バーニングマンその1@トスカーナ

5/30〜6/4の間、イタリアのトスカーナ地方・フィレンツェの近くで行われたバーニングブーツというイベントに参加した。名前の通り、バーニングマンというアメリカで行われている自然の中での大規模なイベントの一つである。発祥であるネバダ州で行われるバーニングマンは毎年七万人程度の人が集まるらしいが、世界各地で色んな種類・規模のバーニングマンがある。今回はその中でも最小のイタリアのキャンプに参加した。友人によると、イタリア人のピクニックらしい。参加者は三十人程度。

29日にComprehensive Examinationという進級試験のようなものを終え、30日はもぬけの殻のようになりながら、必要なものを買い出しに行く。必要なものはキャンプ用品をイメージしてもらうとわかりやすい。テント、寝袋、着替え、食料など。テントと寝袋は幸い運営の方が予備を持っていたので持って行かずに済んだ。今回のバーニングマンでは飲み水も手に入るとのこと。大きなバーニングイベントでは水も自前で用意しなければならないらしい。

30日の夜八時に友達二人とリスト・フェレンツ空港で待ち合わせ。アメリカ人のTとモンテネグロ人のCである。この二人は春まで通っていたアートセラピーで出会い、大学以外では数少ない友人だ。心配性なので八時より前に空港に着いたが、もうチェックインできる状態だったので、列に並ぶ。するとTがやってくる。彼女は火を回すパフォーマンスをするので、荷物が特に多い。TによるとなんとCは家族に不幸があり、急遽来れなくなったとのこと。残念だがどうしようもなく、二人でイタリアに飛ぶことにする。

トスカーナ地方へは格安便でブダペストからピサ行きの飛行機がある。キャンプ地はフィレンツェの近くなので少し遠いが、ピサから電車で一時間ほどなので、前日にピサに一泊、翌朝の電車で移動することにした。ピサではTの双子の姉妹Wと合流することになっている。

このイベントに行きたいといったのは紛れもない私であるが、Tは最初来ると思わなかった、来てくれて嬉しいよと言う。彼女がイベントを紹介してくれたのだが、確かに私も最初行こうとは思わなかった。まずインドアな人間なので、キャンプ自体があまり好きでない。加えて知らない人と一緒に数日間暮らし(ワークショップなどもあり交流が盛んなのである)、お風呂にも入れない。そして今でもそうだが私は英語のネイティブスピーカーに対する英語への不安のためか、ネイティブと話そうとすると妙に口数が少なくなり居心地が悪くなる。初めてヨーロッパに移り住んだ時よりはこれでもよっぽどマシだが、正直双子のアメリカ人と通算すると五日間ほどみっちり一緒にいることを考えると非常に辛いものであった。もちろんこれは今だから言える話。

ではなぜこのイベントに行ってみようと思ったかというと、ただ単純に自分がしなさそうなことをやってみたいという気持ちが大きかったからだと思う。アートセラピーに参加した頃から、バーニングブーツに限らず、身の回りの環境をどんどん変えてきた。というか環境は常に変わっているのだが、学業以外で自分に対する投資みたいなことをずっと疎かにしてきたような気がするのだ。

余計なことには出費しないようにしていたので、旅行も最低限(修士のイギリス滞在時はラボ見学にブダペストを訪れただけ)、服も同じようなものをずっと着続け、気がつけば浪人時代に買ったTシャツをまだ着ていることに気づいた(もちろん全ての服がそうではないが)。と言うわけで、新しいテイストや形の服を買ってみたり、新しいイベントに挑戦したり、10年ぶりにピアノを習い始めたりなど、研究とは関係ないところで少しずつ自分の投資を始めているわけである。

ピサに着くとWが既にアパートにチェックインして置いてくれて、迎えにきてくれる。なるほど、TとWは双子だとわかっていたが、そっくりである。しかし不思議なのが本人たちは一卵性か二卵性か知らないそうだ。最初はそっくりなので一卵性にしか思えなかったが、今は表情や声の違いなどから全くの別人にも見えるので、もしかしたら二卵性かもしれないとも思っている。

翌朝、ピサからフィレンツェを経由してシエチという田舎の駅まで移動し、そこから知り合いの人が迎えに来てくれると言う。シエチに向かうまでは、Wがモロッコから持って来てくれたオリーブやイタリアのパルメザンチーズなどを食べる。シンプルだがとても美味しい。

シエチではイタリア人二人が迎えに来てくれた。ヨーロッパ(大陸)だと当たり前だが早速のハグ。毎回あまりスムーズにできない私。イギリスだと初対面でハグはあまりないので、ある種日本と似ている部分なのかと思った(島国の恥ずかしがり屋気質)。

一日目

キャンプ地に着くと、早速荷物を起き、受付などの設営を手伝う。デコレーションや既にいる人々を見た感じの第一印象は、ヒッピーのキャンプである。もともとバーニングマンというイベントの性質上そういう部分があるのは想定したが、すごくオープンな場所だと感じた。

テントや自分たちの荷物を担いで、山を登り、テントにふさわしい場所を探しに行く。だいぶ奥の方まで登って、自分たちのテントを立てる。テントを立てる経験をしたことがあったかもはや記憶がないぐらい、私には久しぶりの(もしかしたら初めての)体験であった。三人で三十分だけ昼寝をするつもりが、二時間ほど寝てしまう。

夕方、下に降りて夕飯の支度。私は加熱するものなどを持っていなかったので、ひたすらパンや缶詰の食品などを食べる。双子が小さなフライパンで調理したスープやお米、コーヒーなどを作って分けてくれる。

私たちの他は八割ほどがイタリア人。イタリア人たちは車があるので、山を降って新鮮な食品を買い込み、火を起こして肉や野菜を焼く。それを分けてくれる。赤身の肉がとても美味しかった。

ただただ火を見ながら色んな人と喋る。イタリア人の他に、オランダ、アイルランド、ドイツ人など。芸術学生もいたり、フリーランスで働いている人、これから旅に出てやりたいことを探す人など。

深夜の一時頃、私は眠いので先にテントに帰って寝る。幸いまだ暑い時期ではなかったので、体を簡単に拭き、寝巻きに着替えて寝袋に入る。そのまま一度も起きることもなく、朝まで眠った。

つづく