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ぐるぐる話:第11話【いつものやつ】 @2116




第11話【 いつものやつ 】


柚が隣の部屋で仲居のすみれに浴衣を着せてもらい部屋に戻ってきた。
『ただいまーーー!』とはにかみながら部屋に入ってきた柚の顔は、嬉しさと恥ずかしさが入り混じった子どもらしい表情だ。



「ではこれにて失礼いたします。お食事はお部屋にて6時からご用意しますので、どうぞよろしくお願いいたします。」



すみれはそういうと、丁寧に一礼し部屋を出て行った。



「さあさ!全員そろったし、ここはやっぱりアレやっとこうかね?」



すかさず柚が嬉しそうな顔をして全員の顔色をうかがった。
母の麻子は、別段驚きもせずにどうでもいい・・・というような顔つき。
姉の杏は面倒くさいな・・・と言いながらもまんざらでもない様子。


すると木綿子はニコニコしながら言った。


「じゃあ、今日のお題は何にしようかね?そうだ!せっかく素敵な浴衣を着せてもらったんだ・・・ゆかたってのはどうだい?もちろん文字制限はなしで!」


「いいよ!いいよ!それ大賛成!5・7・5じゃなくてもいいってことだよね?それならカンタン!柚が優勝だと思うな!」


はしゃぎながら、柚が顔の前で大げさに手をたたく。


「じゃ、思いついた人から披露しようか?」


と木綿子・・・。


たちまち麻子が右手をあげて言った。


「ゆったりと きせてもらえば
 かりものの ひまわりうれし
 たびじのかえでや

どう・・・?これは柚のうた・・・なかなかよくない?」


一同そろって拍手はするが、実際のところは上の空。
早くお題をクリアしようと、頭の中では文字の大運動会だ。

続いて木綿子の手があがる。


「ゆあがりに せすじものびる
 かたいぬの えりひらくよは
 たいこのおもい・・・

どうだい?なかなかじゃないかい?」



「なにそれ?木綿子さん、どういう意味?意味がよくわからないよ・・・」



柚が不満そうに詰め寄る。



「え?意味かい?うーん・・・何ていえばいいのか・・・柚はもうあれかい?その・・・あの話は・・・もう知ってるのかい?」



「え?何?あの話って?何の話のこと?」



「え・・・?いやだね・・・まったく・・・あの話つったらあの話だよ・・・その・・・あれさ・・・まぐわいのことだよ・・・」



「え?まぐわいって何?知らないよ!そんな言葉はじめて聞いた!」



するとそこで今まで黙って聞いていた麻子が口をはさむ。



「母さん・・・まぐわいってさ・・・一体全体いつの時代の言葉なのよ・・・今どきはそんなん死語よ死語!柚・・・まぐわいっていうのはさ、
あれよ・・・エッチすることを言うのよ・・・」



「あぁー!なんだ!セックスのこと言ってるの?なんだ・・・そっか・・・セックスのことを古い言葉でまぐわいって言うんだ・・・なんか面白い言い方だね・・・木綿子さんったら・・・なんだか昔の人みたいだね・・・・・まぐわい・・・まぐわえ・・・まぐわうとき・・・まぐわわねば・・・まぐってみんしゃい・・・まぐかっぷ・・・なんちゃって・・・ははは!」



「こら!柚・・・やめなさい!もうそんな・・・あからさまに・・・何度も『まぐまぐ』言うんじゃないよ!はしたない!聞いてるこっちのほうが恥ずかしくなっちまうよ・・・ったく・・・」


「わかったよ・・・わかった・・・そんで・・・だから・・・木綿子さんの今の句はさ・・・どういう意味なの?」


「え・・・?わかるだろ・・・?そのさ・・・今晩あたり・・・そろそろかもしれない・・・って晩にさ・・・ピシッと糊をきかせたかたい浴衣を身につけてね・・・その・・・殿方を寝床で待つんだよ・・・そうするとさ・・・なんだか遥か太古の昔から、その殿方とずっと赤い糸でつながっていたような気がする・・・っていうそんな意味だよ・・・」



「へえーーーー!木綿子さんって、やっぱりロマンチストなんだね?」


柚が感心しながら木綿子さんにしなだれかかる・・・。


そこで今までずっと考え込んでいた杏が白い腕を高々とあげた。



「ゆうぐれの かぜつめたさに
 かんしゃくも どこかにきえる
 たのしいたびじ

いいでしょ?季語ないけど・・・」


「あらあら・・・いいじゃない!?句の通りホントに癇癪を収めてくれたら、なおいいんだけどね・・・」


と釘を刺すようにチラッと杏を見ながら言う麻子の目は笑っていない…険悪な雰囲気にならないよう大慌てで柚が手をあげる。



「はい!はい!はい!あたしもできた!
ねねね!柚もできたから聞いて!聞いて!

ゆっくりと とまっていけば
かぞくみな えがおになって
たのしくなった

ね!?どう?!いいでしょ?」


「いいね・・・柚も・・・だんだんと楽しく遊べるようになってきたね?
じゃあ・・・全員詠んだところでそろそろお湯をいただきに行こうかね?」


「そうね・・・ゆっくり浸かって美味しくビール吞みたいしね・・・」



木綿子と麻子の会話で、女4人はそれぞれタオルと着替えを手に、宿のスリッパを素足にはいた。
藤色のふかふかしたカーペットの上をスタスタとスリッパを引きずりながらお湯場にむかって歩く様子は、まるで女学生の修学旅行のようだった。




【次回へつづく】



次回・・・第12話はこちらの方が物語を紡いでくれます。
どうぞ皆さまお楽しみに!



アセアンそよかぜさん
バトンタッチ・・・あとはよろしくお願いします♪


おしまい


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