2020年読んで良かった/印象深かった文芸作品

この記事は、文芸アドベントカレンダー25日目の記事です。考える時間はたくさんあった方が良いと思い。いの一番に最終日に登録しました。メリークリスマス。

テーマは「2020年読んで良かった/印象深かった文芸作品」ということで、去年の終わりくらいから使い始めた読書管理アプリ「ビブリオ」を眺めながら、いくつか作品を紹介していきたいと思います。なお、2020年に発表/刊行されたわけではない作品たちも含みますので、あしからず。

大前粟生『私と鰐と妹の部屋』

先日、『文藝』2020年冬季号に中編「おもろい以外いらんねん」が掲載された大前粟生さんの短編集。一つひとつのお話が短くて、2〜3ページくらいの作品が53編掲載されています。

2019年6月に刊行されてすぐに買って読み始めたのですが、実は読了したのは今年の4月。ほぼ1年かけて読み終えました。それも、直線的に読んでいたわけではなく、最初に戻って読んでみたり、時には途中のページを開いて読んでみたりして、じっくりゆっくりと読んでいました。なんだか、読み終えるのが勿体ないような気がして。ずっと本棚の中にいるのではなく、自宅の作業机の上だったり、職場のデスクの上だったり、本当に1年中いろんなところにいた本だったなあと思います。

大前さんの文章はどこまでも優しく、しかしその底には冷徹な批評性が潜んでいるように感じられます。それは「おもろい以外いらんねん」でも発揮されていますが、この『私と鰐と妹の部屋』では、優しさと批評性のアンビバレンスな感じがより生のまま提示されているように思います。

などと書きましたが、最初から妹の右目からビームが出る話などが出てきてめちゃめや面白いので、まだ買っていない人は読みましょう。出版しているのが、過去に文学ムック「たべるのがおそい」を刊行していたり、現在も福岡で「本のあるところ ajiro」という本屋を開いていたりと、個人的に好きな書肆侃侃房であるところもポイントです。

米沢穂信『儚い羊たちの祝宴』

今年の2月に、知人からとあるYouTube動画を紹介されました。その名は「世界一のゆっけ」。お時間のある方は、まずは以下の動画をご覧ください。

「何系のYouTuberですか?」と聞かれたら「飲酒系YouTuberですね!」としか答えられない彼女。「朝の覚醒酒を飲みます!」と言いながらレモンサワーをぐびぐびと飲みます。覚醒酒。パンチのある言葉です。お名前を「酒村ゆっけ、」さんと言います。Twitterにも楽しい飲酒の模様が上がっていたり、寄稿記事(おすすめの映画とかの)の掲載ツイートをされていたりするので、ぜひフォローしましょうね。

さて、そんなゆっけさん(「、」があると文章の可読性がやばいことになるので省きますね、すみません……)が動画の中でおすすめの本として紹介していたのが、米澤穂信『儚い羊たちの祝宴』。米澤穂信さんといえば『氷菓』シリーズが有名ですが、僕はアニメでしか見たことがなく、原作は未履修。というわけで、『儚い羊たちの祝宴』が米澤作品デビューとなりました。

いずれも登場人物の異なる5つの作品を集めた短編集なのですが、それぞれの作品に共通するモチーフとして、お嬢様読書サークル「バベルの会」が登場します。そういう繋がりを楽しむのも良いのですが、何より個々の作品が抜群に面白い。ジャンルを考えるのであれば、恐らくミステリー小説となるのでしょうか、それぞれの作品に謎が与えられ、その内容を早く知りたいという気持ちが、物語を読む推進力となります。

本って好みがあるので、種類によって勧める人を選ぶのですが、この作品はもしかすると万人におすすめできるかもしれない……。ゴシックホラー的な怪奇要素もあり、物語の終末部でミステリー的なカタルシスを味わうことができます。しかもこのカタルシスが強烈で、たとえるなら落語の「サゲ」の意味を理解したときのような気持ち良さがあります。

