嫉妬と妄想の結末
「嫌なら今からでも断るよ」
そんな台詞を口にする男性が世の中にいるとは思わなかった。
女の気配なんてほとんどない彼が、急に「今週末、高校時代の知人と飲みに行くことになったよ」と報告してきた。
そしてその後に「実はその相手、女子なんだけど嫌?」と一言補足した。
私は「もう約束しちゃったんでしょ?久し振りなんだし、行ってきたら?」と答えながらモヤモヤしていた。
よくよく聞くと、その女子と会うのは高校卒業以来で、6年振りくらい。
SNSで久々に繋がったことをきっかけに飲みに行く話に発展したらしい。
・・・二人で。
彼はお酒が好きだし、誘ってきたのは相手側からみたいだし、下心はなかったのだと思う。
私にそこまで詳細に説明しないでとりあえず飲みにいってしまう、と言う道も選べたのにそうしなかった辺りからも下心のなさは伺える。
しかし、相手はどうだろう。
30歳の独身女性。
久し振りに再会した高校時代の男友達。
彼は大学進学を機に実家を離れたので、その後一度も会ったこともなければ一緒に飲むのも初めてだと言う。
ここから私の妄想がはじまる。
彼女は高校時代、一緒に宿題をやったりする仲だった彼が気になっていた。
しかし、受験もあるし無事に受験が終わると彼は県外の大学に行ってしまう。
気になってはいたが、何もないまま離れてしまった。
それから数年が経ち、久々にSNSで彼を見付けた。
偶然にも、社会人になり自分も彼も上京していることが分かった。
しかも、彼はまだ独身。
少なからずなにかが起こるかもしれないと期待しながら、飲みに行こうと誘ってみると即答で返事が来た。
新たな恋の予感、である。
ここまで妄想して、私は彼がこの彼女と運命的な再会を果たし、私に別れを告げることを覚悟の上で彼をその飲みの場に送り出さねばならない、と考えていた。
せめて飲みに行く前に現時点で彼女がいることを伝えてもらい、彼女の期待を裏切っておくことも考えた。
しかし、そんな言葉にたいした抑止力がないことを私は知っている。
一度惹かれあってしまった男女の前では、そんな言葉なんて無意味だ。
いつかこの日に彼を止めなかったことを後悔する日が来るのではないか。
そんな考えの一方で、今回止められたとしても結局遅かれ早かれ彼と彼女は運命の再会を果たしてしまうだろう、とも思った。
だいたい今までお付き合いした男性は、そんな感じで新しい女性が現れるといとも簡単に浮気をしたり、二股をかけたりして最終的には私の元を去って行った。
男性は新しいものが好きなのだ。
そして、どんなに頑張ってもがいても、運命の流れに逆らうことは難しい。
なんてあれこれを思い悩んでいた私の考えを察してか、彼が私に投げかけたのが冒頭の一言だった。
そして、彼はあっさりとその彼女との約束を仕事を理由にキャンセルした。
「そんな時間があったら、二人で一緒にいる方が楽しいしねー」
と言う神がかった言葉と共に。
まさかそんな台詞を口にする男性が世の中にいるとは思わなかった。
私の中では絶滅危惧種に指定してもいいのではないかと思うレベルだ。
まして、そんな珍しい男子と自分がお付き合いする日が来るとは、夢にも思わなかった。
そんな私的には目からウロコな、嫉妬と妄想の、とても平和な結末のお話。
(いかに私の男運がなかったのか、という話でもある)