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セミのお母さん、最後のとき(裏返しに落ちていたら木に止まらせてあげて)

門の外にセミが裏返しになって落ちていた。
足が動いていた。
そこでふわっと手で包んで持ち運んだ。

セミはヨロヨロとわたしの人差し指の先のほうに這い上ってきて。
あー、まだ歩く力が残っていたんだなぁ。

ちくっ!
痛い!

見ると、なんと!
セミはお尻から産卵管を出して私の指に刺そうとしていた。
お母さんのセミだったのだ。

えー、ここで卵を産んでしまうの。
私、木じゃないんだけど。

慌てた。
背中の方からそっとつかんで指から外した。

急いで近所の木につかまらせた。

ーーー
セミは裏返しになってしまうと自力で元に戻れないらしい。
それはクワガタやカブトムシも一緒だけど。

自然界では完全に平らなところはなかなかないから。
裏返っても多少力があるうちは、小さな凹凸を使って自分で戻ることができる。
だけど都会のアスファルトは水平でつかまるところもない。

平らな炎天下のアスファルトの上で。
そのまま体力をなくして死んでしまう。

よくセミ爆弾なんて言う言葉があるけれども。
(裏返しになったセミが突然暴れたように飛ぶこと)
あれは表向きに戻れないセミが、すべての死力を尽くして起こす行動だ。

裏返しになった蝉がいたら、元に戻してあげて欲しい。
そして、平らなところから飛び立つのはかなり大変だから、そっと木にとまらせてあげて欲しい

ところで、セミのお母さんだ。
1つでも多く卵を生もうという命の仕組み。
最後の力を振り絞って。
もしも卵が生きられる望みが1%でもあるのなら。

そんな気持ちで、ここが木ではないとわかっても

産卵管を出さずにはいられなかったんだろうなぁと。


同じ種を残していく。
それが最大の目的。
生命のプログラムって過酷で、そして強い。

しばらく経って、とまらせた木のところに行ってみたら
セミはいなかった。
ちゃんと卵が産めただろうか。
命はつながっただろうか。

卵を産んだら死んでしまう生き物は多い。
昆虫もそう。
鮭もそうだ。

子供を産んだ後も、
自分の生きがいを求めることができる人間は
ぜいたくな存在、なんだろう。

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