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モーツァルト効果の影響力

1993年に,モーツァルトの曲を聴くと「頭がよくなる」のではないか?という研究が行われて,世の中に広く知られることになりました。たぶんこのNatureに掲載された論文のことでしょうか。1ページだけの非常に短い論文(というか記事)です。

音楽心理学ことはじめ

このことは,『音楽心理学ことはじめ』という著書の中でも書かれていました。今回はその一節を紹介してみたいと思います。

3つのグループで比較

この論文の中では,どんなことが行われていたのでしょうか。本の中の説明部分を引用します。

1993年に行われた,大学生がモーツァルトのソナタを10分間聴くか,10分間のリラクセーションの教示を聞くか,10分間静かな場所で座っているかした後で,空間推理課題を行うという研究がその始まりでしたモーツァルトを聴いて10分から15分以内にその課題を実行した学生たちは,リラックスしたり静かに座っていたりした学生たちよりも空間推理の得点が高かったのです。(p.17)

3つのグループが用意されて,空間推理の課題を実施すると,モーツァルトの曲を聴いたグループが一番成績が良かった,という研究結果です。なんといってもNatureに掲載された研究ですので,それだけでもインパクトは大きそうです。

ただし

ただし論文をよく読むと,いくつかのポイントがあることがわかります。

 子どもたちの知能について親の不安があり,西洋の規範で芸術家や音楽家には特別な才能があるという広まった考え方がある中で,その研究計画の詳細は,道に迷ってしまいました。その研究は子どもを対象にしたわけでも,一般的な知能を測定したわけでもなく,著者たちは,モーツァルトを聴いた効果は15分後には消滅すると注意深く記していたのですが,一般大衆のこころの中では,モーツァルトが子どもたちを賢くするということを科学が証明したと思われたのです。

なのに,この研究は「子どもにモーツァルトの曲を聴かせると,知能指数(IQ)が上昇する」という話に変わっていってしまいます。

そして,こんなことも行われるようになっていきました。

 こうした成果を享受するのに熱心だったジョージア州の知事は1998年に,クラシック音楽のCDを州の新生児のすべての親に配布するよう手配しました。フロリダの議会は州立の保育所で公費でクラシック音楽を毎日流せるようにすることを提案しました。こうした善意の取り組みは,空間推理課題の短期的改善が一般的知能をあらわし,大学生がよちよち歩きの幼児をあらわすと受け取られた解釈上のずれに基づいています。なぜこうしたことが起きたのでしょうか。

話が広まるときは要注意

ここから得られる教訓は何でしょうか。

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