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映画「長ぐつをはいたネコと9つの命」がアメリカの新しいアニメ映画表現の幕開けを感じさせた

(サムネ画像は、IMDBhttps://www.imdb.com/title/tt3915174/から引用しています。)

 さて、先日観た映画「長ぐつをはいたネコと9つの命」(原題:Puss in Boots: The Last Wish)がいつものハリウッド映画と異なり、新しい雰囲気を感じたので、少しまとめてみようと思います。なお、自分は字幕版で鑑賞したので、吹き替え版は観ておらずご容赦ください。

■ 鑑賞した理由

 まずなぜ鑑賞したかと言うと、2022年12月にアメリカで本作は公開されました。そして、その公開のタイミング前後でTikTokでかなり色々な動画が展開されていました。現在”#puss in the boot” のハッシュタグで検索すると48億回動画が再生されています。その中でも特に自分が気になった動画は、3D化されたPuss(主人公)が踊っているものです。その動きを真似て、色々な人が踊っていました。

 「長ぐつをはいたネコ」なんて、いつ観たのやらと思ったら、前作の公開は2012年とすでに11年前でした。なので、けっこう昔の映画。しかし、映画の続編がこうしたSNSで若年層にも広がっていて、さらには評価も高い(Rotten Tomatoesのオーディエンススコアは94%、TOMATOMETERは95%)。 おまけに、世界的な興行的には前作までは届いていないけど、かなりヒットしている(※実際4億ドル超え)、そして、アカデミー賞のアニメ作品賞にもノミネートされているというので、これは必見であると思い行きました。ちなみに前作は観たか覚えていません。つまりは、どちらにしてもあまり予習せず初見に近い形でみることになりました。

■ 本作のあらすじをざっくり言うと

 9個あった命が最後の一つとなったプス(長ぐつをはいたネコ)。命を失うことの恐怖を知るが、なんでも願いが叶うスターの存在を知り、命を取り戻すため冒険に出る。そして、道中で出会った仲間たちとのやりとりを通じて、命・生きることの大切さを知る。といった、まさに王道の冒険物語です。

■ 作品の訴求ポイントは何か?

 この作品を引き寄せるポイントとなった訴求ポイントはなんなのでしょうか?それも考えてみました。

✔️ 大人気「シュレック」シリーズのスピンオフ作品であり、11年前に大ヒットした1作目「長ぐつをはいたネコ」の続編作品であること
✔️ 声優にはアントニオ・バンデラス・サルマ・ハエックなどの豪華キャストが起用されている点
✔️ 制作がドリームワークス・アニメーション。そして、制作総指揮は、クリス・メレダンドリさんという怪盗グルー等を製作したアニメ制作会社のイルミネーションの創設者&CEOがドリームワークスを管轄して初のプロデュース作品です。ちなみに彼は任天堂の社外取締役であり、4月に公開の「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」のプロデューサーでもあります。

ドリームワークスでありながら、イルミネーションのクオリティも入っていると言うことを考えると作品クオリティも間違い無いですね。

■ 海外と日本での予告編の違い

 海外での予告編と日本の予告編を見ると、大きく違うのは「冒険の目的を示しているか?」そして「キティとの関係の提示」がありました。
 まず冒険の目的とは、プスがなんでも願いが叶う星を目指して冒険するという要素です。これは、海外版の予告には入っていませんでした。また、日本版ではキティが元カノだと表現がありましたが、海外版ではありませんでした。つまり、海外ではプス(主人公)自体が大人気のキャラクターであるため彼のアクションやコミカルパート、そして彼に関わる展開を丁寧に描くことに重点を置いていますが、日本は登場するキャラクターの説明や、最後のストーリー展開までわかりやすく描いていた予告でした。
 これは日本が、シュレックに馴染みが薄い(=プスにも馴染みが薄い)ことと、前作を観ていない層でも映画館に来てもらいやすくするための配慮かなと思いました。
 また、今回日本語版のタイトルが変わっています。英題だと、”最後の願い”というニュアンスだったのが”9つの命”になりました。この点も予告編の内容が変わったことと影響していると思いました。

