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#9 屋上でのランチ

お昼休憩を知らせるチャイムが鳴り、剛は廊下に出た。
「剛。購買行くのか?」と勇が声をかけてきた。
剛は勇に右手に持っていた焼きそばパンとメロンパンを見せた。
「今日は…持ってきてる」
「じゃあ、どこ行くんだよ?」
「天気良いから屋上で食おうかなと思って」
「俺も一緒にいいか?」
「知多は?」
「今日は柴咲と食べるって」
「そうなんだ。わかった」
剛と勇は屋上に向かった。屋上の扉を開けると、思ったよりも人が多かった。剛と勇は人が少ない場所に進み、フェンス越しに座った。フェンス越しからは校庭が見え、桜の木々は桜の花がとっくに散り、青々としている。
「あれ?修学旅行って来週だっけ?」
「お前、何言ってんの?冗談だろ?明日だよ。2日目以降は班行動で回るから、みんなで予定を組んだだろ?」と勇が驚いた顔で剛を見た。
「俺、お前に任せてたから、ちゃんと見てない。どこ行くんだっけ?」
「京都と奈良」
「…中学も同じじゃなかったっけ?」
「俺、お前と中学違うから知らないけど」
「清水とか行った記憶ある」
「定番だもんな」
「今回は、どこに行く予定?」
「嵐山」
「何があるの?」
「…寺」
「まぁそうだよな」
「抹茶プリンがうまいらしいぞ。彩世さんに買っていったら?」
「何で?」
「何でって、付き合ってんじゃないの?」
「勇のいう『付き合っている』の定義って何?」
「……えらく難しいことを聞いてくるな。お互いに好意を抱いている人たちが一緒の時間を過ごすってことじゃないかと思うんだけど」
「お互いが好きって、どうして分かる?」
「お互いに気持ちを伝えあうからだろ。どうしたんだよ?」
「嘘でも『好き』って言うこともできるよな?」
「なかには、嘘つく人もいるかもしれないけど、…お前、彩世さんから家の鍵を貰ってなかったっけ?」
「俺だけじゃないかもしれない」
「…え?お前…どうしたんだよ。おかしいぞ」
剛は両足を持ち上げて、両腕で抱えて頭を胸にうずめる。
「わかってる」
勇は見かねて、剛の左側に置いてあった焼きそばパンの袋を開けて、焼きそばパンを袋から少し出して、剛に差し出した。
「腹が減っては戦ができぬっていうからな。今は、とにかく食え」
剛は顔を少し上げて、しばらく焼きそばパンを見ていたが、かぶりついた。
「うまい」
「ほら、自分で持って食えよ。じゃないと、俺が食えないだろ」
剛は勇から焼きそばパンを受け取った。
勇はお弁当箱を開けて卵焼きを箸でつまんで食べた。勇は剛が自分のお弁当を見ていることに気づいた。
「…なんか、食うか?」
「じゃあ、から揚げちょうだい」
勇は剛に自分のお弁当を差し出した。剛はから揚げを手で掴むと、口に入れた。
「あっ!一番、大きいのを食ったな」
「食べていいって言ったの、勇だろ~」
二人が言い合っていると、吉見がやってきた。
「何、いちゃついてるんだよ。皆が見てるぞ」と吉見が言う。
二人が周りを見渡すと、複数の女子のグループがこっちを見て、騒いでいる。
「…よっしーのお昼はそれ?」
吉見はバナナとまるごとバナナを持っている。
「おやつかよ」と勇が言う。
「何を言う!立派なお昼ご飯じゃないか」と言い、吉見はバナナの皮を剥いて口に入れた。
「それで?何の話をしてたんだ?」と吉見が勇と剛に聞いた。
「恋愛における付き合うことの定義について」と勇が言う。
「何、その哲学的な話?お昼休みにする話題?」
「吉見はどう思う?」
「そうだな。バナナで例えると、バナナが好きで気づいたらずっと3食バナナみたいな感じか」
「お前がバナナを好きなことは分かったよ」と勇は呆れた声で言う。
「…剛、お前、考えすぎなんだよ」と勇は剛に向かって言った。
「勇は良いよ。好きな相手が異性なんだから」
「まぁ、男同士の恋愛で付き合うって、難しいよな」
「あ、やっぱり、アレじゃない?セックス」と吉見が言う。
「お前なぁ…」と勇は吉見をこづいた。
「…やっぱり、そうなるのかな?」と剛は勇と吉見を見て言った。
勇と吉見はお互いに顔を見合わせて剛を見る。
「え?…お前、まさか、まだしてないの?」
「相手があの彩世さんなのに?」
二人から散々な言われ方をされ、剛は「じゃあ、勇はどうなんだよ?」と言ってしまった。
その瞬間、場の空気が重くなり、沈黙となった。
「勇、悪い」と剛はすぐに謝った。
「いいよ。俺も言い過ぎた」と勇が言う。
「その話は終わりにして、早く食おうぜ。昼休みが終わっちゃうぞ」と吉見が言い、三人はその後、急いでご飯を食べた。

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