21年間の人生で聴いてきた邦楽(全2,280曲) 全曲レビュー その5

いま、私のSpotify「お気に入りの曲」には、2,280曲が登録されています。これについて、一番古いものから順に、全部言及します。


#41 完璧な一日 - あるぱちかぶと

一人の(現在から見れば平成的と言えるかもしれないような)人生を5分余りで駆け抜けるリリック。間奏から先が、制作時点でのあるぱちかぶとの実年齢を超えた部分となっている。

高校時代の描写がとても短く、一瞬で通過していくことに、16歳当時の僕は励まされていた。

腐らず矛盾に耐えて偶然を愛せたならきっと必然に愛されるさ

これは20代前半時点でのあるぱちかぶとの出した答えなのだと思う。あるぱちかぶとは、学生生活の最後に渾身の一作を世に問うた後の音楽生活上の長い沈黙を、予定し、覚悟している。

いま、不世出のラッパーはこのバースに何を思うのだろう。まもなく38歳になるあるぱちかぶとがこの曲を演るとすれば、かれの楽曲から多くを受け取った一人のファンとして、とても嬉しい。

#42 頭" - あるぱちかぶと

今日までの二十年は一本の稲妻

この秋の初めに20歳が終わって、このバースが頭から離れなかった。「濁った頭」というタイトルに託されたものについて考えている。

面白い知らないことや解さないことの足音が
舌を溶かし歌詞溶かす 昨日の胸を叩く喜びや鉄のような悲しみ
交々抱き抱え泣き疲れた子供のように眠り込む僕は
次の朝 この毎日を泣きたいくらいに深く愛したくなる

あるぱちかぶとは、きっとものすごく闘っていたのだと思う。世界を高い感度で感受する詩人は、傷つきやすい。「濁った頭」を「それこそが僕の」と引き受けるあるぱちかぶとの闘いを僕は強く受け取る。

#43 12月.2012年にクリスマスが終わる - DOTAMA×ハハノシキュウ

わりといいアルバムだとは思う。4月もよい。

#44 タイム・トラベル - スピッツ

原田真二のカバー。松本隆の歌詞が際立つ。草野の声がよい。「日の暮れる頃」の入り方がとくによい。

#45 Rain - 秦基博

これもカバー。お気に入りではこちらが先に登録されていたが、歌がうますぎるきらいがある。大江千里の歌唱の方がよい。ただし秦版は「きみの街じゃもう」の「もう」の倍音感、「小さめの傘もささずに」の「さ」の発音がよい。本家では「ずぶぬれでもかまわないと」の「かまわないと」などに重なる楽器の音がとてもよい。歌詞は「路地裏では朝が早いから」の順接がよい。「口笛ふくぼくがついてく」が印象に残る。

#46 なぜか埼玉 - さいたまんぞう

どうにもならない あなた
あきらめないで アアー 二人の埼玉
なぜかしらねど ここは埼玉
どこもかしこも みんな埼玉

故郷の歌があり嬉しい。埼玉とはまさにこのような無思想の空間だった。

#47 後者 -THE LATTER- - スチャダラパー

みんなが認める人
みんなを認める人

がよい。

#48 青い車 - スピッツ

心の落描きも踊り出すかもね

の「かもね」が少し意地悪でよい。このあたりをしっかりと聴いていくと、単なる爽やかな歌ではなく、楽しい。パーフリが解散した時のスピッツのコメントが「やっぱりね。」のただ一言だったことが重なる。

#49 電車かもしれない - macaroom, 知久寿焼

たまのオリジナルの曲はSpotifyでは聴けないからこちらを追加したのだと思うが、この版もよい。

ここに今ぼくがいないこと誰も知らなくて

ということはなかなか言えないし(修辞技術の卓越というよりはむしろ不可視の存在への感受性の問題である)、

ほら 寂しい広場では
まるで算数を知らない子どもたちが砂を耳からこぼしているよ

の、不気味ながらも愛おしいシーンがとてもよい。

#50 ラブリー - 小沢健二

追加した段階ではほとんど聴いていなかった。『LIFE』の楽曲群の中では腑に落ちるのが最も遅く、少し前に出社前の電車内で聴いていたら急に耳に入ってきて、それから熱心に聴くようになった。

LIFE IS A SHOWTIME
ベルが鳴るような
こんなスリルが僕らを刺すのさ
夜が深く長い時を越え

なぜあまり聴いてこなかったかと言えば、それはつまりおそらく、歌詞の底抜けの明るさの背後に空恐ろしき躁を感じてしまっていたからであり、そういうアッパーな情緒が徐々に自分の中に準備されてきてやっと音が耳に俄然入ってくるようになったのではないかと思う。そのような精神状態が自分の中に生まれたことを感じる。夜が深く長い時を越えて。


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