六月二十九日・三十日・七月一日@ブダペスト

六月二十九日

明日は研究報告会である。プログラムが送られてきて、私が一番最初の発表者になっている。というのも明日の午後から移民局に行かなければならず、なるべく早い発表にしてほしいと頼んだからである。予想してたものの一番とは思ってなかったのでなかなか緊張する。

大学に行ってスライドの最終調節をし、原稿を書いたら一日が終わっていた。家に帰って読む練習をしたりするが、いつも通りゆっくりした一日である。こんなのでいいのだろうかと思うが別に三時まで起きて練習したって同じ気がするので、それなら寝た方がまだマシである。

寝る前にメールが来て、論文がリジェクトされましたと書いてある。査読者のコメントが書いてあって、一人は可もなく不可もなくのコメントだったが、もう一人は私の分析方法が気に入らないようだった。責任がないようだが、筆頭著者とはいえ先生と三人で書いたので、別に私のせいということも感じず(感じる必要はさらさらないのだが)、先生に「どうも論文がダメだったようです」とメールを送ると「がっかりしないで!」という意味で(多分)、"Don't let it get to you"という返事が来る。文脈から推測はできても字面だけ見たら何のことかわからない、まだまだ知らない英語のイディオムはたくさんあるなぁと思う。

get to sb
If something gets to you, it makes you suffer.
If someone gets to you, they make you feel upset or angry.
https://dictionary.cambridge.org/dictionary/english/get-to-sb

六月三十一日

朝九時から発表。ネット環境が不安なので大学に行っても良かったが、午後に移民局に行くのに自宅から行った方が便利なので、家からやることにする。案の定こういう時に限って回線が悪く、発表前にも回線が悪いと言われてWiFiからスマホのテザリングに切り替える。

予定通りの時間に始まって、それなりに順調に喋っていたが最後の方でネットが一時切断される。確かにこれまでミーティング中も途切れることがあったが、そんなに毎回でもないので、何でこういう重要な時に限って途切れるのか、こういうのなんていうんだっけ(マーフィーの法則か?)などと考える。再接続して発表は終了して、質問をもらって、あとは出発まで他人の発表を聞いたり聞かなかったりして移民局に行く。

三時に移民局の予約を取っていたが行ってみるとめちゃくちゃ人が並んでいる。話しかけて聞いてみると、どうも予約があれば抜かしていいらしいので堂々と先頭に行って係の人に話をすると、まぁいいからとりあえず待てと言われてそこから三十分ぐらい炎天下の下待たされる。外国人なんて動物の扱いである。そしていつものことだが順番抜かしてくるやつがしてイライラする。

なんだかんだ入れてもらうが、そこから予約ありの番号札をもらうもさらに二時間待たされる。座る場所がなかったので二時間立ちながら、iPadに入れておいたカフカの『変身』の続きを読む。飽きたらSNSをして予約したのにめちゃくちゃ待たされる旨を愚痴ると、日本の病院だってそうだと言われる。

やっとこさ呼ばれて、自分の事情を話す。

① 4/27に滞在許可証の延長の申請をしたがまだカードが送られて来ない
② カードが既に出来上がっていて、まだ送ってないだけだったら受け取りたい(これは前回の更新の時に実際起こった)。
③ まだカードが発行されていないなら、"Ideiglenes tartózkodásra jogosító igazolás(一時滞在許可証)"と"Határozat(滞在延長許可されたかどうか示す文書)"の二通を発行してほしい

私の今持ってる滞在許可証は、今週の日曜日に切れる。切れたところで日本のパスポートだとさらに90日滞在できるので別にいきなり国外追放されることもないのだが、それより私は延長の滞在許可が下りていないと、今の雇用契約の延長が出来ないので非常に困る。最善は尽くしたので間に合わなかったら、まぁ最悪一ヶ月か二ヶ月無給になるが死ぬこともないのでしょうがないと思っていたが、それでも無意識でストレスと不安を感じていたように思う。

結果的にはもう滞在許可は下りていて、まだカードが出来ていないということだったので、そのような旨が書いてある書類をもらって帰る。二時間待ったのに用事は(体感で)三十秒ぐらいで終わった。あと二週間ぐらいしてまだカードが届かなかったらまた移民局に来いという。とても行きたくない。

七月一日

とりあえず昨日の書類を人事の人に送って何とかしてもらう。何とかなったかどうかはよくわからない。一応期限のギリギリまで受け付けると言っていたので何とかなってほしい。

今日はインド人の友達を街に呼び出してカフェに行く。この子は他学部の博士一年生なのだが、色んなストレスが重なって少し鬱っぽい状態&睡眠障害に悩んでいるようである。日中起きて行動するのが難しいので、朝に用事を作って無理やりにでも外を出たいというので、十一時ごろブランチに行こうということになったが、結局一時にしてほしいという。もう家を出ていたので、近くのアジア食料品で買い物をした後、友達と行く予定のカフェとはまた別のお気に入りのカフェまで足を伸ばし、コルタドを飲む。

この前会った時はお母さんが心配でインドに帰ることを考えていたので、その計画の話などを振ってみたりすると、今はそれどころじゃないので学業以外考えないという。私の大学はどの学部も一年時に進級試験があって、その厳しさはまちまちだが、まぁほとんどいないとはいえ落ちるともう一回やり直しか最悪退学になるので、一年の終わりは皆ピリピリしている。友達の進級試験は例年六月頃だったようだが、コロナで先延ばしになって八月末になったようで、当面は良かったものの、もう七月になっておそらくかなり不安になっているようだ。

分野が全く違うので何も具体的なアドバイスもできず、聞いてあげることしかできないが、この友達と一年の間で三回ぐらい話を聞いてみて、もしかしたらアカデミアに向いてない子なのかもしれないと思った。というのは勉強ができないというわけではなくで、むしろものすごく勤勉だしエネルギーもあるのだが、研究という土壌においては、その二つが空回りしている気がする。

前もこの子のことを書いたかもしれないが、昔の私を見ているようで若干つらい。私なんかはこの子より不真面目でやる気もないのだが、少し完璧主義っぽいところが似てるのかなと思う。自分の中でよくわからない理想があるというか。それを反映できていない自分にストレスが溜まるというか。

そのストレスのせいで色んなことがネガティブに映るようで(同僚との関係、カフェの店員の態度など)、そういうのももしかしたらあまり自分では気付いてないのかなと思った。もちろんこの見立てが正しいとも思えないし、セラピストでも何でもないのでただの所感として心の中に秘める。

夕方は学部に帰って、大学がオーストリアで認可されるためのインタビューに参加する。私以外に後三人違うラボから学生が呼ばれて、専門家という名目で他大学の先生三人と、モデレーター役の人が三人ほど(日本で言う文科省の人みたいな感じだろうか、見た目は全然カジュアルだったが)。

質問内容は書いていいのかわからないので詳しく書かないが、大まかには博士学生としての体験を聞かれる(プログラムのよいところ、わるいところ、指導教員との関係、倫理教育など)。専門家として呼ばれてるのは同じ認知科学の分野の教授ばかりだったので、大学の先生になったらこういうこともしないといけないんだなと当たり前ながら実感する。

研究を何にもしてないのだが、頭の中ではこの前もらった査読者のコメントと、研究発表会のフィードバックと、今まで自分が学部の頃からもやもやしていたことが折り混ざって、変な感じである。