【物書き部企画】森本英樹 42歳  No.01_人が苦しんでいるのが嫌い

物書き部 〜第二章〜 Presents
田村淳の大人の小学校・すばらしき児童たちのインタビュー記事
田村淳の大人の小学校・すばらしき児童たちとは?

Vol.00のプロローグの続きです!


1991年4月。
スラムダンク連載開始の半年後、彼は中学生になった。
同時に6歳年下の可愛い可愛い妹が、小学校に入学する。
ピカピカのランドセルを背負った森本家のアイドルに向かって、彼は言った。
「いじめられた時は、お兄ちゃんに言えよ!
 絶対助けてやるからな!」
そして考えた。
もし妹がいじめられている現場に遭遇したら、どうやって救おう。
いじめた奴に、何て言ってやろう。
自転車での登下校の間、ずっと考えていた。
いろんなシチュエーションを想定し、脳内シミュレーションを行い、
いつでも助けられる状態になっていた。
あとは、現場に遭遇するのみ。
さぁ、待ってろ。
妹を救い、いじめっ子を成敗すべく、いじめ現場を探しながら自転車をこいだ。
毎日探した。
今日も出くわさず。
今日も見当たらず。
今日もいじめ現場には遭遇しない。
来る日も来る日も探したが、妹がいじめられている現場など、どこにもない。
いつの日からか、思うようになっていた。
〝あいつ、いじめられてたら いいのに。
 ちっとも助けさせてくれないじゃん。”
〜〜〜〜
「昔から、ちょっとおかしな正義感を持っていた」という話の中で出てきたエピソード。
「よくよく考えたら、いじめられるはずなんてなかったんですよね。
 うち、めっちゃ明るい家庭で、妹も明るい性格だったし、いじめられるような要素もなかったし。」
確かに、行き着いた考えは、間違ってはいる。
でも、それだけの思いがあり、それだけ夢中で考えていたのだろう。
愛情も思考も、深耕かつ深厚。
彼の話を聞いていると、家族への愛、まわりの人への愛を感じた。
彼から発せられる言葉は、しっかり考え、なるべく正確に伝わるように選ばれたものだと感じた。
いじめに関しては、こんな話もしてくれた。
長女が小学生だったある日、話題の流れから、いじめられていないかと聞いたそうだ。
答えはノー。
「でも、いじめられてる子は、やっぱりいるんだよねー。」と続いたという。
俺、怒ったんですよ。
「え?お前、それ、見て見ぬ振りしてんのか?
 おかしいだろ?
 お前がいじめられないのは、わかってんだよ。
 お前が次にやることは、いじめをなくすことだよな? 
 お前がやれること、やれよ。
 助けろよ、全力で。」
って。
変な怒り方ですよね。
他の親だったら、しないかなぁと思います。
それを聞き、
「うーん、変なのかな?
 でも、親がみんなそうだったら、子供もみんなそうで、
平和なんじゃないかなぁ と思います」
と伝えると、
「そうですよね。」
と言った後、少し考えて続けた。
「でも、それは たぶん、
 自分の娘にはその能力があると思ったから。
 僕はそう思ってたから そんな風に怒ったけど、
 その子に能力がないと思っていたら、
 避けろ。避けなさい。って言うかもしれないですね。
 行かなくていいよ、学校なんてって言うかもしれないし。
 長女のことは、こいつはやりよるな、って元々思ってたから。
 いじめられるわけねーと思ってたし。
 だから、
 お前は、助けるやつだよ、って。
 いじめやめなよ!っていう直接的な言葉じゃないよ。
 いじめが起こらない空気に持っていくんだよ!
 って一生懸命言ってました。小学生相手に。
 あんまり理解してなかったですけどね。」
長女は、自分に似ているのだと言う。
自分が持っているものに近いものを持っているから、
自分が42年生きてきて得たことを、めちゃくちゃ教えている。
次女は、奥様に似ていて、自分にはないものを持っている。
だから、変に教えて変わって欲しくない。
二人の娘が育つのを見てきて、独自の考え・教育論も持っている。
このあたりのお話は、また改めて紹介したい。
「いじめる、とか許せないんですよね。
 すごく嫌い。好きな人なんていないと思うけど。
 苦しんでるのが嫌。
 嫌だからお笑い芸人になってるんでしょうね。
 楽しいのが好きだし、
 誰かが苦しんでる姿、みたくないし、見ていられないんですよ。」
そして彼は超ロングインタビューの最後に、
「プレッシャーだなぁ。書けるかなぁ。」と
思わず不安を口にしてしまった私に、言った。
「プレッシャーなんて感じないでください。
 そんなこと感じてたらパフォーマンス落ちますから。
 楽しんでいただきたいです。
 嫌になったら、やめてしまえばいいんです。
 楽しみながらじゃないと、ダメですよ。
 それが僕のスタイルでもあるんで。
 苦しいことなんかさせたくないです。
 楽しみが提供できるほうがいい。」
あの言葉を真っ直ぐに受け取った私は、
一気に記事を書くことを諦め、
録音データを聞き返しては、聞くこと・考えること・少しだけ書くこと、を繰り返し、楽しんでいる。


Vol.02〜  へ続く...

「インタビューを受けた人」
森本教頭

「インタビューをした人」
コダマ 【2期生】


この記事が参加している募集