見出し画像

選択を変えたほうがいいですか?

まずは,次の問題について考えてみましょう。

 とあるゲーム番組に出て,3枚の扉から1枚を選べるとしましょう。そのうち1枚の向こうには車があり,それ以外の向こうには山羊がいるとします。扉を1枚選びます。それを1番としましょう。すると,扉の裏に何があるか知っている司会者が,別の扉,たとえば3番を開きます。そこには山羊がいます。司会者は「2番の扉に変えたいですか」と言ってきます。扉を変えるのは有利でしょうか。

Let's Make A Deal

この問題は,とある雑誌のQ&Aコーナーに投稿された質問なのですが,おそらく元ネタとしてはLet's Make A Dealというテレビ番組にあるようです。そしてこの番組の司会者であるモンティ・ホールから,この問題は『モンティ・ホール問題』と呼ばれています。

この番組をYouTubeで見てみると,当時の番組の雰囲気はよくわかると思います。現金が飛び交い,商品のCMがどんどん出てくる,テレビ番組に勢いのある時代の雰囲気がよくわかります。

動画を見ると分かるのですが,開けるのは扉じゃなくて「カーテン」ですね……。また,3枚の扉のうち2つに山羊がいる,というシチュエーションは番組の中ではなさそうです。投稿された問題は,番組の一場面を簡略化したものだということもわかります(動画を見て初めて知りました)。

ちなみに番組内でお金が飛び交いますが,当時は1ドル360円です。500ドルくらいが飛び交っていますが,当時の日本円で18万円。日本の大卒初任給が月給3万円台だったと考えると,イメージしやすいでしょうか。それだけの金額なのですから,それは喜びますし番組に出たいと思いますよね。

モンティ・ホール問題

というわけで今回は,このモンティ・ホール問題というゲームの話だけで書かれた1冊の本を紹介したいと思います。タイトルは『モンティ・ホール問題 テレビ番組から生まれた史上最も議論を呼んだ確率問題の紹介と解説』(ジェイソン・ローゼンハウス著)です。

2013年12月に出版された本で,amazonの履歴を見ると私は2014年早々にこの本を購入していました。でもずっと積ん読状態になっていて,最近やっと手に取ったというわけです。読み始めるとすぐなのですが,そこまでが長い……。

選択を変えるべきか

さて,最初の問題について,もう一度考えてみてください。最初に選んだ扉をそのまま選んでおくべきなのか,変えるべきなのかという問題でした。もう一度,本の中に書かれている正式な問題の形にして,最初の問題を確認してみましょう。

あなたは同一の扉を3枚見せられる。そのうちの1枚の裏に車がある。他の2枚の裏には山羊がいる。あなたは扉を1枚選ぶように求められるが,すぐには開けてはいけない。それがすむと,どこに車があるかを知っているモンティが,残った2枚の扉の一方を開く。モンティは必ず,はずれだとわかっている扉を開き,選択の余地があるとき(あなたが最初に選んだ扉の裏に車がある場合)には,開ける扉をランダムに選ぶ。はずれの扉を開いた後,モンティはあなたに,まだ開いていないもう1枚の扉に変えるか,元の選択にとどまるか,選ぶ機会を与える。そこで選んだ扉の向こうにあるものがもらえる。どうすればいいだろう。

単純に確率を考えてみてはどうでしょうか。3つの扉から1枚を選ぶのですから,最初の段階で自動車が後ろにある確率は1/3です。司会者がそのうち1枚の扉を開けたところで,残りの扉は2枚です。ですから,残った2つの扉それぞれの後ろに自動車がある確率は半々で,1/2と1/2の確率でしょう……。

ところが正しい確率は1/2と1/2ではない,というのがこの問題の難しいところです。今選んでいる扉の裏に自動車がある確率は1/3のままなのですが,残ったもう1枚の扉の裏に自動車がある確率は2/3になってしまいます。

