カスタマーサクセスの貢献利益ってどうやって計算するの?という話(後編)
こんにちは!株式会社ナレッジラボの小野と申します。
前回のnoteでは、カスタマーサクセスの貢献利益の考え方について紹介しました。
今回は、LTVの観点から、カスタマーサクセスによる売上・利益貢献の考え方を深堀りします。
LTVとは
LTV(LifeTime Value:顧客生涯価値)とは、顧客から生涯にわたって得られる価値をいい、具体的には、顧客が自社製品を利用することにより創出される売上高や利益の生涯合計額を指します。
LTVはカスタマーサクセスの重要指標の一つであり、LTVをカスタマーサクセスの最重要KPIと位置づけているSaaS企業も多いと思います。
SaaSのLTVは一般的に以下の計算式で算出されます。
LTV(売上ベース) = ARPA ÷ Costmer Churn rate
LTV(利益ベース)= ARPA * Marginal Profit rate ÷ Costmer Churn rate
*Average Revenue per Account:1アカウントあたり平均売上高
*Marginal Profit rate:限界利益率
*Costmer Churn rate:顧客ベースの解約率(チャーンレート)
一般的にLTVというと売上ベースの指標を指すと思いますが、限界利益率を乗じることで、より厳密な利益ベースのLTVを計算することができます。
たとえば、次の前提では売上ベースのLTVは2,500,000円となります。
ARPA = 50,000円
チャーンレート = 2%
LTV = 50,000円 / 2% = 2,500,000円
前回のnoteと同じ次の計算例であれば、一年を通じてLTVが5,000,000円から約5,500,000円に増加しています。
【計算の前提】
NRR:101%(12ヵ月連続)
チャーンレート:1%(12ヵ月連続)
毎月の新規売上高:1,000,000円
2021年12月末時点のアカウント数が232ですので、この時点の単純計算では、次がカスタマーサクセスによって増加した顧客の生涯売上となります。
(5,500千円 - 5,000千円)* 232アカウント = 116,000千円
前回のnoteで、「カスタマーサクセス活動が与える売上や利益への貢献は、単年で計算できるものではない」ということをお伝えしました。
LTVは「顧客から生涯にわたって得られる価値」を表す指標なので、単年ではない将来的な影響を加味したカスタマーサクセスの貢献売上や貢献利益を計算したい場合、LTVは重要な指標の一つとなります。
LTVを向上させるためには、「ARPAを上げるか、チャーンレートを下げるか」が必要です。ARPA向上のシンプルな要因はアップセルやクロスセルの増加です。
ナレッジラボのカスタマーサクセスでは、NRRをKPIとしておいているのですが、NRRを因数分解しても結局同じような結論にたどり着きますので、最終的なKPIとしてNRRをおこうがLTVをおこうが、足元で追うべき数字は同じようなものに収束するだろうというのが私の考えです。
LTVに関する論点
LTVをより正確に計算しようとすると、いくつかの細かい論点があります。
チャーンレートをどのように取り扱うか
LTVの計算式として、次を紹介しました。
LTV(売上ベース) = ARPA ÷ Costmer Churn rate
LTV(利益ベース)= ARPA * Marginal Profit rate ÷ Costmer Churn rate
*Average Revenue per Account:1アカウントあたり平均売上高
*Marginal Profit rate:限界利益率
*Costmer Churn rate:顧客ベースの解約率(チャーンレート)
この計算式におけるチャーンレートは「顧客ベース」を採用していますが、「売上ベース」のチャーンレートを採用する場合もあり得るかと思います。
「売上ベース」のチャーンレートを採用する場合の問題点として、ネガティブチャーン(チャーンレートがマイナス=アップセルやクロスセルで増加した売上がチャーンで減少した売上を上回っている状態)となった場合に、LTVがマイナス計上されてしまうことが挙げられます。
したがって、シンプルにLTVを計算しようとするのであれば、「顧客ベース」のチャーンレートを採用するのがいいのではないかと思います。
また、どの時点のチャーンレートを採用するのかという意味で、月次or年間平均or生涯平均など、様々な選択肢があります。チャーンレートが安定している場合、どれを採用しても大差はないかもしれませんが、月次チャーンレートに振れ幅がある場合、一定期間の平均チャーンレートを採用するのがいいのではないかと思います。
割引率をどう考えるか
LTVは「顧客から生涯にわたって得られる価値」を表す指標ですが、LTVの計算式では、「生涯」の部分を簡便的にチャーンレートから逆算しています。
たとえばチャーンレートが2%の場合、1 / 2% = 50ヵ月がLTVにおける顧客の生涯期間となり、この50ヵ月に創出される売上や利益がLTVとなります。
LTVの計算式ではこの50ヵ月に安定して売上や利益が創出されることを前提としていますが、特にSaaSスタートアップにおいては、50ヵ月=4年2ヵ月の間に外的要因や内的要因でビジネス環境は大きく変化すると思います。したがって、このリスクファクターを割引率という形でLTVの計算式に織り込むことで、より実態に近いLTVを算出することが可能となります。
このあたりは下記のウェブサイトに計算例を含めた解説がありますので、興味のある方は是非ご参照ください。
このウェブサイトによれば、SaaSビジネスにおいては、以下の割引率の採用を推奨しています。
10% for public companies
15% for private companies that are scaling predictably (say above $10m in ARR, and growing greater than 40% year on year)
20% for private companies that have not yet reached scale and predictable growth
例えばARR10億に満たないスタートアップでは20%の割引率をLTVの計算に織り込むことになり、この場合、一般的な算式で計算した場合と比較して、大幅に低いLTVが計算されることとなります。
このウェブサイトでは、より厳密なLTVを計算するためのExcelシートがダウンロードできますので、一度自社の数字をあてはめて、理論的に正確なLTVの数字を把握されてみてもいいかもしれません。
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LTVはカスタマーサクセスの重要指標であり、多くのSaaS企業はLTVの最大化をカスタマーサクセスのKPIにおいていると思います。
そのうえで、より厳密なLTVの計算方法を理解することで、カスタマーサクセスの貢献売上や貢献利益をより正確に測定できるのではないかと思います。
さいごに
全2回にわたってカスタマーサクセスの貢献売上や貢献利益の考え方を紹介しましたがいかがだったでしょうか?
特に後半はテクニカルなLTV計算の話となってしまいましたが、カスタマーサクセスによる貢献売上や貢献利益を社内に示すためには、前提となる売上・利益の計算の考え方や定義をしっかりと理解する必要があると考えます。
前回のnoteでご紹介したように、ナレッジラボでは、カスタマーサクセスによる貢献売上や貢献利益を可視化することで、社内へ存在感をアピールする取組みを行っています。
これにより、「会社の売上や利益を増加させるためにカスタマーサクセスに投資する」という意思決定が可能となると考えていますので、会社が自信をもってこういった意思決定をできるよう、今後もカスタマーサクセスによる貢献売上や貢献利益を伸長させ、それを可視化できる取組みを続けていきたいと考えています。
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Illustration by Freepik Storyset
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