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サイバーショットDSC-F828に、やりたいことと技術の限界を見る

 時は2003年。
 90年代後半に生まれたデジタルカメラという商品も、マニア向けのおもちゃから一家に一台の家庭用商品になり、一方で、まだプロ・ハイアマチュアが使うような高級フィルムカメラには画質や性能が届かなかった時代。
 キヤノンがEOS Kiss DIGITALを市場に投げ込んで、ついにレンズ交換式一眼レフが一般カメラファンにまで売り出されはじめました。

 そしてニコン・ペンタックス・ミノルタと、低価格レンズ交換式一眼レフで追撃をかけて、2010年代のデジタル一眼の時代へと突き進んでいくわけですが、そもそも一眼レフシステムを持っていなかったメーカーはどうしていたか。
 ハイエンドコンパクトで勝負を仕掛けていました。コンパクトといってもサイズは一眼レフと同等、レンズ一体型である利点を活かして、高画質やプロ・ハイアマが満足できるスペックを持たせたような機種たち。

 そんな時代に、ソニーが力を入れまくってリリースしたハイエンドコンパクトデジカメ、それがDSC-F828でした。
 なんせEOS Kiss DITIALが12万円(ボディのみですが)だったところに、16万円のプライスで挑んだくらい。

外観

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 力を入れまくった結果、なんかものすごい異様なデザインになりました。
 ちょっと比較物が写ってないですけど、サイズ感としては、あまり小さくない中級クラスのデジタル一眼(PENTAX K-70はだいぶ近いです)に、梅クラスの標準ズームを付けたくらい。

 まあグリップのしっかりしたミラーレス一眼にでかいレンズつけたらこんなスタイルになるんですが、ストロボがレンズ側にあるのが異様さを際立たせてますね。
 ちなみに妙なお金のかけかたしたストロボで、OPENスイッチを入れるとモーター音がしてチュインと起きてきます。閉めるの手動だけど。

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 レンズ部とボディ部が別体ですね。はい、スイバル機です。まあDSC-F828という品番から明らかではありますが。
 レンズ部だけ上に70度、下に30度回転できます。
 まあ今は液晶モニターだけ向きを変えられるようになりましたけど、この頃の一部モデルはレンズユニットが回転したんです。その方がグリップの角度を自然なまま保てるから扱いやすいんですよ。

 ソニー、ニコン、カシオ、CONTAX(京セラ)、ペンタックスなどがスイバル機を手掛けましたが、このDSC-F828は地上最強のスイバル機といっていいかと思います。

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 で、めちゃくちゃボタンが多い。
 まあ、ハイエンド機らしく「なんでもすぐボタンで操作できる」というUIを目指したものかな。確かに慣れれば速いはず。多すぎて慣れるの大変そうだけれど。

スペックなど

 さすがに気合い入れて作った機種だけあって、当時としては最高といえるような仕様でした。

 心臓部たるイメージセンサーも、当時最高画素数の800万画素。
 さらに、カラーフィルタをRGBではなくRGBE(エメラルド)の4色として色再現性を向上。
 センサーサイズは2/3型(8.8×6.6mm)。

 レンズはCarl Zeiss Vario-Sonner T* 7.1-51mm F2.0-2.8。換算28-200mmの7倍ズームです。
 28-200mm F2.0-2.8なんて、APS-Cで作っても非現実的なサイズになるでしょうから、2/3型センサーでなきゃできない荒業。
 でもってT*コーティング。ぜいたく。
 MFはパワーフォーカスみたいですが、ちゃんとリング回転による操作。ズームは機械的に動きます。2群ズームらしく、50mm時が一番縮みます。

 シャッタースピードは最速1/3200秒。
 フォーカルプレーンシャッターではないので、ストロボは全速同調しますね。Mモードで1/3200秒でストロボ飛ばしても写りました。

 もちろんP/A/S/Mフルモード。絞りの範囲は開放~F8、1/3段刻み。
 速度は、速度優先オートは30秒~1/2000秒、マニュアルなら1/3200秒まで使えます。

 それからこの時代としては素晴らしいのは、AF測距点をセレクトで使う場合、画面の大部分(周囲10%程度使えない部分があるだけ)を自由に指定できます。4方向スティックでわりと素早く動いてくれるので、使った感じも快適。

実写とレビュー

 では早速持ち出してみましょう。

#12 ファイル名が見つからないファイル

 テレ端200mm・F3.5・1/60秒・ISO64。プログラムオート。
 小さいセンサーとはいえ、開放F2.8の明るさだからそこそこボケが出ますね……いや、プログラムオートで、200mmなのに増感せずISO64のまま、F3.5に絞って1/60秒……? このカメラ、手ブレ補正ないのに……?
 で、実際少し手ブレしちゃってます。木陰とはいえ、太陽ギラギラに快晴の8月2日だぞ……

 一発目から大きな問題がわかっちゃうんですが、どうやらプログラムオートのラインがひとつだけしかないみたいで、望遠にズームしたらシャッター速度を速く保つラインに変更する、といったことをしてくれない
 しかも、この時期の感度の低いセンサーなので、基準感度ISO64。これがまたオートでもなかなか増感しない。(でまた、ISO400でもザラザラに輝度ノイズが出る)

