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合格と不合格のカットオフポイント

年々,インフルエンザの流行る時期に入試をしなければならないのはリスクが大きいように思えてきました。受験生も試験監督側も,無理をして集まって余計に感染を促していく場所になってしまいそうです。

海外のように9月入学ならこの時期に受験をしなくてもいいかもしれないとも思いましたが,どの季節でもそれぞれ問題になることが出てきてしまいそうだな,とも思います。

予防投与

受験日近くに流行するインフルエンザについては,タミフルの予防投与ということもけっこう行われていると聞きます。

とはいえ,実際にどれくらい効くのかなあ,と少々疑問に思うのも確かです。この記事にも書かれているのですが,発症48時間以内にタミフルを飲むと,何も飲まない患者よりも,平均して回復が「1日早まる」ことが効果として認められるそうです。

一時期,首から下げるタイプのウイルス防止グッズが流行ったことがありました。ぶら下げておくとウィルスを防止するとか......効果はどうなのでしょうか。そういえば「入試会場では首から下げないでください」とアナウンスしたことがありました。

視点を変えれば

受験生にとっては,入試は一大関心事です。合格するか不合格かで,人生は大きく変わってしまうかもしれません。

しかし,立場が変わるとその現場の見方も少々違ったものになります。今回は,合否を決める側から見てみるとどうなるかを考えてみたいと思います。なお,あくまでも架空の例であって,具体的などこかの大学のことではありません。

合格する人数

定員が200人のある私立大学の学部があるとします。たいてい私立大学は定員の半分くらいをAOや指定校や附属や一般の推薦試験で満たすことが多いので,この学部も残り100人の募集です(全国の平均がそうなっています。もちろん大学や学部によってこの比率や試験の内容は違います)。

そこに600人の受験生が入試にやってきました。試験を終えて,採点をします。マークシートは機械で読み取り,筆記問題があれば大学教員が採点します。

コンピュータに得点が入力され,合否を決める資料が出来上がりました。

さて,皆さんなら何人を合格にしますか?

「100人を合格にすれば良いのではないのですか?」と思うでしょうか。日本国内で,100人合格して100人全員が入学してくれるような大学は,圧倒的に少数派です。

合格する人数と入学する人数

大部分の大学とくに私立大学では,合格を出しても全員入学してくれるわけではありません。なぜなら,多くの受験生はほかに行きたい大学の希望を持っているからです。あるいは,大学内で他の学部と併願していることもあります。そして,両方合格すれば別の学部への入学を選択するかもしれません。「この大学には通いたいけれど,あの学部とこの学部に合格したら,あっちの学部の方に行きたい」という選択をするわけです。

合格者のうち入学してくれる比率のことを,「歩留まり率」と言うことがあります。どれくらい留まってくれるかという言い方ですね。

多めに合格

そこでたいてい,過去の実績を考えながら,入学してほしい人数よりも多めに合格者を出すのです。これも,入試の時期や大学によって状況はずいぶんと違います。多くの私立大学であれば,たとえば歩留まり率が50%を超えれば「多くの受験生が選んでくれる」という望ましい状態で,場合によっては30%とか20%しか入学してこないという場合もあります。

もしも歩留まり率が30%なのであれば,合格者を100人だけ出していると,そのうち入学が期待される人数は30人です。これでは,とても入学定員を満たすことができません。

そこで,合格者を多めに出すということをするわけです。歩留まりをだいたい3割と見越して,100人の入学者に対して300人の合格を出します。すると,受験者数600名で合格者数300人になりますから,この入試の倍率は2倍ということになります。

入学者の予測

入学者の予測をもっとうまくやればいいのではないか,と思われるでしょうが,それがなかなか簡単ではありません。100人の入学者に対して300人の合格者を出したとしても,毎年の状況の変化によって,入学者の人数はコロコロと変わってくるからです。

たとえば予備校の受験偏差値で上位の大学が合格者の人数を絞り込んで結果を出せば,その大学を落ちてその下に位置するとされる大学(大学の序列がどうやって決まっているのかというのは難しい問題ですが)に入学を希望する学生は増えますし,その逆のことも起こります。

