさておき、Vチューバー活動への参入のハードルが下がったのは、記事にもあるように――

①技術の進歩・・・モーションキャプチャーなどの技術の進歩で、アニメ制作にかかる時間が大幅に短縮された。②装備のコストダウン・・・制作に必要な機材のコストダウンで、プロでなくても手が出るようになってきた。③スタジオ撮影の制約からの解放・・・スマホで自撮りすると、自分の姿の上にキャラクターが合成されるような技術も開発されている。

――やはり、テクノロジーの長足の進歩が大きいです。

そして、このVチューバーが人気を集めている要因としては(日経電子版の記事【ユーチューブのCGアイドル 「Vtuber」が人気爆発】参照。本稿末尾に添付)――

①本体は人間・・・キャラクターの外見の背後に生身の人間がいて、生身のやり取りが出来る。②生配信でリアルタイムの交流・・・生配信で視聴者とリアルタイムで会話などが出来るため、親近感が育つ。

――つまり、Vチューバーとは、『CGキャラクターの魅力的な外見』と『生身の人間としての魅力』(トーク力など)を兼ね備えた存在なのです。

それでは、このようなVチューバーとしての活動の、本人にとっての意味、Vチューバーの本質とは何なのか、私は、それは『仮託』であると思います。『仮託』のほぼ真逆の意味のある『憑依』と対置してみると――

●『仮託』・・・自分以外のモノにかこつけて(ことよせて)、自分を表現するコト。●『憑依』・・・霊などが人間の体内に入って、その人が精神的・肉体的な影響を受けること。

――つまり、Vチューバーの場合は、『憑依』とは逆の作用で、Vチューバー本人が、CGキャラクターにことよせて、自己表現するのです。しかも、『憑依』と決定的に違う点は、CGキャラクターはそれ自体としては空っぽの存在で、『憑依』の対象である人間のように中身がある一つの人格ではない事です。Vチューバー本人がCGキャラクターに仮託することで、Vチューバー本人とCGキャラクターが一体化して初めて一つの人格になると考えられます。Vチューバーという言葉に若干のあいまいさが残るのは、そのようなメカニズムになっているせいではないでしょうか――

▶『Vチューバー』という言葉のニュアンス●Vチューバー=CGキャラクターになって配信する人、素顔の本人というニュアンス。●Vチューバー=CGキャラクターと素顔の本人が一体化した一つの人格としてのCGタレントというニュアンス。●Vチューバー=ユーチューブ上で活躍するCGキャラクターそのものというニュアンス。

Vチューバーの本質を『仮託』と捉えると、そのメカニズムにはどのような効果があるでしょうか――

①『匿名性』・・・生の自分を出さなくて良い。記事にもあるように「何らかの理由で素顔をさらせない人」でも、自己表現できる場が新たに一つ出来た、ということです。②『魅力的な外見の獲得』・・・音楽であれトークであれ、何であれ、自己表現をする自分に個性的で魅力的な外見があればと思う人は多いはずです。Vチューバーであれば、たちどころに好みの外見を獲得できます。例えば、今まで作詞作曲で甘んじていた人が、自ら歌手デビューしようと思うかも知れません。③『本音の表現』・・・生身の自分ではいろいろと差しさわり、はばかりのあるようなこと、生身の自分では恥ずかしくて、照れてできないようなことも堂々と自己表現できます。ただし、それは、決して人を不快にしてよい、人を傷付けてよいという事ではありません。自分を解放して自由な自己表現をすることには、責任が伴います。④『知らなかった自分の発見』・・・CGキャラクターという全く新しい自分に生まれ変わることで、今まで無意識に抑圧されていた、あるいは、自分でも気付かなかった才能に開眼するかも知れません。

――こうしてみると、CGキャラクターに仮託して、CGキャラクターと一体化して、全く新しい自分となって自己表現することには、限りない可能性が秘められているように思えます。Vチューバーの魅力に気付いて、自らVチューバーになろうと志す人は、今後ますます増えてくるのではないでしょうか。ほんの数年もすれば、ユーチューブ上で、大勢のVチューバー歌手、Vチューバー芸人、Vチューバー評論家、等々が大活躍して、リアルな世界(TVなど)にまで進出しているかも知れません。Vチューバーとは、限りなく本人でありながら、限りなく本人ではない、不思議で魅力的な存在です……。ふと思ったのですが、Vチューバーを超える存在、究極のVチューバーがあるとすれば、それは、現実の肉体を持ったアバター(分身)ですね……

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO32665260V00C18A7000000/

https://style.nikkei.com/article/DGXMZO32234030W8A620C1000000?channel=DF160120183383&style=1

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