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アンコールを、いつか

てかさ、映画好きなんだね、あんた」


自分なりに整頓したテレビ横にある棚を指差す。

「なんか前より増えてるような気がする」
「よく気づいたな」

「定期的に来てるからわかるよ」

そう言って棚を物色する。

その後ろ姿にあの子の影が重なる。
「映画のエンドロールって最後まで観る?」

彼女にそう質問した。

急な質問に驚いたのだろう。

どうしたの?

と振り返った彼女は笑っていての姿は、あの子とは違っていた。

「なんとなく聞いてみた」

「ふーん」

再び彼女は棚を漁る。

「これは面白そう」

彼女は棚から一本のDVDを手に取る。

棚が少し崩れる。

これ貸してよ、と言うので、いいよ、と答えた。

「あのさ」
どうして彼女にこんなことを訊くのかわからない。

「人のことを心の底から好きになれないとかさ、好きっていう感覚がわからない、って思うことはある?」

は?と彼女は言う

「なんか自分でもよくわからないけど、昔多分これが好意って感覚なんだろうなって人の顔が誰かといる時、女の人といる時に浮かんだりする」

「じゃあ、私といる時もあるってこと?」

うん、と正直に答える

なるほどね、と彼女は言ってDVDをバックにしまう。

「それわかるよ。私も」

「え?」

「彼氏といる時、あんたのこと思い出すことたまにあるよ」

「あんたとは正反対なの。彼は結構心配してくれるの。大丈夫とか頑張りすぎじゃない?とか」

「けど、優越感に浸るの」

彼女は悪戯に笑う。

「あんたみたいな男が彼氏じゃなくて、よかった、って」

思わず笑ってしまう。

傷つくことに慣れていると感覚が麻痺してしまう。

「それで、あんたが好きだった子はどんな子だったの?」

彼女が尋ねる。
僕はあの夕日に照らされた後ろ姿を思い出す。

「エンドロールを最後まで観る子だった」

そっか、と彼女は言う。

もう連絡先も知らない。

高校卒業後、何をしているのかもわからない。

でも、どこかで期待してしまっている。

このまま生きていれば、もう一度偶然会えるんじゃないかって。

目を瞑って、過ごした日々を思い出す。

エンドロールは流れない。

だからアンコールが始まる。

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