『顔に魅せられた人生 特殊メイクから現代アートへ』
あ、アカデミー賞受賞されたメイクアップアーティストの本だ、と思わず手に取った。
サブタイトルが『特殊メイクから現代アートへ』。
現代アート?
まだ記憶に新しいアカデミー賞受賞を引っさげて、ハリウッドでバリバリにメイクを担当しているのだとわたしは思い込んでいた。
読むと、賞は苦悩と挑戦の繰り返しを重ねた辻さんの人生の中で、偉大で輝ける「通過点」であることがわかる。ゴールでは無いし、辻さん自身がハリウッドに疑問を持ち離れていた時だった。
特殊メイクの仕事を離れ、現代アートへと向かう辻さん。リンカーンやウォホールのポートレイト(大きな顔の立体像)を手がけるのだが、今まで闘ってきた、幼少期に植え付けられた劣等感やずっと観察してきた人間の顔の見方がここで活きてくることに胸を打たれた。苦労を美談にしたい訳ではないだろう。でも、すべてのことに意味がある、そんな生き方をされてきたのだなと感じる。
また十代の頃からのメイクの恩師の晩年に辻さん自身の人生の指針を見つけるところも心が震える。
黄金ハリウッドの成功譚とは違う、もがき続けるプロフェッショナルの熱さとクールさを持ち合わせた一冊。
『猿の惑星』『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』をはじめ、たくさんのハリウッド映画の制作話も読めるので、映画好きにも強くお勧めしたいです。
『顔に魅せられた人生』辻一弘/宝島社
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