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2020年4月に読んだ本

年が明けてからほとんどマンガしか読めていなかったのですが、4月になって急に「読める!活字が読めるぞ!!!」というモードに入ったので、色々な本を読むことができました。

三島芳治『児玉まりあ文学集成』

まだ活字が読めないモードのときに読んだマンガ。文芸オタクに刺さりそうなマンガを読みたいな〜と思って探していたら見つけたのがきっかけ。ばっちり刺さりました。語彙が豊富な女の子と、ストーリーを考えるのは得意な男の子の話。

登場する作品は外国文学が多く、日本語作品ばかり読んできたと僕にとっては馴染みの薄い作家・作品が多かったのですが、元の作品がどんなものかとても気になりました。また積読が増えてしまう……。

春場ねぎ『五等分の花嫁』

ポケモン実況者のライバロリさんが面白いという話をしていたし、前から気になっていたので読みました。

物語は、結婚式の日のシーンから始まります。結婚相手の女性は、どうやら五つ子のうちの一人らしい。そして時間は遡り、とある勉強ができない五つ後のもとに、貧乏な高校生が家庭教師として派遣されて……。といった内容。

読み始めるとめちゃくちゃ面白くて、一気に読んでしまいました。この手のラブコメとして、僕は『いちご100%』がめっちゃ好きなのですが、それと同じような感じかつヒロインが最初から5人いて、とっても大変。プロットの精緻さみたいなものはあんまりないですが、ラブコメとしての完成度が高い。めちゃ面白い。個人的には五月推しです!

伴名練『なめらかな世界と、その敵』

早川書房から出ている百合SFアンソロジー『アステリズム花束を』を3月に読了しておりまして。それもずいぶんと長い旅だったのですが、その中で一番面白いなと思ったのが伴名練さんの「彼岸花」でした。パンデミックものを思わせる偽史SFに、大正ロマンを思わせる美文が組み合わされた秀逸な作品。

そんな伴名練さんの『なめらかな世界と、その敵』も発売されたばかりの時に買うだけは買っていたのですが、なかなか活字が読めなかったので、つい先送りにしていました。

『なめらかな世界と、その敵』は短編集です。「2010年代、世界で最もSFを愛した作家。」という帯文の内容に違わず、どれ一つとして手を抜いていない短編が6作品収録されています。

表題作「なめらかな世界と、その敵」は、一人一人が複数の並行世界を生きるという設定の作品。最初は理解するのに少々時間がかかってしまったのですが、世界観を飲み込んでからは凄く面白くなってきました。

続く「ゼロ年代の臨界点」は、1900年代日本におけるSFの発展を取り扱った偽史論文。「美亜羽へ贈る拳銃」は、思考回路や性格が変わってもそれは同一人物と呼べるのか……という問題に挑戦したSF。書簡体で綴られる殺伐姉妹百合の「ホーリアーアイアンメイデン」、アポロよりも先にソ連が月面に着陸したIF世界を描く「シンギュラリティ・ソビエト」、そして、ほとんど止まっているようにしか動けなくなってしまった新幹線を取り扱った青春SFの「ひかりより速く、ゆるやかに」。以上の6作品が収録されています。

個人的には文体が面白い小説が好きなので、「ゼロ年代の臨界点」と「ホーリーアイアンメイデン」推しです。それから、「ひかりより速く、ゆるやかに」はSFとしても面白いのですが、青春小説としての純度が高い。

今後も読み返していきたい、おすすめの短編集です。

小川一水『ツインスター・サイクロン・ランナウェイ』

こちらも『アステリズムに花束を』関連。原案となるような短編小説が『アステリズム〜』に掲載されており、それが長編小説として出版されたとのことだったので購入してみました。

実は、短編の方では世界観についていくのにちょっと時間がかかってしまいました。都市型宇宙船とか、それを構成するいくつもの種族だとか、昏魚(ベッシュ)、礎柱船(ピラーボート)、デコンパ、ツイスタ、といった設定がてんこ盛りなので、この文字数の中で消化しきるのが難しかったんですよね。

