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雷と法の神様シャンゴーXangô

台風の季節直中となりました。日本の台風被害は年々大きな傷跡を残すようになり、年を重ねるごと地球の自然環境変化は取り返しのつかないものになっていっているように感じられます。現在ブラジルではマト・グロッソ州パンタナル国立自然保護地区で大きく火事が拡がり、豊かな自然地区の1割が消失、(1割といっても青森県全部くらいの広さです)ジャガーを始めとする多くの保護動物と植物が焼け死んでいます。行き過ぎた開発拡大によって森林が焼き払われ、森林が消失すれば乾燥地帯が増え、ますます地球は高温化し火災は広がる一方です。そんな中現政権の環境相は「人々がコロナに気を取られているうちに乗じて環境法を緩和してしまえばよい」との発言で、検察庁から退任請求をされるという事態になりました。今回は、そんな権力と自然環境を思わせるようなお話です。

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イラスト©︎クルプシ  

日本には「風神・雷神」がいますが、アフリカ由来のブラジルの信仰カンドンブレーにも雷神がいます。法と正しさの神様「シャンゴー」です。シャンゴーを守護神に持つ人は活動的で、政治家、法律家、商人、官僚などに多いと言われています。運営が上手で、よいリーダーになります。権力が大好き、強情で、結果主義。大食家で欲張りです。
 ご存知の通りシャンゴーといえばカポエイラ・ヘジォナウを創始した故メストレ・ビンバの守護神です。ビンバには妻が21人いたそうですが、シャンゴーも多妻でした。お世話焼きのオバー、美神オシュン、女戦士ヤンサンです。(3人の妻のおはなしはこちら)ビンバの妻は全員、ビンバを看取った妻のアリス以外はオシュンを守護神とする人だったそうです。アリスだけはヤンサンでした。

 シャンゴーはイラストにあるように「オシェー」と呼ばれる、正義を表す両刃の斧を持っています。雄ヒツジ、雌ニワトリ、オクラが好きで、とてもよく食べます。挨拶は「カオー、カビエッシ」。水曜日の12番で、シンボルカラーは赤、茶色、白です。

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ブラジルの作家、ヘジナウド・プランヂさんのオリシャー三部作のひとつ、その名も「シャンゴー」から、シャンゴーのお話を読んでみましょう。

口に炎をのせた王さま

シャンゴー、オヨーの国の王さま。
その魔術ゆえに「雷」という名前を得たばかり。
オヨーの中で一番偉い王さまでした。
古アフリカで最も権力を持っていました。
彼の人生は戦争と、領土のやりとりに捧げられていました。
家にいる時、シャンゴーは、特にお気に入りのお料理、細く輪切りにしたオクラを、デンデー油で干しエビと炒め、イニャーミ芋のピューレ、白ワインと一緒に出される、しっかりと味付けされた牝山羊の焼肉を食べるのが大好きでした。
3人の素晴らしい妻がいました。
オバー・お世話好き(プレスチモーザ)。一番年上で、お料理担当です。必要な時には一緒に戦いに出る、何にでも役に立つひとです。
オシュン・美(ベラ)は、その色気でシャンゴーを魅了しました。豪華で愛情に満ちた雰囲気で王を包みます。

ヤンサン・恐れ知らず(デステミーダ)は、シャンゴーと共に戦いにでます。何も怖いものなどない、死すらも恐れず、オヨーの王を恐れさせる唯一のもの。シャンゴーと全ての冒険と発見を共にします。

シャンゴーは、女性にかけても、王国領土についても、飽きることを知らずつぎつぎ手にいれました。
のち、「雷」というあだ名となる王は、領土を手に入れるために、いつも新しい武器を探していました。
戦争がないときは、民のことを世話しました。
宮殿には全ての人を受け入れ、揉め事を裁き、争いを解決し、制裁を与えました。
決して止まっていることはありませんでした。
ある日ヤンサンに、隣国のバリバへ行き、すごいと話題の魔法の飲み物を持ってくるように命じました。
ヤンサンは、その魔法がかかった混合液を見つけ、ひょうたんにいれて運びました。帰路は長く、ヤンサンは興味津々になって見境がなくなってしまいました。
ヤンサンはその液体を試してみて、不味いと思いました。
ひとくちで吐き出してしまい、その力ある液体の力を理解したのです。
ヤンサンは、炎を吐いたのです!

シャンゴーはその新しい発見に熱狂しました。
彼が人間たちの中で最も権力をもったものだとしたら、どうでしょうか、口に炎を持ったらどうなるか?
これ以上どんな敵があると?
従わない民など?

シャンゴーは、その新しい技の上手な使い方を試してみることにしました。
翌日、魔法のひょうたんを持って丘にあがり、驚異の炎を吐き出しました。
発射した燃立つ熱光は、地面に落ちて森を燃やしました。
牧草地を燃やし、動物を全滅させました。
ひとびとは怯え、それを稲妻と呼びました。

シャンゴーの口から出た灼熱地獄が、次々と爆発を引き起こします。
遠くからも、噂を聞いたひとびとはシャンゴーから吐き出された炎に驚き慄きました。強い衝撃音、耳をつんざくような音が人々を恐れさせ、逃げ走ります。
人々はそれを雷と呼びました。

哀れなシャンゴー、運は彼の方に見向きはしませんでした。
新しい武器を試そうとしたのに、狙いを定め誤って、みずからの宮殿を燃やしてしまったのです。
街の家を焼き尽くして、一瞬で、誇るべきオヨーの街は灰と化しました。
火事を経て、帝国の大臣たちは集って会議をしました。
シャンゴーを王位から免じて、街から追放しました。
3人の妻を連れて、去って行きました。
もう誰も決して、シャンゴーを見ることはありません。
そして王位の解任と追放のあと、何が起きたかが伝えられていきました。
しかしどこであろうと、この話を聞いた事がある人は、雷のゴロゴロという音が聞こえると、シャンゴーが近くにいると、知っています。

彼は正義の、権力ある王でした。
両刀の斧を手に持ち、それで裁くのです。

3人の妻たちは、姿を消し、アフリカのみっつの川になったといいます。
ヤンサンはナイジェリア川
オバーは穏やかなオバー川
オシュンはオシュン川に続く流れに
3つの川、雷の妻たち。

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シャンゴーは色々と活躍もするのですが、今回は少し失敗してしまうお話をご紹介しました。少しの欲、名声が欲しい、もっと領土が欲しい、もっといい武器が欲しい、もっと敬われたい、そんな気持ちが炎となって人々を滅ぼしてしまうという教訓のように思います。もう足りていることに目を向け、大切に育んで、これ以上失うものがないようにしたいですね。

ところでシャンゴーが文中で食べている「細く輪切りにしたオクラを、デンデー油で干しエビと炒め、イニャーミ芋のピューレ、白ワインと一緒に出される、しっかりと味付けされた牝山羊の焼肉」はとても美味しそうです。ブラジルは暑い国で、オクラはとても安く手に入ります(日本は高いですね汗)市場で山盛りになっているオクラを、買い物にきた人たちはぽきぽきと尻尾を折って新鮮かを確かめて買い求め、おうちでQuabata(キアバータ)やCaruru(カルルー)などを作ります。日本ではあまり知られていませんが、ネバリスタの皆さんにはたまらないおいしいお料理です。次回はそのカルルーを食べるこどもの神様、イベジーをご紹介したいと思います。



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