 28-200mmのレンズはいいけど、夏の昼間でさえ日陰でテレ端使うとブレる。さすがにそれはカメラとしてやばいのでは。

#20 ファイル名が見つからないファイル

 28mm・F2.8・1/60秒・ISO100。
 マクロ機能に関しては、広角端だとすごく寄れます。レンズ前2cmまでいけるとか。フード付けてると最短より先に当たりますけれど。
 テレ端だとマクロでもあんまり寄りきれなくなります。

#23 ファイル名が見つからないファイル

 28mm・F3.5・1/60秒・ISO100。
 さすがにISO64が使いづらすぎたので、ISO100にあげてます。100なら気にして見れば微妙にノイズ乗ってるかな、ってくらい。ただ、ダイナミックレンジはあんまり広くない印象で、ISO100だとさらに狭くなってるかも。

#24 ファイル名が見つからないファイル

 74mm・F3.5・1/60秒・ISO100。
 AEに関してはデフォルトの評価測光ですが、まあまあいい感じにしてくれますね。

#25 ファイル名が見つからないファイル

 31mm・F3.5・1/160秒・ISO100。
 これビワの実? マクロ使う時は速度優先に切り替えて、1/160秒くらいのブレを抑えられそうな速度で撮るように運用を工夫すればよさそうかな。

#26 ファイル名が見つからないファイル

 47mm・F5.6・1/160秒・ISO100。流石にこれで露出補正しなかったのは手抜きか。ちょいオーバーですね。
 等倍でも十分見れる写りですが、しかしカリッカリにシャープな写りでもない感じ。
 JPEGの圧縮による潰れな気がしなくもないんですが、RAWで撮ると絶望的なほど記録時間が長くなること、しかもSRF形式で記録されて、これがImaging Edge(SONYの純正現像ソフト)で開かない。まあPhotoshopとかで開けはするんですが。

#27 ファイル名が見つからないファイル

 200mm・F2.8・1/160秒・(ISO100)。露出アンダーになったので補正しました。
 テレ端マクロモードの最近接くらい。まあまあ寄れてはいます。写りもピシっとしてます。ピント精度もちゃんとしてます。

#31 ファイル名が見つからないファイル

 28mm・F2・1/60秒・ISO100。
 スイバルを活かして木の幹にレンズをベタ付け。広角端のほうが寄れるという一眼レフ用レンズにも少ない特性を活かして、と、DSC-F828ならではのカット。

#42 ファイル名が見つからないファイル

 200mm・F2.8・1/160秒・(ISO100)。露出アンダーを補正。

#55 ファイル名が見つからないファイル

 107mm・F8・1/320秒・ISO100。
 これはシルエットみたいになるのはわかってて撮ったものです。ダイナミックレンジ狭いのも使いようか。

#58 ファイル名が見つからないファイル

 28mm・F2・1/3秒・ISO400。
 こういう被写体だと歪曲収差でやや樽型なのがわかりますね。

#58 ファイル名が見つからないファイルa

 で、ISO400のノイズはこんなん。厳しいな……。
 ISO200でも結構ノイジーで、使うならISO100までか。

総評

 プログラムオートがぽんこつで、せっかくの28-200mmの高倍率ズームを気兼ねなく振り回せるシーンが少ない。
 テレ端200mmでも構わず2/3段絞ってF3.5、それで1/60秒なんて出してくるプログラムラインはやっぱりひどい。これは2003年の技術だから無理だったわけじゃないはず。マルチプログラムなんて80年代からある。

 ISOオートもひどくて、とにかくISO64で動かない
 シャッター優先オートで、開放でも露出不足になる速度を設定しても、ISO64のまま。プログラムオートで、いくら28mmでも手ブレする1/6秒なんて速度になってもISO64のまま。
 昔のカメラって、ストロボ飛ばす時しか増感しないものが結構あったんですけど、これもそうかも。
 でもって、これだけ山程ボタンがあるインターフェースしてるのに、ISO感度はメニューの中。なんで……。
 とはいえ、この頃の技術で2/3型800万画素CCDセンサーはかなり苦しいみたいで、増感するとあからさまにノイズが増えて画質が落ちる。うーん。

 いやもー、手厳しいんですけれど、これだけ力の入ったハイエンドモデルで、露出周りが酷いとは。しかも当時の技術で無理だったとは思えない、単に気が回ってないだけって感じの悪さだから、どうにも厳しく見える。

 とはいえ、うまく決まった時には、とても2003年の製品とは思えない高い水準の画質で写ってくれます。
 スイバル機のワイドマクロレンズという特異なカメラであってこそ撮れる写真もありますね。
 どうせ使い物にならないオートを当てにせず、ISO感度100が限界で手ブレ補正がないことを踏まえ、ダイナミックレンジが狭いのも踏まえて、慎重にしっかり絵作りして撮影する腕が求められるカメラ。

 現代的な意味では、プロ・ハイアマ向けといったら、そういう人が狙う極端な撮影シーンにも対応する高性能を持ったカメラのことです。
 しかしDSC-F828の場合、カメラの性能を発揮させるにはプロ・ハイアマの高い知識・技術・経験が求められる、って感じですね。

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