そして長編としての『ツインスター・サイクロン・ランナウェイ』を読んで、やはりこの作品は長編向きのプロットだったんだなと実感しました。先に短編を読んでいたせいもあるとは思いますが、長編になると、字数が膨れたところの間隙を縫ってしっかりとした説明がなされ、一つひとつの事象に納得しながらページをめくることができました。また、エピソードが積み重なるからこそ、ラストのシーンもより感動的なものになっています。

短編バージョンと長編バージョンを読み比べてみると、共通のシーンも大幅に加筆修正が行われているので、どちらも読んでみると面白いかもしれません。

柞刈湯葉『人間たちの話』

なんと、ここまで3冊連続で早川書房の本です。SFに興味が出てきたところだったので、手が伸びてしまいました。

こちら短編集となっておりまして、表題作の『人間たちの話』をはじめとして、方法や雰囲気の異なる6つの短編が掲載されています。

ポストアポカリプス的な万年冬の日本で旅を続ける二人の少年を描いた「冬の時代」、監視することがYouTube的な娯楽になってしまった社会が舞台となった「たのしい超監視社会」、火星における生物の存在とその定義の恣意性がテーマになっている表題作「人間たちの話」、あらゆる星の人たちが食べられるラーメンを提供する店長の努力が微笑ましい「宇宙ラーメン重油味」、家に突然大きな石が現れた青年のモノローグで進行するちょっとシュールな「記念日」、透明人間の生活をこれでもかとリアルに描出してちょっと馬鹿馬鹿しい「No Reaction」。

それぞれに違う魅力を備えており、どれも面白い作品なのですが、個人的に推したいのは「宇宙ラーメン重油味」。人類とは身体を作っている物質が違う異星人のために、様々な材料を駆使してラーメンを作る店主がコミカルで面白いです。

表紙のイラストは、各短編に登場する人物が描かれていてとてもかわいく、こちらも気に入っています。

村田沙耶香『丸の内魔法少女ミラクリーナ』

村田沙耶香さんの最新刊『生命式』を読み終わったあとに、最近は他にどういうものを書いているんだろうと探したときに見つけた短編集。「魔法少女」というキーワードが気になって、読んでみることにしました。

表題作である「丸の内魔法少女ミラクリーナ」は、小学生の頃からの魔法少女ごっこがやめられない36歳女性の物語。会社で働いているときも、元気がなくなったらトイレにこもって変身の呪文を唱え、魔法少女ミラクリーナになることで機嫌よく元気に暮らすことができている。必殺技などが登場するので、1990年代以降の戦闘魔法少女の系譜でしょうか。村田沙耶香さんの作品としては『地球星人』でも魔法少女のモチーフが登場しており、「魔法少女」という概念がどのように受容されているかについての一つの手がかりになりそうだと感じています。

続く「秘密の花園」は、昔から好きだった男の子を監禁する話。「無性教室」はお互いの性別を知らずに3年間を知らずに凄く学生たちの物語で、最後の「変容」では、次々に現れる若い人たちの感覚についていけない女性の姿が描かれます。

初出が2019年である「変容」は、最近の村田沙耶香さんらしくかなりエッジの効いた批評的なスタンスが表れているように思いますが、その他の3作品は2013〜2014年に描かれたということもあってか、少々優しい世界観に感じました。

水野学×山口周『世界観をつくる 「感性×知性」の仕事術』

くまモンなどを生み出したクリエイティブディレクターの水野学さんと、最近Twitterで気になっている山口周さん対談本。水野さんの本は他にも『センスは知識からはじまる』や『いちばん大切なのに誰も教えてくれない段取りの教科書』などを読んで面白いなと思っていたので、今回も手に取ってみました。

内容としては、世界はだんだん「モノ消費」から「コト消費」になっていっているよねとか、「役に立つ」ことよりも「意味のある」ことが重要になてきているよね、という内容。そういう流れはなんとなく感じていたし、他の人が言っているのも目にしていたのですが、それを実例を交えて話しているのが面白いなと思いました。

ちょっと分厚い本ですが、文字も大きいし対談なのでサクッと読めます。

池田明季哉『オーバーライト――ブリストルのゴースト』

バンクシーなどを生んだことでも知られる、イギリスのグラフィティが盛んな街・ブリストルを舞台とした物語。日本人の主人公と、グラフィティの書き手(=ライター)との交流が描かれます。

