七月十四日・十五日・十六日@ウィーン

七月十四日

今日は午後から後輩の誕生日パーティーがある。ウィーンはコロナの感染が収まってきてるので、なんとなく自分の周りの生活は普通に戻りつつある。とはいえワクチンを打っている人が多いし定期的な検査も必要なので、もちろん昔と同じではないのだが。

お昼までに論文の直しを終わらせようと思ってまともに作業したが、終わらなかったので明日にすることにする。雑誌の投稿規定を読むだけで疲れるし、画像のサイズとか解像度とかを細かく確認するのが苦手である。何か漏れがある気がするが、数日単位で何回も確認するしかない気がする。研究者は本当に色んな仕事をこなしていてすごいなぁと思う(何で他人事なのかわからないが)。

論文をキリがいいところまで終わらせたら、歩いて後輩の家に行く。途中でお気に入りのManufactum Warenhausでプレゼント用の大きめのキャンドルを買う。向かいにJoseph Brotの店舗があったので、ワインと合わせてパーティーに持っていく。今まで買ったことなかったけどパーティーにパンを持っていくのはなかなかいいチョイスな気がする(まぁ大体用意してる場合が多いと思うが、次の日にも食べれるし困ることはない)。

後輩の家に一時間遅れぐらいで着いたがそもそも一緒に住んでる人を除けば私以外誰も来ていなかった。ヨーロッパという感じである。だんだん人が集まってきて久しぶりに色んな人に会う。三分の一ぐらいは大学の人だったので知っていたが、その他は後輩の同居人や同居人のパートナーとか仕事仲間とか、こんな感じでヨーロッパでは交友関係が広がることが多いと思う(というのもこれまであんまり参加してこなかったのでよく知っているわけでもないが)。

スペイン語を喋る人が多かったのでスペイン語が飛び交う、なんともラテンな感じで楽しかった(後輩はチリ人)。その他オーストリアはもちろんクロアチアとかパキスタンとかキューバとか…ウィーンは国際的な都市である。

博士課程をしていて全然研究のこともわからないし英語もまだまだなので、この四年何をしていたんだろうなと思うことも多いのだが、今日のような感じで知らない人たちに囲まれて誰とでもそれなりに会話ができるようになったのは進歩かなと思いたい。思えば小学校の時はものすごく恥ずかしがり屋で友達を作るのが苦手で、なんとか克服したいと思って努力していたら、大学生ぐらいになってやっと色んな人と喋れるようになった。働き始めてからは店に来てくれるお客さんとか、留学してからはSNSで知り合った人とか、普段同じコミュニティーにいない人と喋れるようにもなった。それが今は日本語じゃなくて英語でできるようになったのは嬉しい。とはいえまだまだという気持ちも持っているし、なくなることは一生ないだろう。

七月十五日

昨日久しぶりに飲んだので頭痛がする。ビール二本とカヴァ一杯ぐらいだったと思うが、水をあまり飲まなかったのがよくない。酔っ払うと水を飲みたくなくなるのはどうにかしたい。うだうだしていて半日潰れる。

軽い二日酔いの頭で投稿規定を読みながら論文の体裁を整えるのはとても辛い作業である。本当は今日にも終わらせたいぐらいだが、どうも無理そうなので焦らずに明日に終わらせることにする。明日には本当に終わらせないとその後の旅行に響くのでこれ以上先延ばしはできない(先延ばしと言っても昔と違って放置ではなく作業しているのでしょうがない先延ばしなのだが)。水を大量に飲んで昼寝をするとマシになったので作業を進めて、残りは明日の自分にお願いすることにする。

一階にオーガニック系のお店があって、大体商品のボトルなどはリサイクル用に回収してくれるのでいつも洗ったら返すようにしているのだが、数日前に食洗機に入れておいた私の蜂蜜瓶がない。こういうことは前にもあって、そこらへんのスーパーで買ってきた何かの瓶だったら勝手に捨てられたりなくなることはないのだが、なぜかそのオーガニックショップでリサイクルできるやつだけ消えることが多い(他にはヨーグルトの瓶とか牛乳の瓶とか)。