大混乱

さて,1990年のことです。『パレード』という名前の雑誌でQ&Aのコーナーをもっている,マリリン・ヴォス・サヴァントのもとに,最初に示したこの問題が送られてきました。1番を選んだとして,「2番に変えますか?」と尋ねられたときに,変えるべきでしょうかという質問です。

彼女はそこで「変える方がいいでしょう」と回答するのです。

そうですね,変える方がいいでしょう。1番の扉で勝つ可能性は3分の1ですが,2番にすれば3分の2の可能性があります。扉が100万枚あるとしましょう。そこから1番を選んだとします。するとどの扉の裏に何があるか知っている司会者が,必ず商品がある扉は避けて,777777番の扉以外のすべてを開けます。文句なしにそちらに変えるでしょう?

そして,この回答が大騒ぎを巻き起こしていきます。一般の人たちだけでなく,プロの数学者たちも,「この回答は間違いだ!」と反論の投書をしたり,回答を糾弾する記事を学術雑誌に掲載したりしていくのです。ヴォス・サヴァントが反論をしても,火に油を注ぐような状態になっていきます。

もっとも,プロの数学者でさえ,モンティ・ホール問題にうっかりひっかかってしまうことがあるのは理解できる。確率論や統計学について本格的に訓練を受けた人にとってさえ,これは実に直観に反する話なのだ。次章で見るように,20世紀の一流数学者の1人,ポール・エルデシュほどの人物でさえ,問題を取り違えただけでなく,しばらく正しい答えを認めようとしなかった。スタンフォード大学の傑出した数学者パーシー・ディアコニスは,モンティ・ホール問題についてこんなことを言っている。「自分の最初の反応がどうだったかおぼえていない。それほど昔から知っているからだ。私も多くの人々に混じってこれについて論文を書いてきた。しかし私は,自分が類似の問題に対して最初は間違った反応をしたことが何度もあったのを知っている。私たちの脳は,確率の問題をうまく処理するようにはできていないので,間違いがあっても私は驚かない」

彼女は「全国の学校で実験してみてください」とコラムに書き,本当に全国の学校で確率がどうなるか,先生たちが実験をしはじめます。またコンピュータによるシミュレーションも行われたり。そして,彼女が正しいということが次第に認知されていきます。

それだけこの問題は直観に反していて,簡単に納得することが難しい問題だったということです。今ではこの問題を解説するYouTube動画もあったり。でも,ちゃんと納得できるでしょうか。

納得できますか?

さすがにこの本を1冊読んでいけば,手を変え品を変え説明されていきますので十分に理解できると思うのですが,ぜひ納得できるまで考えてみてください。

ポイントは,司会者はどこに自動車があるかを知っていて,かつ必ず「自動車が後ろにはない扉」を開けるというところです。自動車がある扉を開けてしまったら,そこでゲームは終わってしまいます。

ちなみに,もしも司会者もどの扉の後ろに自動車があるかを知らずに,適当にランダムに残りの扉を開けるなら,確率はまた変わってしまいます。この「司会者が知っている」という行為者の意図が確率に関与する,という点も,直観に反するポイントかもしれません。

この本ではモンティ・ホール問題を題材に,そこから当然ながら条件つき確率やベイズの定理についても触れられ,さらに心理学や哲学の研究も紹介されていきます。ひとつの問題から,とても幅広い話題へとつながっていったことが実感される1冊でした。心理学の研究を紹介する章では,日本人研究者の名前も出てきます。ぜひ本の中で確認してみてください。

ここから先は

0字
【最初の月は無料です】心理学を中心とする有料noteを全て読むことができます。過去の有料記事も順次読めるようにしていく予定です。

日々是好日・心理学ノート

¥450 / 月 初月無料

【最初の月は無料です】毎日更新予定の有料記事を全て読むことができます。このマガジン購入者を対象に順次,過去の有料記事を読むことができるよう…

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?