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腐るのはリンゴかカゴか樽なのか

私たちは誰かが倫理的ではないと思われる行動をすると,その行動をした本人を糾弾しがちです。たとえその行動をした人が,その状況でその行動をせざるを得ないような場面に身を置いていたとしても,それでも「その人がそういう人じゃなければそいうことはしないはずだ」と考えがちです。

原因を考えるということは,とても危ういものです。なぜなら,検討すべき情報をすべて手に入れることなどできないからです。航空機やスペースシャトルの事故が起きると,その原因になり得ることをすべて列記して原因を探っていきます。そういういう事例を見ると,多くの人びとの労力と時間をかけて,やっと真実だろうという原因にたどり着くものだということが理解できます。

飛びつく

ところが,私たちが手にすることができる情報は,事実の中のほんの一部分だけです。見ていない部分,見えない部分,もう二度と自分の前に現れないような情報は山ほどあるのですが,見ている範囲だけで「これで十分だろう」と考えてしまうものなのです。

私たちが原因を考えるときには,まるで「これだ」と決めた原因に飛びついていくようなものです。

バイアス

そして,不確かな情報の中で原因を求めていくことから,私たちが何か原因を求めるときには,その結果を歪ませるさまざまなバイアスが関与します。

たとえば,状況の影響よりもその人の性質や能力を過剰に見積もってしまうことや,自分に有利なように認識してしまうこと,自分の視点や知識に左右されてしまうことなどが頻繁に起こってしまうのです。

悪い奴らをやっつけろ

そういうことも背景にあって,私たちは何か「悪いこと」をする人たちのことをなかなか許すことができません。そのようなことをする状況や境遇,そこまでに至った生育背景や歴史的背景,人間関係,教育などのことにはあまり目が向かず,「この人はこういう人だから」と考えて糾弾しがちです。

こういう問題に対して,何か答えや示唆を与える研究というのは成立するのでしょうか。

この問題そのもののに答える研究ではないのですが,倫理に反する行為にどのような要因が影響するかを検討した論文があります。

腐ったリンゴとかごと樽

それはこの論文(Bad apples, bad cases, and bad barrels: meta-analytic evidence about sources of unethical decisions at work)です。

この論文で注目するのは,企業内の倫理的ではない意思決定です。そして,そのような意思決定に影響する要因を大きくわけて3つの領域から検討しています。その3つとは,個人の要因,道徳の要因,そして組織環境の要因です。

論文のタイトルには,「apple」「case」「barrel」が出てきます。「bad apple」は,集団に悪影響を及ぼす人物のことも指す俗語です。「case」は,入れ物という意味もありますし,事例という意味もありますが,「変わり者」という俗語もあります。そして「barrel」は,液体を入れる樽を表しますが,たくさんのものが入るイメージでしょうか。ということで,これらの単語が「個人」「道徳」「組織」を表しているということのようです。

個人の要因としては,道徳面での発達,理想主義,相対主義,マキャベリアニズム,統制の所在,職務満足,性別,年齢,教育歴などが扱われています。また道徳的な要因としては,結果の大きさ,結果が生じる確率,結果までの時間の短さ,犠牲者との近さ,影響や結果の重大さや全体的な道徳性の強さなど,そして組織の要因としては利己的な雰囲気,寛大な雰囲気,倫理的な文化などが扱われました。

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