業務効率化とスローライフは1セット

 人口減少社会では、一人あたりの業務量は確実に増えていく。すべての人が上りのエスカレータにたたずんでいるようなもので、少しでも足を止めてしまえば、あっという間にやるべきことが積もっていく。たえず業務改善を工夫する姿勢は、今後は誰にでも必須のスキルになるはずだ。

 私は職場でよくタイマーを使っている。例えば、私が上級研究員や部長職を務めていた頃、部内ミーティングで、業務報告を1分、3分、5分でやってみよう、と提案することがあった。人間には、もともと体内時計があるが、多くの人は体内時計の調整が必要だ。たいてい1分の感覚がないので時間オーバーになる。日本語は大切なことを最後に言う言語なので、尻切れトンボだと、意味不明になってしまう。「思う」のか、「思わない」のか、最後まで聞かないとわからない。

 しかし、何度か失敗をすると、だんだん話し方が英語のような話し方に変わってくる。一つひとつの議案に対して、最初に自分は賛成か反対か、という結論を言ってから、次にそう考える理由を重要な順に挙げるようになる。これだと、仮に尻切れトンボになっても、何を言いたいのか伝わる。限られた時間の中で、効率よく情報を伝達するスキルを部下たちはマスターした。

 しかし、同じことを客先でやることはない。タイマーをセットして、「私は1分で話すので、お客さまも1分で」なんて、やるのは明らかにおかしい。

 ただし、「社会的立場が上だから好き放題話す」、「社会的立場が下だから言葉数を少くしないといけない」というわけではないと私は思う。24時間は、皆に等しく与えられているものだからだ。社会的な立場の上下で、時間の価値が変わるわけではないだろう。

 かつて、私が有識者委員の一人として参画した、ある官庁の審議会で「座長代理」という役割を与えられたことがある。その審議会は、委員の数が多かったので、時間のコントロールは重要だった。にもかかわらず、特定の委員たちの話が長すぎて、他の委員はほとんど意見を言えない状況があった。

 そこで、全委員の発言時間をタイマーで区切ることにした。気分よく話せなくなった委員からは、もしかしたら若造の私がリーダーという肩書をいいことに好き勝手していると思われたかもしれない。しかし、何人かの委員からは「渥美さんのおかげで、きちんと意見が言える時間ができた」と感謝された。タイマーも効率化もツールに過ぎず、生み出した時間で何をしたいかが重要だ。

 ライフ面でも同じだ。私は、家事は徹底的に効率化・合理化を追求する一方で、老父の介護や子育ての場面では相手のペースに合わせる。たとえば、子どもに絵本を読み聞かせるときに「よし、今日は1ページ40秒で読むぞ!」と宣言したり、要介護の父と連れ立って散歩にいくとき「お父さん、100メートルを2分フラットで行こう」なんてことは、ありえない。そういった相手のペースを最大限に尊重すべき場面でもある。

 父や子どもたちと夕方、散歩する中で、季節ごとに草花や昆虫の姿に足をとめたり、その日にあった出来事を話す、子どもたちの拙い言葉にじっくりと耳を傾ける。とてもゆったりとした時間の流れに身をまかせると、仕事のストレスもほぐれていく。

 そうした豊かな時間を勝ち取るために、効率化できるところは徹底的に効率化してきた。何事もメリハリが大切だと思う。

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