ごめんなさい、お母さん
昼過ぎに、老人ホームで暮らす母から留守番電話が入っていました。
「今お昼ご飯が済んで部屋まで送ってきてもらったんだけど。
もう嫌になった。家に帰りたい。」
長めの沈黙があって
「でも帰る家は無い。私のいる部屋はここしかない」
「自分の足で窓際に行くこともできない。
自由に外に出ることもできない」
(母は、ほぼ寝たきりの状態です。)
「この部屋にいても心が休まらない。
食事が出てもおやつが出ても食べる気になれない」
「どうしたらいいんでしょう、お父さん」
(父は10年前に亡くなっています)
あとは押し殺したような泣き声。そして電話が切れました。
ーーー
母が有料老人ホームに入って3年になります。
それまでは自宅で私が面倒を見ていました。
母は、私以外の人に面倒を見られるのを嫌いました。
私が1番困惑したのは、おむつの世話でした。
痩せたお年寄りでも、赤ちゃんのオムツを替えるようなわけにはいかないからです。
臭いも量もあります。そのあたりの覚悟が私には全くありませんでした。
ご飯の好みもうるさく、自分が好きなものでないとはっきりと苦情を言います。
掃除の仕方も、自分の基準に達しないと気に入らない。
このしっかりした性格のおかげで、体が動かなくてもボケてはいません。
ショートステイをお願いしたり、
看護師さんの回数を増やしてもらったり、
ケアマネジャーさんと相談を重ねたり。
いろいろ試しました。
次第に追い詰められた私。
白髪が増え、しわが増え、眠れなくなって。
すぐに怒るようになりました。
夫の
「最近のあつこはおかしい。
心療内科で診てもらったほうがいい」
と言う言葉がきっかけとなって。
母は老人ホームに入ったのです。
ーーー
面倒をみきれなくて申し訳ないという思いが、常に私の心の中にあったのです。
週一回の面会は欠かさず。
味にうるさい母のためのおかずの差し入れをして。
携帯電話も持たせました。
一方で、私は自分の自由時間を手に入れました。
もちろん生活のため派遣で働いてはいます。
ここまでの自由は、人生において初めてです。
そしてこのノートを始めることができました。
ーーー
辛いんだろうなぁ。
部屋にいてもそこは自分の居場所じゃないって感じるんだろうなぁ。
わかります。
楽しい旅行に行ってきても、自宅に帰り着くとほっとします。
やっぱり家はいいなぁ。
母は3年間ずっと旅行中なのでしょう。
ほっとする空間、安心感が得られないのでしょう。
ーーー
でももし家に母を迎えたとすると。
今度は私が壊れてしまいます。
ごめんね、お母さん。
とてもつらいよね。
苦しい気持ちがわかるのに私は何もせずに家にいます。
そのかわり、もし私が動けなくなる時が来たら
どんな状況だとしても
じっと黙って受け入れます。。。
だから、ごめんなさい。許してね。
家に帰してあげられない
娘のわたしを許してね。