物語における謎の出現や人々の衝突、そして解決までが丁寧な筆致で描かれており、なんというか少年漫画のように熱くなれる小説です。

バンクシーという名前は知ってはいたものの、グラフィティについてはほとんど何も知らなかったのですが、この物語を通じて興味がわいてきました。

大前粟生『私と鰐と妹の部屋』

この本が世に出たのは2019年3月で、僕はこの本を発売後すぐに買って読み始めたはずなので、なんと読了するのに1年以上もかかってしまいました。もちろん、その間中ずっと読んでいたというわけではなく、数ヶ月読まなかったり、同じところを読んだり、また初めから読み直してみたり、としているうちに、最後まで読むのに1年以上かかってしまったというわけなのです。その間、自宅や職場や鞄の中など、この本は僕の周りのいろいろな場所にいました。

2〜3ページほどの掌編がいくつも並んでいる本で、そのいずれにも「死の匂い」がひそんでいると僕は思っています。そしてその匂いは、後半になるにつれてどんどんと強くなっていく。

一番好きなのは、最初に登場する「ビーム」という掌編。

妹の右目からビームが出て止まらない。
流星群の日に、ふたりで「かっこよくなりたい」と流れ星にお願いをしたからだ。

書き出しからしびれます。

宇野常寛『遅いインターネット』

宇野さんが遅いインターネット計画の話をしているのはTwitterで見かけていて、しかし本を読むまでには至っていなかったのですが、せっかく活字が読めるようになってきた & とあるところで人が勧めているのを見たと という感じだったので、買って読んでみました。

東京オリンピックの話から民主主義の今後について語られ、それがSNSやポケモンGOの話にいたり、やがて吉本隆明の論考を参照しての話に進んでいきます。

言っていることのわかる部分とわからない部分があり、さらにわかる部分に関してもその解像度はバラバラなので、吉本隆明の書物をはじめ、参考文献に挙げられている本を気になるものから読んでみたいなと思いました。

小野美由紀『ピュア』

本日4冊目の早川書房。noteで20万アクセスを集めたことで話題だったらしいのですが、そういうことはよく知らず、刊行情報をTwitterで見かけて面白そうだったので読んでみました。短編集です。

表題作の「ピュア」は、女性が人工衛星に住み、セックスをした後に男を食わないと妊娠できなくなった世界のお話。地球に住む男たちとセックスをして食べることを、女性たちは「狩り」と読んでいる。全体的にグロテスクななのですが文体には軽やかさと透明感があり、それが不思議な干渉を生み出しているように思いました。

「バースデー」は、夏休み明けに親友の女の子が急に男になっている話。先ほど紹介した村田沙耶香『丸の内魔法少女ミラクリーナ』の「無性教室」と少し似ているところがあるなと思いました。

「To the Moon」は、月に帰ってしまっ異形の友人との邂逅を果たすというお話で、「幻胎」はホモ・サピエンス以前に栄えた人類の冷凍保存された精子を使って新たな子どもを産み出そうという設定。そして「エイジ」は、「ピュア」の前日譚となっています。

性別や社会制度という問題にSFという道具立てで立ち向かって行こうとするのは、先ほども名前を出しましたが村田沙耶香さんと似た方向性を感じます。とても面白かったので、他の作品も読んでみようと思いました。

平野啓一郎『私とは何か 「個人」から「分人」へ』

芥川賞作家の平野啓一郎さんによる新書。彼の小説の中にも登場する「分人」と「分人主義」について語られている本です。

厳密な議論があるわけではなく、分人主義についての印象とそれが活用できる場面について提案として書かれているような本です。内容は平易なので、サクッと読めると思います。

ざっくり書くと、これまではそれ以上分けられない単位としての「個人」を基準としていたが、対する人々によって異なる人格を「分人」として捉え直すことで、唯一の「本当の自分」というようなものがあるのではなく、各分人の割合でその人の人格は決定されるのだ、というような内容です。

小説の方はまだ読んでいないので、ぜひ読んでみたいなと思います。

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