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ぐるぐる話:第25話【気付のビール】  @2015


ちょちょちょっと・・・待っておくれ・・・美花さん・・・さっきからね、あなたの話を聞いてたら・・・なんかこう・・・胸のあたりがざわざわしてさ・・・少し息が苦しいようなんだよ・・・まだお食事の仕度できてないけど、ちょっと気付にビール一本飲ませてもらってもいいかい?


美花がほほ笑みながらうなずくと、木綿子はバッグの中から取り出した財布を手に廊下にある自動販売機へと向かった。するとすぐさま、さっきまでスマホを手にうつむいていた杏が美花のそばへ・・・肩が触れそうなほど近くに腰を下ろした。




ねえ・・・美花さん・・・っていうことは・・・美花さんは・・・その・・・花音ちゃんと美花さんは・・・その・・・もしかしたらスターピープルっていうことなの?そういうこと?




杏は美花の顔をのぞきこみながら、こわごわと問いかける。


うん!そうだよ!あかつきのてらで、たましいがいれかわったの!だからそのひからママとかのんはスターピープルなんだよ!ね?ママそうでしょ?ママそうやっていったよね?



花音が美花にかわって元気よくこたえた。美花はうなずき花音の小さなあたまを撫でながら言った。



ええ・・・そうなの。私達はふたりともスターピープルで・・・あら?そんなことより・・・杏さんったら、スターピープルって何気なく普通に言ってるけど、その話ってどこかで聞いたことあるの?それとも、どなたかお知り合いに同じような方が・・・?


杏がうなずく。そして口を開こうとしたとき、木綿子がビール2本を手にニコニコしながら部屋へもどって来た。黙る杏。体がふれそうなほど近づいていた杏と美花は、お互いににっこりとほほ笑みで合図をするようにして話は終わった。



なんだい?なんだか二人してずいぶんとピッタリとくっついちゃって・・・内緒話でもしてたみたいじゃないか・・・あたしも混ぜとくれよ!その内緒話に・・・



木綿子の言葉に杏は立ち上がり、さっきまで座ってスマホをいじっていた場所にふたたび腰を下ろすと、両足を投げ出し壁に背中をあずけた。



はい!お待ちどうさま!ひとりで飲むのもなんだか寂びしいから、美花さんもいっしょに・・・どうぞ・・・あなたたちはジュースね・・・



美花に缶ビールを杏と花音にジュースを渡しながら、木綿子はイタズラっ子のようにウィンクして笑った。



プシュッ!っとふたりして缶をあけ、向かいあって乾杯を交わす。のどが渇いているのか、それとも話の内容が衝撃的過ぎたのか、木綿子はゴクゴクと音を立てながらビールを飲んだ。



はーーー。やっぱり旅先のビールっていうのは美味しいもんだね・・・どこにいたってビールの味なんか変わるわけないのに、上げ膳下げ膳、よそ様がこさえてくれたご馳走を頂戴しながら飲むビールほど美味しいもんはない!ね?!美花さんも小さな子を育てながら何かと慌しいだろうから、旅先のビールとか食事って大げさかもしれないけど、ホント幸せに感じるでしょ?


はい・・・ほんとに・・・おっしゃる通りです・・・。うちは主人の仕事が不規則なので、やっぱり・・・こうして家のこと何もしないでのんびりできる時間って、幸せに感じるし・・・本当にゆったりして気持ちがゆるんでいくのを感じています。でも、今この時も、まだ主人は仕事場で一所懸命に仕事をしている・・・そう考えると、少しだけ罪悪感あるんですよね・・・



さっきまで色とりどりに見えていた紅葉は、もう闇の中に溶け込んでしまい、そこに本当に存在してるのか、目を凝らしても見えないくらいに、窓の外には濃紺の世界が広がっていた。



そう・・・・・あなたはいいお母さんだし、いいお嫁さんなんだと思うわよ。そんな風に旅先に来てまで、旦那さんを思いやることができるなんて、わからずやだから家出してきた・・・なんて言ってたけどね・・・でも・・・きっといい奥さんなんだろうな・・・ってそう思う。あなたの話ね・・・さっきのほら!あのスターなんちゃらって話・・・それとご主人のわからずやってのは、何か関係あるのかしら?



そう言い終えるとふたたび美味しそうにビールを飲む木綿子は、あっという間にそれを飲み干してしまった。その様子を大げさに驚くような素振りで見ていた美花は木綿子の言葉にうなずきながら、ふかふかの座布団の上にもういちどきちんと座りなおす。



どこから話せばいいのか・・・杏のほうはすでに知っていることもありそうだけれど、木綿子のほうはスターピープルという言葉すら知らなかったし。


いちばん最初から順を追って話すのがいいのかもしれない・・・それにひょっとしたら、木綿子さんだって気がついていないだけで、私たちと同じスターピープルなのかもしれないし・・・。


お腹の底まで届きそうなほど大きく深呼吸をする。そして、木綿子と同じように、美味しそうにビールを飲み干すと、一枚板でできた頑丈そうな座卓に空になったビールのアルミ缶をそっと置いて木綿子の瞳をじっと見つめた。



第26話へつづく

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