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ふわふわのくまさんがいない

2020/1/31
 穴あきレシピとまちがって届いた食材とをにらめっこしながら料理する、そんな仕事をしている。
 今日は、というか今週のあたまに届いたレシピにあまりにも愛がなくて、モニターの前でわたしはすこし動けなくなってしまった。どうしてそんな依頼ができるのだろう。全国のオフィスから依頼は届くが、今回の依頼者はおなじオフィスにいて、どんな人なのかは見てきている。頭の回転がよく、社交的とまで言わないけれどこちらを下にみるような発言はしない人という認識でいる。あの人が、か。

 ふわふわのくまさん。
 ぶん投げられた依頼との格闘につかれたわたしは、ふわふわのくまさんを欲した。60㎝くらいあるふわふわのくまさんをぎゅっと抱きしめながら仕事をしたい。すこし重みがあって、ほんのりいい匂いがするようなくまさんがいい。作業を止め、ふわふわを想像する。五秒か六秒。かばんの中にふわふわのくまさんはいない。小さなタリーズベアなら鍵と一緒にごろごろしている。あの子は小さすぎるし、いつも持ち歩いているからもうごわごわのくまさんになってしまっている。ふわふわのくまさんがいないから、お守りがわりに入れている練り香を手首のおもてうらにくるくると塗る。こどもがつけるような安いものだけど、クチナシの類の香りがするからときどき塗っている。クチナシって良い香りだけど落ちた花びらが黒ずんでぐずぐずになる。あれさえなければ完璧なのに。

 人工クチナシを香らせて、こころの中にふわふわのくまさんを呼びおこす。ぎゅっとしたら、またレシピに取りくむ。奥歯をかみしめ過ぎないようにしながら。

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