何が言いたいかというと同居人のどっちかが捨てているか回収しているかということなのだが、私の勘では99%大家さんである。もしかしたら私がそのシステムを知らないと思って親切心で回収してリサイクルに出してくれているのかもしれないが、しかしそもそも大家さんがオーガニックショップのシステムを教えてくれたのでなんだか変である。回収に出してくれるのはありがたいが、私だったら勝手に人が使っていたものを取ったりしない(もし自分のとついでに出すことがあれば聞く)。ちなみにリサイクルに出せば瓶代が戻ってくるシステム。

瓶自体は一ユーロとかなのでたいした額ではないが、そもそも昔の日記にも何回か書いたことがあるように、大家さんは人の食材も勝手に拝借する癖がある。これもたいしたことないのだが、牛乳一杯とか卵一個とかきゅうり一本とか、それ自体一ユーロもしないものなのだが、勝手に取られるのは私は好きではない。文化的なことなのか?とも考えたが、この前出て行ったフランス人の同居人はそれで私以上に憤っていたので、共同生活する以上、許可なしに人のものを使うのは、どれだけ金額が低くても気分が悪いことである。しかし確証的な証拠もないし、こんなことをいちいち指摘したくないので、時が来たら引っ越しだなと思う(基本的にはいい人だし、お家は綺麗なんだけどな)。

七月十六日

最近朝ごはんはギリシャヨーグルトと目玉焼き三個みたいな食べ方をしている。健康にいいのか悪いのかはわからないが、炭水化物は減らすとあまり食べたいとも思わなくなってきた(とはいえ毎日何かは食べている)。

大学に行ってただひたすら集中して論文を終わらせる。ギリギリ六時半ぐらいまでかかって、先生に送りつけて終わる。先生は今休暇中なので、来週開けてチェックしてくれることを願う。私はその間に休暇を取る(休暇を取っている場合ではないかもしれないが)。帰ってきて八月上旬ぐらいには提出してもうこの研究は終わらせたい気持ちである。

夕方は先輩と歩きながら帰る。先輩は就職が決まったのでもうすぐオーストリアから引っ越すのだが、今持ってる研究費の移動に関わる事務手続きの煩雑さとか事務の人の無能さとかを聞いて、かなり大変そうである。さらに第三国から来ていると、仕事の契約関係などが滞在許可の手続きなど他にも影響することが多く、より複雑である(先輩はアメリカ人)。私も大学内の研究費の修正を送って一ヶ月以上経ったのに新しい契約書がこなくて、滞在許可の更新を早くしたいのにできないもどかしさがあるから、先輩の気持ちも少しわかる。ただ先輩の研究費は額が桁違い大きいしEUが関わってるのでもっともっと大変であるから、本当に可哀想な気持ちになる)。

コロナに慎重な先輩なのだが、外食しようというのでメキシカン料理に行く。従業員にもワクチンを打ったかどうか聞いていたりしてすごいなと思うが、まぁ確かに用心するに越したことはない(ちなみにオーストリアも少しずつ感染率は増えている)。お酒も入ったからか人間関係の話が多くなり、主に先輩の恋愛話を聞いて、恋愛の下手な私がなんと答えていいのかわからないことをたくさん聞かれるが、しかしなんだか恋愛してる人はいいなぁと思った(なんか生活に張りが出そう)。自分もちょっと酔っ払ったので自分は友達も恋愛も問わず、誰かと長く人間関係を続けることができないみたいなことを言ってしまって、久しぶりに言わなければよかったという気持ちになる。

昔から一つのコミュニティーに居続けると、心にゴミが溜まってくるような感じがして、リセットのために移動することを続けてきたのだが、大して人と関わってこなかったこの大学院生活もそろそろそんな気持ちを感じるようになってきた。心にゴミと表現しているように、相手に対してのことではなくて、私の内面的な問題である。そういう意味では研究職はいつまでも昔の人間関係が大切な気がして(研究の世界は狭い)、あまり自分の居心地の良い環境ではないのかもしれない。将来について悩む。