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#10 いざ!京都へ

『この電車は三河安城駅を定刻通りに通過しました。次の名古屋駅にはおよそ9分で到着します』と新幹線のアナウンスが流れる。
剛は新幹線のアナウンスで目が覚めた。新幹線の車内は修学旅行でテンションの上がった生徒たちの楽しそうな声で溢れていた。その声が混ざり合い、剛の耳に入ってくる。
「よく眠れたか?」と聞き覚えがある声に通路側を見ると、彩世の顔があった。
「彩世さん⁉どうして、ここに」
「いやぁ~奇遇だな」と彩世が笑顔で言った。
「いやいや、奇遇な訳ないですよね?」
剛は思わず立ち上がり、彩世をまじまじと見る。彩世は左ポケットに学校のシンボルマークが入っている白いシャツとグレーで薄くチェック柄が入ったズボンを履いていた。
「学生服?」
「お店の奴に借りたんだよね。似合う?」と彩世は剛に微笑んで聞いた。
「似合うというか…何でここにいるんですか?」
「今年の冬にクラブ「哀」を大阪に出店するって彩乃が言い出して、視察に行くことになってね」
「わざわざ、同じ時間に乗る必要ないでしょ?」
「冷たいなぁ。少しは喜んでくれると思ったのに」と言い、彩世は席から立ち上がった。
「じゃあ、またな」と彩世は口角を上げ、手を振りながら奥の車両へと消えていった。
近くで見ていた女子は彩世が去った後、「今の人、超カッコよくない?」「イケメン!」と騒ぎ立てた。しばらくすると、金髪で耳にたくさんピアスを付け、黒のロングソックスに白のラバーソウルを履いた女がやってきた。
「柴咲、どこ行ってたんだ?」と剛が聞く。
「夢の国」と柴咲が答えた。
「は?」
柴咲は、剛の隣の席に座った。目の前にあるホルダーからお茶のペットボトルを出して飲んだ。
「いや~…彩世さんも夢幻さんも2人ともカッコよかった。いいなぁ~剛、あんな人たちと知り合いなんて」
「俺はお前の適応力の方がスゴイと思うけど。普通の人は怖いんじゃないかな。ああいう人たち」
「確かに彩世さんは、不良学生って感じだったな。腰パンでチェーンをジャラジャラつけてた」
「俺が言ったのは、そういう意味じゃないんだけどな」
「私たちは高校生だから、直接的に害はないでしょ?お金を出させることしたら、犯罪になるし」
「確かに。でも普通とは感覚が違う人たちだからな」
「夢幻さん、面白くていい人だったよ。彩世さんは優しかったし」
「そうだな。別にホストをやってる人たちが皆、ダメって訳じゃないからな」
「そうそう。見た目で判断されるなら私もダメな部類だから」
「その自覚はあったんだな」
「まあね。でも、自分の好きなものも主張できない方が辛いと思うから」
「俺はお前が羨ましいよ。俺は自分が好きなものがわからないから」
「剛も見つかると思うよ。少なくとも、彩世さんのことは好きなんでしょ?」
「…そうだな。なんか、改めて人に言われると恥ずかしいかも」
「…別に急いで考える必要もないし、ゆっくり考えなよ」
「ああ。サンキュー」


 彩世はグリーン車に戻ってきて、黒髪に緑のメッシュが入った髪型の男を探して、隣に座った。
「夢幻、俺にも缶ビールちょうだい」
「…彩世さん、その姿じゃ、お酒飲めないですよ。まさか、喫煙室に行ってないですよね?」
彩世は自分の着ている服を見る。
「途中で煙草吸おうとして、喫煙室に入ったら『君が来るとこじゃない!』って怒られたんだよね」
夢幻は片手で顔を覆いながら、言った。
「…どうします?トイレで着替えてきますか?」
「あと1時間もかかんないだろ。我慢する」
「じゃあ、俺が代わりに飲んじゃいますね。ぬるくなったら不味いし」と言い、夢幻はビニール袋から500mlの缶ビールを出した。
「…学生は大変だな。酒も飲めず、タバコも吸えず、どうやって憂さを晴らしてるんだろうな」
「まぁ、大人でもお酒も飲まないし、タバコも吸わないって人もいますからね」
「俺は耐えられないけどな」
「俺も無理です。じゃあ、彩世さんはウーロン茶で」
夢幻は彩世にウーロン茶のペットボトルを差し出す。
「かんぱーい」
彩世と夢幻は缶とペットボトルを合わせた。夢幻は缶ビールを傾けて、美味そうに飲んでいる。
「夢幻。新大阪で起こして」と彩世は言い、目を閉じた。
「ラジャー」と夢幻は言い、再び缶ビールを飲み始めた。


『新大阪~新大阪~』
新大阪駅に停車した新幹線からスーツ姿のサラリーマンと思しき男たちに紛れて、彩世と夢幻も降りた。
「彩世さん、どこで着替えますか?」
「駅のトイレは汚そうだから、デパートがいいな」
「分かりました」
彩世と夢幻は新幹線の改札を通り、阪急百貨店に入り、トイレへ向かう。
「俺はここで待ってますから」
「ああ」
彩世はトイレに入り、個室で服を着替えた。彩世は着替えついでに携帯を確認する。メールが8件来ていた。その中に諭からのメールがあった。すぐにメールを開く。
『来週の水曜は空いてるか?』諭から最初に貰ったメールに比べると、だいぶ淡白なメールだった。
『空いてる。』と彩世が返した。すぐに諭から『了解。こないだと同じ場所で。』とメールが返ってきた。
彩世は『了解。』と打ち返して、トイレから出た。
「なんかあったんですか?」と夢幻が聞いた。
「何で?」
「なんか嬉しそうに見えますよ」
「そうか?」
彩世は夢幻に微笑みながら答えた。

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