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人類の歴史は酔っぱらいばかり

皆さんはお酒を飲むのが好きですか?

近年,お酒に関する地理学や歴史学の本が何冊か出版されている印象があります。お酒を全く飲まない,という人もいますが,私たちには大きな影響を与えている飲み物でもあります。そしてそれは,歴史的に考えても,とても重要な飲み物です。

酔っぱらいの歴史

今回紹介するのはこの本です。タイトルもそのまま,『酔っぱらいの歴史』です。

石器時代から人は酒を飲んできた。シュメール人や古代エジプト人は何を飲んでいたのか。ギリシア人とローマ人とヴァイキングたちの宴とはどのようなものだったのか。蒸留酒があたえた衝撃とは。古代中国やイスラム圏、さらにロシア、オーストラリア、中米にいたるまで、酔っぱらいたちをめぐる人類史。

酒が欲しいから農耕を始めた?

お酒は植物から造られます。ビールなら麦やホップ,ワインならぶどう,ですよね。ということは農耕が不可欠に思えてきます。

ところが,ビールは農耕が始まるずっと前からあったという話があるそうです。そして,人類は酒を飲むために農耕を始めたのではないかという話もあるとか。

 だがビールは存在していたようなのだ。そしてもっと重要なことに,神殿ができるより前に,農耕が始まるより前に,ビールは存在していたようなのだ。するとここから,人類史に関するすごい説が導かれる。われわれが農耕を始めたのは,食べ物が欲しかったからではない——そこらじゅうにたっぷりあったのだから。われわれが農耕を始めたのは,酒が欲しかったからだ。

ビールの理由

どうしてビールを造るために農耕をはじめたのでしょうか。人類がビールを造り始めることの利点は,いくつかのものがあるようです。

1.ビールは熱が必要ではない
2.パンに含まれていない,人間にとって不可欠な栄養素であるビタミンBがビールに含まれている
3.発酵しているので効率的に栄養を得ることができる
4.蓄えておいて,あとで飲むことができる
5.アルコールが水を浄化して飲用可能にしてくれる
6.宗教に関連するなど,飲むことに文化的な動機があった

ビールをつくるためにはパンを焼くときのようにオーブンは不要ですので,これはつくる側には大きなメリットがあります。また,普通に熱を加えるだけでは手に入れることができない栄養素も,ビールにすれば手に入るという点も大きいですね。

また,缶ビールの表示を見れば分かるのですが,ビールのカロリー数は(ダイエットじゃない)コーラと同じくらいあるのです……はじめて気づいたときは驚きました。それだけ,栄養を摂りやすい飲み物になっているということです。

また,「水をどのようにして飲むか」という問題は,人類の歴史のなかでとても大きな問題です。たいていの場所の水をそのまま飲むと,お腹を壊してしまいます。でも,気軽に煮沸消毒をするわけにもいきません。そんなときの解決策のひとつは,発酵させてお酒にすることです。

そして,お酒を飲むことに関連する宗教的行事というのも,世界中に記録されています。この本の中にも書かれていますので,チェックしてみてはどうでしょうか。

船乗りの話

ここから別の本の話になるのですが,ビールやワインといえばこの本を思い出します。『図説「最悪」の仕事の歴史』という本です。

この中に,18世紀の船乗りたちの話が出てきます。でも考えてみれば,不思議な話です。海の上で何か月も過ごす船乗りたちが,しかも水を浄化する装置も載せていないだろう船の上で,どうやって過ごしていたのだろうという疑問です。

この本に書かれている内容は……

 とりあえず,水兵たちには“十分な食事”が1日に3回与えられていた。彼らの四角い食事用ブリキ容器には,見た目のまずそうな食事が,量だけはたっぷりと盛られていたが,メニューは1週間ほとんど変わりばえがしなかった。その食事の中心は塩漬けにして樽に保存された肉だったが,この肉は食べる前にまず真水につけておく必要があった。いっぽう炭水化物は,乾パンのかたちで摂取された。これは小麦粉と水で作られた長期保存のきくパンだが,いかんせんゾウムシがつくことが多いのだ。ムシがつけばたんぱく質は増えるが,決して食欲をそそる代物ではない。そして野菜は,水で戻した干し豆だけだった。
 たしかに,18世紀の労働者にすれば,この食事もわれわれが思うほど悪いものではなかっただろう。それでも,食糧に関する苦情について触れた海軍条例があるところをみると,船の厨房が必ずしも問題のない場所ではなかったようである。
 だが,唯一の喜びである酒だけはたっぷりと支給されていた。乗組員たちは1日につき,450グラムの乾パンと450グラムの干し肉,そして4.5リットル,つまりパイントグラスに8杯ものビールが与えられていたのである。だがこれは,たいしてアルコールの入っていない弱いビールで,本当に問題だったのは“グロッグ”のほうだ。
 乗組員は全員,1日に半パイントのラム酒の配給を受けていた。これに水を混ぜたものがグロッグだ。言ってみれば彼らは,アルコール度の低い8パイントのラガービールと,ラム酒のコーク割り12杯に匹敵する量の酒を胃に流しこんで仕事をしていたというわけだ。檣楼員たちは年がら年中酔っ払った状態で,策具を飛びまわっていたのである。(p.250-253)

というわけで,ほぼ毎日「酔っぱらった状態」で,海の上にいたというのが正しいイメージのようです。酒に弱い私には,とうてい勤められる仕事ではありません。

日本には私のように遺伝的に酒に弱い人がいるのですが,これはきっと「水をどうやって飲んできたか」という人類の歴史が関係しているのだろうなと想像します。アルコールで発酵して飲んできた地域と,沸騰させてお茶にして飲んできた地域(だからカフェインに強い人が多い?)ですね。

そういえば,映画『パイレーツオブカリビアン』に出てくる海賊たちも,ほぼ酔っぱらいばかりだという印象です……。水がないところでは,お酒を飲むしかないという状況が酔っぱらいを生み出しているということですね。

心理学の場合,アルコール依存や大量の飲酒に何が関連するのか,それらの問題をどのように抑制するのかという研究が多い印象です。もう少し,飲酒のポジティブな面に注目する研究があってもよいのかもしれないなと思うことがあります。

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