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基準関連妥当性の外部の基準とは何か

私自身が行っている研究領域から,何らかの心理尺度を新たに作成したり,海外の尺度を翻訳したりすることを試みている論文の査読が回ってくることが結構な頻度であります。「○○尺度の作成」とか「××尺度の開発」といった内容の論文です。

心理学(すべての領域ではないですが)では,この「尺度開発」がひとつの重要な研究のステップになっていまして,何かの概念を測定する尺度が開発されると,そこからそのツールを使っていろいろな研究が行われていく,という流れになっています。

使われるのは一部

とはいえ,開発されたはいいものの,ほとんど使われない尺度,というものも結構あります。その「尺度開発」の論文だけでつくられて,そのあとでどこにもその尺度が使われない……というのが,いちばんよくない(と私が思っている)ケースです。

心理学の研究の一環として作成される者だとはいえ,そこで作られるのは道具ですので,「道具は使われてなんぼ」だと思っています。できれば,世界中で多くの研究者に使ってもらえるような尺度を開発したいものです。

収束的妥当性と基準関連妥当性

査読をしていて気になるのは,「妥当性」についてです。特に,「○○妥当性」といったように,妥当性にはいくつかの種類があります。

いちばん混同されやすいのは,「収束的妥当性」と「基準関連妥当性(特に併存的妥当性)」ではないかと思います。どちらも,作成した尺度と他の何かとの関連(相関係数)で,妥当性が示されます。

今回はそれを整理してみようと思います。

収束的妥当性

収束的妥当性は,英語でconvergent validityと言います。この言葉について,出版社Springerの用語集を見てみましょう。このページです。

ここには,冒頭でおおよそ次のように書かれています(おおよその意訳)。

収束妥当性は,構成概念妥当性(construct validity)に対する証拠の一部である。収束妥当性の基本的な考え方は,関連する構成概念の検査どうしが高い相関を示すべきであるということにある。

収束的妥当性は,「概念どうし関連するもの」が,測定においても「互いに関連すること」を指しているというわけです。

基準関連妥当性は?

では,基準関連妥当性はどうでしょうか。基準関連妥当性は英語で言うと,criterion validityです。同じくSpringerの用語集を見てみましょう。

ここでも,意訳してみます。

基準妥当性とは,尺度の得点が外部のテストではない基準と関連する程度を調べることによる,テスト妥当性を確認する方法である。

ここでは,「外部の(external)」そして「テストではない(non-test)」と書かれているのですよね。つまり,質問項目と選択肢でできている心理尺度を作成するのであれば,基準関連妥当性の基準とは「心理尺度ではない」「外部にある」ものということになります。

結構,このことは曖昧にされているのではないでしょうか。だって,心理尺度どうしの関連を検討しているのに「基準関連妥当性を検証した」と書いている論文って,けっこうありますよ。

外部の基準とは?

では,外部の基準とは何でしょう。

新しい尺度として抑うつ傾向を測定する心理尺度を作成するのであれば,たとえば医師の診断という,「尺度以外」で「外部にある」つまり本人が自己報告で回答するわけではないような方法で集められた基準と照らし合わせます。

基準となるものは,たいてい「集めるのが大変」で労力や資源が必要なものになることが多いと言えます。その「大きな労力」がかかる情報を,心理尺度という「お手軽な方法」で代わりに得ておこうというのが,この背後にある考え方です。心理尺度で得られた情報を,この得るのに労力がかかって大変な情報と照らし合わせたときに,ある程度関連があって,十分に「代わりになる」と判断できるときに,「心理尺度で測定しても大丈夫だろう」と考えるというわけです。これが,基準関連妥当性の基本的な考え方です。

ですので,心理尺度どうしの関連を「基準関連妥当性だ」と言うのであれば,「わざわざ新しく尺度を作らなくても,もともとある尺度で測定しておけばいいじゃないか」ということになってしまうというわけです。

今回はちょっと専門的な内容でしたが,研究以外でも何かを測定するというときには考えておきたい問題です。たまにはこういう回もあるということで。

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