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懐かしい感覚

普段読むのは、エンタメ系の文芸小説ばかりで、純文学には手を出せていないのですが、先日、又吉直樹さんの「劇場」を買いました。
又吉さんのYouTube、【渦】を見てるうちに、読みたくなって。
ああ、やっぱり純文学と一般文芸は、明らかに違う。ずぶずぶと引きずり込まれていく感じ。読んで行くと言うより、見せられているような妙な感覚。あまりにも人間がありのままに描かれている。

この感覚、何だろう。懐かしい。
そうだ、学生時代に読んでいた、中島らもの小説だ。中島らもの小説を読んでいるときの、あの、何とも言えず、人間をのぞき見してしまっているような罪悪感。

内容はほとんど忘れてしまったのだけど、その感覚はすごく残っています。
妙な世界を覗き見たような……。

学生の頃は、小劇場でお芝居を見るのが大好きでした。消防法に引っかかりそうな、避難通路も確保されてなさそうな雑居ビルの一室の桟敷席に、たくさんの観客が押し込まれ、小さな座布団だけ渡され、床に座るのです。
人気で客が皆入りきれない時は、「せーのー、」の掛け声で、ぎゅーぎゅーと詰めていき、定員って何だっけ、状態で、約2時間の芝居を見るのです。

大好きな劇団の中に、中島らもさんの劇団「リリパットアーミー」もありました。演目内容は全く覚えていないけれど、めちゃくちゃ面白かった。

らもさんが舞台に出て行くと、若い観客たちがそれだけで目を輝かせる。
「あんたらな、これから俺がなんかおもろいことすると思ってるやろ。おれな、そう言うの嫌やねん。期待通りの笑いを取るのとか、いややねん」っていう。
客はそれをも面白がって笑うんだけど、きっとそれはらもさんの、本音のようなものだったんじゃないかなと、その時感じたんです。

又吉さんとらもさんは、まったく関係ないのかもしれないけれど、「劇場」を読んでいて、どうしようもなくあの遠い日の事が思い出されました。

あと半分、ずぶずぶ引き寄せられながら、読もうと思います。