まあ、百聞は一見に如かずなので、ぜひみなさんも買って読んでみてくださいね。

カツセマサヒコ『明け方の若者たち』

Webライターとしてキャリアを積んできたカツセマサヒコさんが、2020年6月に刊行した初の長編小説。

僕はずっとインターネットのことが大好きなのですが、その中でもカツセさんのことが凄く好きなんですよね。たぶんファンは女性の方が多いと思うのですが、ツイートにぎゅっと凝縮された、あのサブカル大学生っぽさがめちゃめちゃ好きなんですよ(と書かれることを本人は嫌がるかもしれませんが……)。インタビューとかも読んでいると、Twitterに対してめちゃめちゃ真剣なんですよね。そこも好感が持てます。

それと並行して僕は小説が大好きだったわけなのですが、カツセさんが小説を刊行すると。これはもう買うしかないですよね。でも、僕の中には少し不安がありました。もしこれで、ぜんぜん面白くなかったらどうしよう……。カツセさんは、インターネットの中の王子様で居ていただいくままの方が良いかもしれない……。

なんて思っていたのですが、完全に杞憂でした! めちゃめちゃ面白い!!

小説の言い回しにはカツセさんらしさが発揮されていて、ちょっと気取った比喩が多用されています。もしかしたらそういうのが苦手な人もいるかもしれませんが、僕にとっては、その一つひとつがどれも心地よいものでした。なんというか、描写する度に毎回ツーベースヒットを打っていく感じ。そして時たま「おい!なんだよ!!ふざんけんなよ最高かよ!!!!!」みたいなホームランを打ってくるのもさすがなわけです。

構成もかなり考え抜かれている感じがあり、最後までページをめくる手が止まらないタイプのエンタメ小説。読んでください!!!!!

森見登美彦『四畳半タイムマシンブルース』

僕が初めて森見登美彦作品を読んだのは、高校2年生のとき。古本屋で買った『夜は短し歩けよ乙女』を、寝る前に少し読もうと思って布団の中でめくり始めたのでした。

気がつくと時計の針は午前3時を指していて、本を読み終わった僕はそれまで感じたことのないような興奮の只中にいました。こんなオモチロイ本がこの世にあったなんて。その日から、僕は森見ワールドの虜になってしまったのです。

『四畳半タイムマシンブルース』は、森見登美彦さんの代表作である『四畳半神話体系』のスピンオフ作品。というか、コラボレーション作品です。コラボしているのは、京都の劇団・ヨーロッパ企画の代表作である「サマータイムマシンブルース」。映画化もされているので、そちらを見たことがあるという方も多いのではないでしょうか。僕は映画版を夏が来る度に見ています。

「サマータイムマシンブルース」の作・演出を務めたヨーロッパ企画主宰の上田誠さんは、アニメ『四畳半神話体系』の脚本も務めています。このアニメ、本当に最高なんです。まだ見てない人がいるんですか? 今すぐ見てください。

とにかく、この二人の相性が抜群であることは既に証明されていたわけですね。だから僕は、最高の期待感を持ってこの作品に臨みました。もちろんめくちゃ面白かった!

『四畳半神話体系』も「サマータイムマシンブルース」も、僕の青春を形作ってきた大切な作品。その二つがコラボしているんです。おもしろくないわけがないんです。コラボならではの仕掛けに、顔がニヤニヤとゆるみっぱなしで止まりませんでした。他にも良い本はたくさんありましたが、今年最も幸福な読書体験を選ぶとしたら、『四畳半タイムマシンブルース」を置いてほかにありません。

おわりに

という感じで、2020年読んで良かった/印象深かった文芸作品を紹介しました本当はもっと紹介したい作品はあって、挙げ出したらキリがないのですが、12月25日中に更新することができなくなりそうなので、この辺りで。

来年は本を100冊以上読むぞ! という俗っぽい目標を立てて頑張っていきたいと思います。まあ、この目標はかれこれ10年くらいずっと変わっていないのですが……。

それではみなさま、良いお年を。


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