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『獣になれない私たちー1回目』から蘇る、新卒でのもがき

 *1年前に書いたままの熟成下書きを解放しよう

秋こそドラマ。夏はパーティー感が強すぎる。冬は暗いドラマが多い。春は知らない。秋こそドラマの季節。
 それに、あの有名な脚本家さんの秋ドラマ。見ない訳がない。

『獣になれない私たち』
ドラマ開始早々に、自分のつらい思い出がよみがえってくる。主人公のアキラちゃんみたいな良い仕事っぷりではなく、働き始めのわたしはポンコツ営業だったが。

ワンマン社長の下、男社会の小さな商社で、わたしの役目は朝早めに出勤したらコーヒーを準備して机を拭いてシュレッダーのゴミを片付け、溜まった新聞紙をまとめて捨てること。ビル清掃スタッフさんが来てくれていたのでトイレや水まわりの掃除は免れていたが、その他の雑用、それが修行の一環だという感じだった。

先輩スタッフは出勤後、デスクで朝食をとりながら新聞を読む。わたしの雑用については一年目だから仕方ないと思っていたし、変な風水の本を読んでしまって、掃除をしながらその場の物に触ることで自分の場所を作るのだみたいなトンデモなことを信じていた時期でもあった。

わたしがいる間、新人が入らずそれは続いた。救いは、同じことを男性同期もやっていたことだ。

英→日の通訳を任せてもらった事もあったが、その分野の引き継ぎはほぼ皆無だったため、会社で招待する講師の出した本を読み、自力で単語帳を作って詰め込んだ。
怖かった。
そんな大事な企画を丸腰の新人に投げるなんて。

試験勉強が得意だったわたしは暗記パンさながら、整形外科の単語を丸呑みして文字通り這う這うの体で講習会での通訳を終えることができたが、なんとかかんとかできた結果、社長から短納期・高濃度な仕事が振られることが増え、それは無茶ぶりと言ってもいいものだった。

営業としての仕事が冴えなかったわたしは、ここしかない、と社長の無茶ぶりに食らいつき、さらに下手な自分の運転に酔ってめまいを起こし、生理も止まらなくなった。しばらくずっと血を流していた。

ある時、ドイツ人講師に「この会社は男社会すぎる。あなたは消費されていることに気が付かなくちゃいけない」と耳打ちされた。当時は英語しか取り柄のない自分への焦りが先に立ち、わかった顔をして頷くのみだった。

彼女にそう言われてからどれだけ経ったのか、結局わたしは心臓をばくばく言わせながら退職を願い出ることになる。社長に直に「フリーの翻訳(説明書をひたすら訳す)・通訳として契約、どうや」と言っていただけたのは今でもその気持ちに感謝しているが、勇気を振り絞って断った。無茶ぶりが飛んでくるのは容易に想像できたし、会社員時代も守ってくれる制度なんて有給くらいだったのにフリーになったらひとりでこの社長に立ち向かわなければならない。怖すぎた。

断ってよかったと思う。
親からは語学が活かせる仕事があるといいねと今でも言われ、海外に行かせてもらったのに碌に活かせていない現状を申し訳なく思うが、最初の会社の経験では語学が活かせると仕事の負荷が遠慮なく増えたし、それにわたしの心と体は耐えられる胆力を持っていなかった。

『獣になれない私たち』
一年経って、記憶が薄れつつある。
あの新卒で働いた職場にしがみつけなかった、獣のように爪を出して自分の仕事を取れなかった自分を第一回の放送で思い出して、続きを観るのが怖くなったことを覚えている。
えぐい第一回目だった。

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