日本のどこかで自分のところと内容が重なる新しい学部学科ができれば,それも予測に影響してきます。

その大学で行われた何かの研究が話題になったり,卒業生が注目されたりすることで,突然受験生の人気が上昇して,入学手続き者が増えることもあり得ます。

もしかしたらネット上で別の大学のよくない噂が流れて,その大学への入学をためらう人が一定数出ることで,こちらの大学への入学者が増えるかもしれません。

入学者の予測は本当に難しいのです。

線形ではない

さらに,合格をどのレベルで出すかによっても,入学者の割合は変わってきます。

どういうことかというと,高い得点を取る受験生は受験偏差値上でより上位の大学にも合格する確率が高く,そちらの大学に入学する可能性が高くなります。その一方で,得点が低い受験生はこちらの大学が第一志望である確率が高く,合格すれば入学してくる可能性が高くなるというわけです。

全体で「歩留まりが30%」といっても,どの得点帯の受験生も30%の確率で入学してくるわけではないのです。得点が高い受験生では数%,低い受験生はほぼ全員が入学してくるということもあり得ます。

カットオフポイント

合格不合格を決めるときには,こういったことをあれこれと考えて,最後は直観的に「ここだ!」と決めるしかありません。過去のデータはある程度役に立ちますが,不規則な外部の要因まで考慮に入れることはとても難しいことです。

また,合格点を1点ずらした時,そこに受験生が1人しかいなければ合格者は1人増えたり減ったりするだけです。でも実際には数人,下手をすると数十人が同じ点数をとって並んでいます。すると,合格点を1点ずらすと合格人数が20〜30人も上下してしまって,うまくちょうどよい人数で合否を出すことができない,という事態に陥ることもあり得ます。

さて,このように人数が集まっているときには,どちらを合格点にすればよいのでしょうか。本当は300人を合格にしたいのに,高い点を採用して290人を合格にするべきなのか,低い点を採用して310人を合格にするか……もうこうなったら,コインでも投げて決めたくなってしまうかもしれません。

ターゲットの縮小

以前は「定員の1.3倍くらいまでは入学してもOKですよ」という話でした。ということは,入学者が100人から130人のあいだであれば大丈夫だったので,その幅を見越して「これくらいだろう」と合格者を出していたわけです。

ところが近年,それを「1.2倍にしなさい」「1.1倍にしなさい」「定員を超えてはいけません」という話に変わってきています。「定員の1.0倍からから1.1倍のあいだにしなさい」といわれても,うまくその範囲に入学者をおさめることはとても難しいのです。それまでは「100人から130人くらいならいいよ」と言われていたところを,「100人から110人の間でおさめなさい」というのは,大きな的をめがけて投げていたのを急に小さな的にしなさいと言われるようなものです。

定員を下回るのは問題ないのです。問題になるのは,予想以上に入学してきてしまうことです。大学にとって,予想以上に多くの入学者が来てくれることはむしろ嬉しいことなのですよね。それだけ選ばれたわけですから。ところが実際には,予想以上に入学者が来ると問題になってしまいます。その段階で「ごめんなさい,定員をオーバーしてしまったので来ないでもらえますか?」とは言えません。入学式にやってきた学生は,たとえ予定した入学者数をオーバーしても受け入れるしかありません。

そこで対策方法としては,合格者を少なめに絞り込むことがよく行われます。入学者が少ない分にはセーフだからです。先ほどの例のように,290人と310人という合格者の選択があるのなら,290人の方を採用するというわけです。そして,人数が足りなくなりそうになったら「追加合格」を出すという方法をとります。少ない方向には安全で,多い方には危険なのですから,この方法がもっとも合理的な対処方法になります。

しわ寄せは

そして,このしわ寄せは受験生の方に向かっていきます。

これまでは合格していたであろうレベルの受験生が,予想外に不合格通知を受け取ることになったり,いったん不合格で別の大学に進学しようと考えていたところに「追加合格」の通知が来て慌てることになったりするかもしれません。

いったいどのあたりに最適解があるのでしょうか。どういうシステムで大学への進学をするのが良いのでしょう。


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