■ 本作の見どころ<ストーリー>

 本作の見どころは、実は最強で人気者だと思われていたプスが、命が一つになった途端に急に怖じけづき、そこから自身を見つめ直して成長していくことにあります(視聴者としては、プスの最底辺の様子から新たに成長したプスを見ることにより、さらにファンになること間違いなしです)。

 ストーリー全体では、猫だけでなく、犬やクマなど様々な動物たちが登場し、それぞれの想いと共にスターを追いかけていきます。彼らの願いのほとんどは、お金持ちとかになることではありません。それらは、実は、スターに頼ることなく得ることができる、難しいようで、実はとても簡単なものでした。彼らが色々な悩みを抱えながら、うまく心を通わせず葛藤して成長していく姿は観ていて暖かいものがありました。そして、登場する全てのキャラクターの中で、唯一の悪者は人間であるホーナーだけというのも象徴的でした。
 とりわけ、登場するどんなメンバーよりも過酷な人生を歩んできたワンコが、一番明るく心が澄んでいるというギャップが全体のストーリーへの滑稽さを与えてくれます。

 また、個人的にお気に入りなシーンがワンコの靴下がなくなるところです。友人も友達もいないワンコが最初に登場したシーンでは、ワンコが一人ぼっちの人生になった時に唯一手元にあった人間の靴下を服がわりに着ていました。それを新しい親友(プスとキティ)に出会うことにより、仲良くなった結果、その靴下(過去のしがらみ)を脱ぎます。そこが、悲しいキャラでありながら、冒険を明るく彩っていたワンコの人生に救いを与えてくれました。

■ 本作の見どころ<演出>

 では、どうしてこの作品が新しいアニメ映画の幕開けを感じたのかの理由です。本作は「スパイダーマン:スパイダーバース」に多大な影響を受けていました(観ていて気づきました)。それもそのはず、元々予定されていたのは同作のボブ・ペルシケッティ監督でした。
 じゃあ、どういったことが特にそうなのかということで、特筆すべき点の一つはコミック調の演出です。例えば、キャラが加速する時に集中線が入ります。そして、アクションも日本のアニメーションのようにちょっとコマ落ち的な(リアルタイムなヌルっとした動きではなく、わざっとカクッとしてリズムをつけた形での)演出が入ります(海外予告編の12秒目あたりがそうです)。
 これを観た時、あ、これは単なる3Dアニメーションではなく、日本のアニメの良いところを3Dアニメーションに加えたハイブリッド型のアニメーションなのだなと思いました。おまけに、劇中で出てくる爆発シーンが、3Dっぽくなく2Dっぽいのです(一部だけあえてわざとやっている?)。ちょうどこの映画を観る前に特集を見ていたTRIGGER の爆発シーンを彷彿とさせました。

 また、オープニングでプスが歌い、そして巨人と戦うシーンがあるのですが、そのカメラワークや演出にも注目です。最初に設計した街並みの中をカメラがぐいんぐいん360°縦横無尽に走り抜けます。「進撃の巨人」かなとも思いました。

 もう一点注目すべき点は、この映画の主要キャラクターであるウルフは黒澤明の映画が参考にされているところです。

 上記は、監督のJoel Crawford氏がインタビューで語っているものなのですが、彼は「この映画のDNAは16世紀のイタリアのおとぎ話ではなく、20 世紀のセルジオ・レオーネ(マカロニ・ウェスタンブームの立役者)と黒澤明だ」と語っています。つまり映画の中をみると、それに触発、インスパイアされたカットが登場するのです。例えば、最後の決闘シーンの目の極端なクローズアップは西部劇でレオーネやイーストウッドが度々使っていた演出です。
 最初にウルフがプスの元に賞金稼ぎとして登場したシーンは「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト」を参考にしたそうです。さらにその戦いは「荒野の用心棒」が参照されています。そのため実際はバーの中なのに西部劇そのものような対決と演出が行われています。
 もちろんウルフが最終的に何者だったのかも、最初のオープニングから伏線的にさまざまなところで登場しています。そして、そんなウルフのキャラクター性として参考にされたのが黒澤明の映画です。黒沢監督の中に出てくる、人間性、名誉、階級等に深く浸されたキャラクター群に基づいています(ネタバレですが、ウルフは悪役ではありません)。彼は命の大切さの象徴なのです。そうしたこともあり、再度プスとウルフが出会い対決するシーンはサムライの対決のように扱われています。
 不吉な口笛を奏でながら、ウルフが登場するシーンは、三船敏郎が通りに足を踏み入れ、決闘が始まろうとしているときの「用心棒」に触発されましたそうですし、その対決のスタンドオフで終わる最後の瞬間は「椿三十郎」に触発されたそうです。
 なお、最後の全てのキャラクターでの決闘のシーンは「続・夕陽のガンマン」を参考にしたそうです。西部劇と時代劇の融合ですね。

 そうした演出がこの映画の普遍性を強調しているのかなと思います。

■ その他思ったこと

 ここからはいくつか、気になった点を列挙していきます。

✔️ 暗黒の森は、持つ人が魔法の地図を見ることでその人に合わせたダンジョンが出てきます。ダンジョンが見る人の心の美しさ?悩みの多さ?欲深さ?によって変わっていくというのは面白いプロットだと思いました。人によって自分の人生をどのように捉えているのか?ということを表していると思いました。ワンコの道が簡単だったのも、彼自身自分の人生を非常にポジティブに捉えているからだと思いました。

✔️全体のプロット構成として、①プスの死からの没落、②復活の方法を知る、③ライバルとの出会いと自分を知る、④自分を大切にし仲間も大切することの大切さについて知る、という王道の物語でしっかりまとまっていました。

✔️今回の登場人物を客観的にみると、「猫=自由な生き物」、「犬=仲間を大切にする生き物」ということで、今回ワンコが重要な役割を示していると思いました。また上で触れましたが人間が悪=欲望の塊というのも面白かったです。

✔️ゴルディとクマの一家は、見た目が違うが、お互いを大切にするという気持ちは同じ。これは、昨今の差別問題や、見た目で判断するべきではないという訓示があると思われる(※なお、ゴルディは人間だがクマに育てられたため、心は汚れていない)。

✔️プスが過去の自分に囲まれて、それを死神よって破壊されるシーンは、プスの過去の栄光へのこだわりとの訣別を示しているのか。そして、最後に死神を追いやる時に、仲間(キティ)からもらった短剣がポイントになるところも、プス自身が自分だけでなく仲間を頼る/信頼することへの象徴となったというのがいい演出だと思いました。

✔️この作品の中の”悪”の象徴が、ホーナーであり、彼がいることによって、プスたち、そして、ゴルディたちの友情、家族愛・優しさが伝わってくる。ちなみに、ホーナーだけが単体だと悪さばかりしてしまうので、それを諌める役としてキリギリスが登場するのも良いなと思いました。

✔️(追記)この物語には様々な童話のモチーフが使われていました、ゴルディと3匹のクマは、「ゴルディロックスと3匹のくま」より、特にお粥のところやベットのシーンは映画内でも出てきます。

 オオカミについても、多くの童話の中(「3匹の子豚」「赤ずきんちゃん」)などでは、悪者のイメージが想起されますが、良いものとして描かれていることも多いようです。日本だとオオカミと”神”がついています。

■ 終わりに

 以上、「長ぐつをはいたネコと9つの命」について、なぜ新しさを感じたのか?と言うことについてまとめてみました。いつもは感想をtwitterで書いているだけなのですが、考えれば考えるほどこの作品は意外に奥深い映画だなと改めて思いました。日本の作品もリスペクトされた映画ですし、食わず嫌いをして観ていない方がいたら、ぜひ一度観てもらえると良いなと思ったので書いてみました。

 では、お読みいただきありがとうございました。

■ 個人的メモ(本作のストーリー書き起こし)

 以降は、自分がどれだけ初見でストーリーを覚えていたのかを確認するための、書き起こしたメモです。よく映画を見た後に話を忘れてしまうことがあるので、自分がどれだけ観れていたのかを確認するために備忘録として書いています。
 完全にネタバレで、読むのをお勧めしませんので、ここからは有料にさせていただきます。

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